ガチャ058回目:強引な同行者
「あ、そうでしたわ。ショウタ様、こちらを」
そう言って少女はメイドから袋を受け取り、俺に見せてきた。
中に入っているのは……。
「『極小魔石』と、『鉄のナイフ』……?」
「はい。ショウタ様が討伐し、ドロップしたアイテムですわ。全てアイラが拾ってましたの」
ペコリとアイラさんが頭を下げる。
俺を追いかけながら、全部回収していたのか……? いくら俺がモンスターを探しながらとは言え、全力で疾走してたんだけど……。
「これを、どうしろと? 欲しいなら上げるけど」
「何を仰いますの。ショウタ様が討伐したアイテムなのですから、ショウタ様の物ですわ」
「でも、これは速度を優先して拾っていられないから捨ててきたものであって、それを拾ったのは君のメイドさんだ。だから君の物だよ」
「なら、わたくしがこれをどうしようと、わたくしの勝手ですわね。ですから、ショウタ様に差し上げますわ」
「……頑固な子だな」
「ショウタ様こそ。欲が無さすぎですわ」
「欲なら、あるさ」
ぼそりと呟く。
ダンジョンの秘密を暴きたいって言う、誰にも負けない欲が。
「それで、なんでついてきたの? 君のお誘いは断ったと思うけど」
「わたくしには、魅力がありませんでしたか?」
「そういう話じゃない。彼女達を大事にしたいって事と、君の願いは俺では叶えられないって話だ」
「それなら問題ありませんわ。本当なら1番が良かったですけれど、わたくしなら、3番目でも許せる度量がありますもの。そしてショウタ様は、わたくしの見立て通り、やはり強い御方でしたわ。ですので問題ございませんの」
「問題しかないんだが……」
どう言えば諦めてくれるんだろうか。
アキもマキも、この子のことはよく知ってるみたいだし、対処に頭を抱えるほどの子なんだよね? まともな解決策があれば教えてくれただろうし。うーん、諦めさせるなんて、俺にどうにか出来るのか?
「っていうか、俺、君の名前すら知らないんだけど」
「ま、まあ! なんてことでしょう。これは失礼しましたわ。わたくし、あなた様との出会いに興奮してしまっていたようですの」
本当に名乗っていないことを忘れていたのか、慌てて姿勢を正した。
「改めまして、
「旦那にランクアップした!? ……あのさ、アヤネさん」
「アヤネ、ですわ」
「……」
『直感』が、この問答は断る限り永久に続きそうだと告げている。
面倒だし、いいか。
「……アヤネ。さっきも言ったけど、俺は2人を大事にしたいから君の誘いには乗れない。それに俺は色々と人には言いたくない事があるんだ。だからついてこられると困る」
「まあまあまあ! 本当にあの人達を愛していらっしゃるのですわね。私の名を聞いても欲に目が眩まないところも、素敵ですわ。ますます欲しくなりましたの」
というと、彼女もどこかの御令嬢なのか。
宝条院……。はて、どこかで……。
「それと、秘密事に関してはご安心下さいませ。わたくしもアイラも、とーっても口が固いんですのよ。だから心配いりませんわ!」
「いやだから……。はぁ、分かった。回りくどい言い方だと通じないようだから、ハッキリ言おう。俺は君たちを信用出来ない。だから今、どんな言葉を告げられようと、無意味だ」
出会いのイメージが最悪だったし、更には感知できない方法で付け回されていたら、そうなる。
「むぅ……。では旦那様、挽回の機会を下さいまし。アイラ、妨害を解除しなさい」
「承知致しました」
「えっ?」
「ついでに自己紹介なさい。この方は、今からあなたの主人ですわ」
アイラさんから感じていた威圧感が、アヤネがそう告げた瞬間、完全に消えた。
まさか、アヤネの言葉だけで感情を入れ替えたのか? しかし、威圧感も鋭い目つきもなくなったけど、それでも無表情なのは変わらないな。折角の美人さんなのに、ちょっと勿体ないと思わなくもない。
「……こほん。
「ご、ご主人様!?」
「わたくしも妨害を解除いたしましたわ。旦那様、これがわたくし達の覚悟です。ステータスを『鑑定』でご覧になって下さいな」
「……」
言葉では信用させられないなら、ステータスをフルオープンにするだって? 本気か?
いや……本気なんだろうな。アイラは俺よりも強い。やろうと思えば、実力で俺をねじ伏せる事も可能だろう。けどそうやって無理やり首を振らせる真似はせずに、信頼を取りに来た。
……本当に、俺に全ての情報を開示するつもりなのか。
「ほら、ご覧になってくださいまし。それとも、大事な秘部を晒したわたくし達を放置して、そのまま眺めるのがお好みですの?」
「ちょ、言い方!」
……そこまでの覚悟を見せられたら、こっちもそれに応えて見てあげなきゃ、悪い気がして来たな。
「『鑑定』」
*****
名前:宝条院 綾音
レベル:46
腕力:50
器用:98
頑丈:50
俊敏:97
魔力:325
知力:415
運:10
装備:宝石のステッキ、ハイパープロテクター内蔵・新式オートクチュール
スキル:鑑定Lv3、鑑定妨害Lv3、炎魔法Lv3、風魔法Lv2、回復魔法Lv2、魔導の叡智
*****
アヤネのステータスは、レベルの割に知力と魔力の数値がえぐいことになっているな。そして『回復魔法』だって? あるという話は耳にしたことがあるけど、とんでもなく貴重な物だったはずだ。なんでも、俺が保険で持ち歩いてるような回復用のポーション……通称『回復剤』とは、比較にならないのだとか。
第一層の封鎖が出来ると言ってのけたり、こんなメイドさんを連れまわしたり、ただものでは無いとは思っていたけど……。
*****
名前:犬柴 愛良
レベル:169
腕力:1017
器用:1018
頑丈:680
俊敏:1354
魔力:342
知力:345
運:6
装備:パラゾニウム、ライフスティール、カスタマイズハイパープロテクター(戦場のメイド仕様)
スキル:鑑定Lv4、鑑定妨害Lv4、身体強化Lv7、隠形、気配遮断Lv5、剛力、怪力、俊足、迅速、鉄壁、城壁、予知、二刀流、剣術Lv4、暗殺術Lv3、投擲Lv8
*****
「すっげ……」
そしてアイラ。彼女は別格だ。レベルもそうだけど全体的にやばい。
こんなステータス、中堅どころか上位冒険者だろう。4桁ステータスなんて見たことないぞ。ここまでの強さを持っているのなら、調べれば出てくるくらいには有名な人なのかもしれない。
「ちなみに、わたくしの1レベルごとの成長率ですが、魔力3の知力が5。『SP』は8ですので、両方に半分ずつ割り振っていますわ」
「私は腕力から俊敏まで等しく4上昇します。『SP』はお嬢様と同じく8ですので、腕力と器用に2ずつ、俊敏に4割り振っております」
これが本当の、真っ当に成長できる人達の中でも、成長率が高い者だけが通れる強さか……。
全部の成長値が1、『SP』がたったの2の俺には、眩しく見える。
本当に……。本当に、羨ましいよ。
「旦那様、わたくし達の覚悟、受け取って頂けました?」
「……ああ」
「わたくしの事も、信じて頂けました?」
「まあ、ある程度は」
「では結婚しましょう!」
「それとこれとは話が違うでしょ」
「ガーンですわ!」
『知力』は、いくらあげても生来のお馬鹿さは治せないなんて仮説があったけど、あながち間違いなさそうだなぁ……。
「ひどいですわ、旦那様。乙女の秘密を赤裸々に覗いておいて、このような仕打……。もうお嫁に行けませんわ」
「そっちから見せてきたんじゃん……。あと、責任は取らないし貰わないからね?」
「あんまりですわぁ……」
今度はメソメソし出した。ウソ泣きというより、本気でちょっとダメージ受けてるように見える。
なんだか可哀想な気がしないでもないけど、ここで彼女の存在を認めたら、2人に不誠実だろう。それに、こんなにダメージを受けても、一向に諦める気配が感じられない。手強い子だな。
「……はぁ。どうあってもついてくる気?」
「勿論ですわ!」
諦めない子だなぁ。正直、あまり立ち止まったまま時間をつぶすのは勿体ないし、俺としては会話を切り上げて奥に行きたいところだ。でもこの子はきっと折れないだろうし、逃げ出したとしてもアイラのステータスとスキルなら、絶対に追いつかれる。
一度帰って迷惑行為として協会に相談する事も可能だけれど……。ステータスを全部見せるなんて真似、普通は出来ないよな。『鑑定妨害』を持ってるってことは、基本的に知られたくない情報な訳だし。
なら、ここは俺が折れるべきだろう。何をしているか詳細は教えないし、『レベルガチャ』も目の前では使わない。経験値もアイテムも、全部俺が貰う。
彼女達は、観客だと思えばいい。
「じゃあ、仕方が無いからついてきていいよ」
「本当ですの!? やりましたわ!」
「その代わり、俺の言う事はちゃんと聞く事。いいね?」
「は、はいですわ。初めてはお家のベッドが良かったですが、旦那様がご所望とあらば、例え人気のない林の中でも……」
「……置いてくよ」
「じょ、冗談ですわ!」
なんだか賑やかになってしまったけど、とりあえずゴブリン狩りの続きをするか。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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今日も2話です。(2/2)
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