第四章 地盤固め

ガチャ073回目:階段飛ばし

 広々としたホテルの一室で目を覚ました俺は、ゆっくりと身体を伸ばす。

 昨日は途中で寝落ちしちゃったけど、オークションの盛り上がりは凄かったな。


 オークションは、希望価格が低い物から順番に開始される。

 その為か、昨日のオークションで俺が出品した目玉商品は、ほとんどが後ろの方に回されていた。なので結局、最後まで見守る事は出来ずに眠りこけてしまった。


 ただ、最初から中盤までは楽しく見る事ができた。まず序盤では、『綿毛虫の玉糸』のセット販売がしっかりと2割増しで売れてくれた。

 『黄金の盃』はまだ、研究所からの結果報告待ちだから出品出来ていないが、そう簡単には報告は来ないだろうな。……けど、どうせ近いうちにまた行くことになるだろうし、研究所には2、3個ほど無料で進呈して、壊しても良いと伝えておくべきだろうか?


 あと気になる点と言えば、『迅速』の値段が思っていた以上には伸びなかった。あれは、後に控える本命のせいというのもあるだろうけど、支部長には『お願い』の件があるからな。複数の大口の顧客が、購入の予約を入れている以上、伸びないのは仕方がないかもしれない。


 どんどん自分の出品物に、見た事も無いような価値が乗っかっていく様を見るのは楽しかったが、『金剛壁』辺りで限界が訪れていた。

 残りの『金剛力』『金剛外装』はどうなっただろうか。


「結局、全部売れたんだろうか?」


 『金剛壁』は意外な事に、当初の2倍近い値段で売れた。

 姉妹の話では、金剛シリーズは三次スキルではなく、別系統のスキルである可能性があるという。まあ、効果時間がやたらと長いしな。だから期待も込めての値段かもしれない。


 不意に、部屋に設置されている高そうなアンティーク時計を見る。7時前か……。

 いつも起床する時間と変わらなかったが、ここはダンジョンの傍にあるホテルだ。今日はゆっくりするのもありかもしれない。

 そう思っていると、携帯が鳴った。


「もしもし」

『おはようショウタ君』

「ああ、アキ。おはよう。今日はアキの番だったか」


 そうだった、モーニングコールが来るんだったな。

 携帯からは、少し小さいがマキやアヤネの声も聞こえる。


『そうだよーん。昨日はゆっくり眠れた?』

「もうぐっすり。でも途中で寝ちゃったからオークションは最後まで見れてないんだ」

『そっかそっか。じゃ、昨日のオークションの詳細は後で伝えるけど、全部売れたわ。だから、一部の売上金が協会とあたし達に入ったの。そのおかげで、君のランクは大幅に昇進決定。昨日の内に申請はしておいたから、君が来たらすぐにでも昇進式を行うわ。だから、今日は30分くらい早めに来てくれる?』

「ん。わかった」

『よろしく~』


 電話を切り、改めて時間を計算する。

 ……結局、いつもと同じ時間に出発することになりそうだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 いつもとは違う道に、少しばかり新鮮な気持ちを感じつつ協会に辿り着くと、入り口には縦看板が設置されており、デカデカと『祝! 初心者ダンジョン所属冒険者 昇進式!!』と記載されていた。

 大々的に行うような話をチラッと聞いたけど、身内でやるわけではないのか……。


 中に入れば横断幕、複数の協会からの献花まで。これも昨日の内に用意したにしては出来過ぎている。恐らく、今回の昇進式は以前から予定にあったんだろう。俺以外にも昇進を受けるであろう冒険者が、エントランスの中央に立っていた。

 それ以外の人達は端に避けていたので、俺はどうするべきかと立ち往生していると、アキがやって来て腕を掴んだ。


「ショウタ君もこっち。あそこの印の所に立って」


 カラーテープで×印が張られた場所に案内され、そこに立つ。

 共に並ぶ冒険者を見れば、初心者から一皮むけた様な青年や、中級に足を踏み入れたような風格を有する者まで様々だった。

 授与される俺達の前には、何人もの受付嬢が立っている。俺の正面はアキとマキだし、恐らく専属か、それに準ずる関係性のある受付嬢が立ってくれるシステムなんだろう。そんな彼女達を代表して、ハナさんが司会進行役を務めるようだ。


「それではこれより、『初心者ダンジョン』に潜る冒険者達のランク上昇授与式を行います! 名前を呼ばれた方は前へどうぞ」


 大々的とはそう言う事か。


 俺は特に知らなかったが、この日に昇格式が行われるのは皆知っていたらしい。あとでアプリで調べてみたところ、しっかりとココの協会のお知らせに記載されていた。


「次はEランクに昇格した~」


 そして昇格式は、ランクの低い順から呼ばれるらしい。

 Fランクへの昇格が3名。Eランクへの昇格が2名。そして俺の隣にいた冒険者が、Dランクへの昇格者として呼ばれていった。

 『初心者ダンジョン』だもんなー。Dランクって下から4番目だし、中級と呼ばれ始めるランクだ。ある意味このランクへの昇格が認められたら、『初心者ダンジョン』卒業認定と言っても差し支えないらしい。


「次、アマチ君。前に出なさい」


 俺の番が来たと思ったら、ハナさんではなく支部長から直々に呼ばれた。


「はい」


 大人しく彼女の前に進み、冒険者のランクバッジを取り出す。

 普段は鎧の内側に仕舞ってあるものだが、改めて見ても、Fランクのバッジは銅製で、非常に地味な色をしている。だがそれでも、2年以上ずっと見続けていた慣れ親しんだものだ。

 こいつとも、今日でお別れか。


「アマチ ショウタ君。あなたは短期間で当協会に多大な貢献を残しました。新種のレアモンスターを発見するだけでなく、新種のスキルを発見。更には多数のスキルをオークションに出品。それにより、第一協会主催のオークションは例年以上に盛り上がりを見せました。そんなあなたに相応しいランクを、ここに授与します」


 マキが支部長の後ろからさっと現れて、俺のバッジを新しい物と交換してくれる。

 金色に輝く、Aランク冒険者を表すバッジだ。


「あなたをFランク冒険者から、Aランク冒険者への昇格を認めます。これからも驕ることなく、精進していきなさい。そしてここに、『早乙女 愛希』『早乙女 真希』『宝条院 綾音』の3名との婚約も宣言します」


 支部長の発言に、協会内は静まり返った。冒険者は唖然としていたが、反対に受付嬢達は目を輝かせていた。


「以上を以て、昇格式を閉会します。皆さん、ご参加ありがとうございました」


 話は終わりだと踵を返す支部長と入れ替わる形で、アキとマキが走ってきた。

 

「ショウタさんっ!」

「ショウタ君!」


 2人を抱きしめると、割れんばかりの拍手と喝采、歓声と叫び声が協会内を木霊した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!


今日も2話です。(1/2)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る