ガチャ059回目:新たなる激突

「ご主人様、ドロップアイテムは引き続き私が回収いたします。ですので、狩りに集中して頂いて構いません」

「そう? ……じゃあ、お願いしようかな」

「アイラは優秀ですのよ!」


 そう言ってアヤネがアイラに飛びついた。アイラはアヤネを大事そうに抱えているし、一向に離れる気配が無い。


「……?」

「旦那様、アイラに抱きつきたいのでしたら、代わりますわよ」

「いや、そうじゃなくて。もしかしてそのまま移動するの?」

「当然ですわ。だってわたくし、お2人に比べて足が遅いんですもの。旦那様の全力について行けませんわ」

「それはわかるけど……」

「ご主人様、ご心配なく。私はこの状態でも仕事をこなせますので」


 そう言えば、2人が現れた時もアヤネは抱えられていたような……。

 じゃあ、アイラは主人を抱えたまま俺を追いかけ、アイテムを回収していたのか? しかも、姿を隠しながら? ……どれだけ優秀なんだ、このメイド。


「じゃ、狩りを再開するよ」

「承知しました」

「頑張ってください、旦那様!」


 いまいち気分が盛り上がらないが、とにかくやってみるか。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「これで……終わりっ!」


 100匹目。正確には、中断してから新たに54匹を倒した。

 すると、ゴブリンの死体から溢れ出た煙が、意思を持ったように動き出す。ああ、やっぱり素直に湧いてくれると気が楽だよなぁ……。あ、そういえば。


「2人はこれ、見えてる?」

「なんですの?」

「例の発生現象の事でしょうか」

「これが……?? ううん、よくわかりませんわ!」

「申し訳ありません。私も、はっきりとは見えかねます」

「なるほど」


 レベルも基礎ステータスも関係なしと。やっぱり、『運』が10以下だとほぼ見えないのか。

 そのまま何も言わずに追いかけると、いつもの様にマップの角へと到着した。


 その煙はどんどん膨れ上がり、中身のモンスターの形状にと至り始める。


「だ、旦那様。失望させてしまいましたか?」

「え、なんで?」

「だって、旦那様の仰る現象が、見えなかったものですから……」

「いやいや、俺はそんな事では怒らないよ」


 煙から『ホブゴブリン』が現れ、大きく叫ぶ。


『グオオオ!』

「うるさい」


 出オチさせるのにも慣れたもので、前回よりもあっさりと首を落とすことに成功した。

 うん、スキルなしでも一撃で倒せるほどのステータスになったか。


【レベルアップ】

【レベルが8から17に上昇しました】


 約150匹倒したことで、レベルが6から8に上昇していたんだが、9も上がってくれたか。

 その結果に満足しつつ、煙が噴き出したのを確認。俺はすぐさまタイマーを起動した。 


「鮮やかですわ。流石旦那様」

「見事な腕前です」


 2人から拍手が送られる。

 なんだかちょっとむず痒い。


 でも、アキやマキに応援されている時と違って、そこまでテンションは上がらなかった。ううん、モヤモヤする。そうして、俺が何も言わずに煙を見ているので、2人もそれに倣って黙って待ってくれた。

 そしてタイマーの7分が近付いてきた頃、急に湧き出ていた煙が膨張を始めた。


「!?」


 煙から距離を置き、武器を構える。


「旦那様?」

「次が来る。下がってろ」

「え?」

「お嬢様、失礼します」


 アイラはアヤネを抱えて一瞬で距離を置いた。何だ今の、移動の出だしが見えなかったぞ!?

 『身体強化』は俺の方が上なのに、4桁ステータスに加えて彼女の技量をまざまざと見せつけられた気分だ。彼女は、俺と比べるまでもない、遥か高みにいるんだろう。

 負けたくないな。


「……」

『グギャ?』


 ソレは、ゆっくりと煙から出てきた。

 体格はゴブリンと『ホブゴブリン』の中間といった所か。だが、そのどちらとも類似していない。

 まず装備だが、武器に長剣。全身は鉄のフルプレートで覆われており、隙間がほとんどない。まるで中世の騎士といった風貌だが、若干前屈みになっている姿勢の悪さは、ゴブリンそのものだ。

 そして内包する圧力だが、明らかに『黄金蟲』と同等、もしくはそれ以上だ。


 奴はこちらを吟味するように、兜の奥から鋭い視線を投げかけている。


「『鑑定』」


*****

名前:ジェネラルゴブリン

レベル:25

腕力:250

器用:220

頑丈:250

俊敏:180

魔力:300

知力:100

運:なし


装備:魔鉄の長剣、魔鉄の全身鎧

スキル:怪力Ⅱ、統率

ドロップ:ランダムな魔鉄装備

魔石:大

*****


「急に強くなりすぎだろッ!」


 このゴブリン、フルアーマー仕様の鉄装備に見えたが、『鑑定』の結果では『魔鉄』というものらしい。確かに普通の鉄と違って光沢があるように見える。

 ……これは硬そうだな。


『グゲゲ! グゲゲゲ!!』


 『ジェネラルゴブリン』は、俺から視線を外し、何かを見つけたように高笑いを始めた。

 その視線の先にいるのは、俺の後方。後ろに下がったアヤネとアイラがいる。……いや、明らかに、アヤネを見て醜悪な目で見つめていた。

 対峙している俺など眼中にないと言った様子に、言葉に出来ない不快感があった。


「あ? おい、お前……」

『グゲッ!』


 まさかとは思ったが、奴は本当に、俺を無視してアヤネ目掛けて走り出した。意表を突かれた俺は、対処が遅れる。

 追いかける為、振り向きざまにスキルを起動した。


「『怪力Ⅱ』『迅速Ⅱ』! 待ちやがれ!」


 加速状態から身体を回転し、『御霊』と『木霊』で勢いよく横殴りする。


『ギィン!!』


『グギァ!?』

「ちっ、ほんとに硬いな」


 『ジェネラルゴブリン』は不意の一撃に回避しきれず、ゴムマリのように飛び跳ねて転がって行った。

 いつもならこれだけで相手の鎧を損傷させられるのだが、『魔鉄』は想像以上に硬かった。こっちとしては一刀両断にしてやるつもりだったんだがな。


 こいつは恐らくアヤネを見ていた。アヤネが弱いと判断し、真っ先に襲いに行ったんだろう。そういう習性なのかは知らないが、俺はその事実に、無性に怒りが湧いた。

 奴が起き上がる前に、俺は一気に距離を詰める。


「『金剛力Ⅱ』」


『ドガッ!』


『ゲヒィッ』


 両手の武器を力いっぱい叩きつける。


『バキッ! ガギィン!』


『グゲッ!? グギャッ!?』


 斬撃が通らない? だからなんだ。


 こいつは弱い者を狙った。何をしでかすか分からない以上、起き上がらせてはならない。ここで決めてやる。

 俺は反撃する隙を与えず、ひたすらに畳みかけた。


 何度も何度も何度も何度も。


『グゲ、グッ……』


 いくら防具の能力が高くとも、スキルで圧倒的に増幅された『腕力』による衝撃は、鎧の内側へと浸透する。叩けば叩くほど、奴の身体から力が抜けて行く。

 そして抵抗が少なくなったところに、兜を引っぺがし、脳天に『御霊』を突き立てた。


 じわりと、奴の身体から煙が溢れ出す。

 そうしたら、後は早かった。奴の身体は、煙もろとも


【レベルアップ】

【レベルが18から41に上昇しました】

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今日も2話です。(1/2)

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