ガチャ057回目:まずは実験。そして突然の……

「3日ぶりだな、初心者ダンジョン」


 片方の腰には『御霊』、もう片方には『木霊』を装着し、ダンジョン入り口を進んでいく。

 『二刀流』というスキルは、例え技能が無かったとしても、男の子にとってはロマンと憧れが詰まっているものだ。だから、例え武器を2本持っていたとしても、『二刀流』のスキルを有しているとは思われなかったりする。なぜなら、持っていなくともやってしまうのが男の子だからだ。

 特にここは『初心者ダンジョン』。見栄っ張りは大勢いる。


 俺の顔を知っている奴は、俺の事を弱いと思っているし、鎧を見て本物の『二刀流』使いなのではと警戒した者も、Fランクのバッジを見て憐れみとも思える視線を投げかけてくる。


 こんな扱いでも嘲笑されないのは、誰もが経験があるからだろう。誰も、自らの黒歴史に塩を塗りたくる気は無いのだ。そして俺としても、スライム相手に『二刀流』を披露した過去がある。だから彼らの気持ちはわかるのだった。


「さてと」


 まずは、横道に逸れる。別に彼らの視線が恥ずかしかったわけではない。

 少し前から試したいと考えていた、とある実験をするためだ。


「まずは『鷹の目』。……うっ、視界最悪。ダメそうだな」


 洞窟型の階層でも、障害物……壁の向こうのモンスターが感知出来るのかという実験。これは失敗。

 視界は天井にへばりついた視点でしか見えないし、天井が凸凹していてまるで周囲が見渡せない。普通に自分の目で見た方が早いだろう。


 次に、ゴブリンだ。


「まずは、軽く50だな」



◇◇◇◇◇◇◇◇



「こんなもんだろう」


 とりあえず、目についたゴブリンを倒す事10分。超強化された身体を駆使し、この短時間で54ものゴブリンを屠る事が出来た。本当に、すごい成長具合だ。まるで、自分の身体じゃないみたいだ。

 それに、『二刀流』の便利さを改めて思い知った。

 今までは、剣の持ち手の関係上、持ち手とは逆にモンスターが現れた場合、身体の向きを変えて無理な体勢で討伐していた。その為、せっかく『迅速』で加速しても、減速を強いられていたのだ。けれど、今は両手に武器がある。これなら、どこから敵が向かって来ようと、スピードを落とすことなく敵を倒せる。

 あと、細かい事だが『二刀流』を持っていると、両利きになれるらしい。


 まさに革命だな。


「さて、次は2階層だな」


 階段を降りた俺は、そのまま『ホブゴブリン』の出現ポイントであるマップ右手前の隅へと向かう。今日の第一優先目標は、四方で『ホブゴブリン』を撃破し、強化体が出現するかの確認だ。他にもいろいろあるが、これが何よりも優先される。同じやり方で強化体を沸かすことが出来たのならば、ヨウコさんの心配の種を、減らすことが出来るだろう。


 そして俺は、再び『迅速Ⅱ』で加速し、残りの46体を狩り始めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「これで……46!」


 すれ違いざまに切られたゴブリンは、何が起きたのか分からず絶命し、その場に倒れる。そして緑色の煙となり、レアモンスターは出現しなかった。

 俺の『運』があれば、確実に湧かせることの出来る、『ホブゴブリン』が湧かなかったのだ。本来であればショックを受けるところだが、今回は違った。の結果だったからだ。むしろここで湧いたほうが衝撃を受けたかもしれない。


「やっぱりな……。階層を跨ぐと、カウントが別扱いになるのか。まあ、第一層と第二層で『ホブゴブリン』のレベルが違っていたから予想はしてたけど……。あとは、もし第一層と第二層で強化体のトロフィーが別扱いだった場合だけど……。検証は無理だろ。ダンジョン自体封鎖でもしないと試せんわ」


 こういう事に、冒険者ランクは使えるんだろうか? ちょっと権限の外側と言うか、そこまで万能ではないと思うんだけど……うーん。微妙だな。


「あら、出来ますわよ」

「え?」


 不意打ちだった。

 マップを見るも、周囲に白点はない。モンスターの赤点もない。自分の他には誰もいない。そう思っていたのに、突然声を掛けられたのだ。


 声のした方へと振り向くと、空間を切り裂くように、彼女達は現れた。

 先ほど喫茶店に置いてきたはずの、少女とメイドだった。


「こんにちはショウタ様。先ほどぶりですわね」

「な……」


 なんで?

 どうやって?

 どこから?


 様々な疑問が頭の中をよぎったが、不意に彼女達の言葉を思い出した。


『ショウタさん。これで安心はできません。彼女はしつこいんです』

『思い込んだら本人が納得するまで諦めないわよ。だから、なんとしてもステータスはバレないようにしてね。ショウタ君が弱いって嘘は、バレたらやばいから』


 しつこく、あきらめが悪い。

 まるでモンスターの事で検証をし続ける俺みたいだな。


「まったく、ショウタ様も酷い御方ですわ。自分が弱いだなんて嘘を付くなんて。あんな高機動でゴブリンを狩って回れる冒険者が、弱い訳がありませんのに」

「……一体いつから?」

「そうですわね。『3日ぶりだな、初心者ダンジョン』からですわ」

「最初っからじゃないか……」


 どうやら、彼女達の懸念通り、俺は本当に、厄介な子に目を付けられたらしい。

 今まで活躍してくれた『運』よ。本当にこれは良い事なのか? 幸運じゃなくて、悪運の方じゃないのか……?

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今日も2話です。(1/2)

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