ガチャ049回目:ちゃんと伝えなければ
支部長は、変わらず俺のステータス画面を前に固まってしまっている。
現在のステータスはこれだ。
腕力:370(+321)
器用:299(+250)
頑丈:376(+327)
俊敏:360(+311)
魔力:311(+264)
知力:276(+229)
運:732
『運』は『SP』の増加値が、最高値の冒険者でも、約レベル90相当分注ぎ込んでいる事を意味する数値だ。更にステータスは、成長値が最高値なら約レベル70相当。しかも、普通の冒険者はレベルアップ時のステータスの増加が、戦闘傾向に合わせて偏るらしい。
その為『腕力』の成長値が4や5であったとしても、『魔力』は0とか1だったりする冒険者は多いとか。まあ俺の場合常に1だけど。0にならないのはありがたいな。
そして、数日前に支部長が見ることの出来た、弱かった俺のステータスは、これだ。
腕力:50(+40)
器用:35(+25)
頑丈:40(+30)
俊敏:54(+44)
魔力:34(+26)
知力:30(+22)
運:112
『運』に関しては褒められていたが、その他のステータスは貧弱も良い所だった。
恐らくよくてレベル15。悪くて1桁レベルの冒険者と同等の数値だっただろう。それが、たった数日で恐ろしく強くなったのだ。フリーズするのも無理はない。
「一体、何をどうやってここまで……」
「それは、彼女達にも伝えられていない事ですし、伝えるか迷っている事でもあります。なので、その問いにはお答えできません」
「……そうね。その考えは理解出来るわ。あの子達を危険な目に遭わせたくないのね」
「はい」
「……このステータスに、貴重なスキルのオンパレード。
「はい、この力で必ず2人を」
「違うわ」
「え?」
不味い、何か間違ったか!?
「その力で守らなくちゃならないのは、あなた自身よ。何を犠牲にしても、自分の身を第一に守りなさい。そうすることで、あの子達の心が守られるのですから」
「俺の身を、最優先に……」
「そうよ。ではもし仮に、未知のレアモンスターと遭遇したとしましょうか。『鑑定』があるのなら、相手の力量はハッキリわかるわね? それで相手を見て、勝てる強さがあればいいけれど、もし相手の力量があなたを上回っていた場合、どうするの?」
「それは、勿論逃げます」
「そうね。真っ先にそれが言えるなら大丈夫だと思うけど、一応言っておくわ。あなたが例えレアモンスターを狙って出せるとしても、対面するまでは相手の力量は不透明。時には、勝てない相手と出くわすこともあるでしょう。その時は、なんとしてでも、その場から逃げ帰れる強さが必要になってくるわ」
支部長が言っている事には、心当たりがある。『マーダーラビット』との戦いの時だ。
『ホブゴブリン』の時は、勝てる相手だと判断できたから、周りの事を気にする余裕もあった。けど、『マーダーラビット』は別だ。『鑑定』で詳細は見れなくても、初撃で勝てない事を悟るほど、俺よりも格上の存在だった。
あの時はたまたま勝つことが出来たけど、何度思い返しても、アレを相手に正攻法で勝つ手段は浮かばなかった。初撃を受け止めた際、すぐに逃げる事を選択したのは、取れる中では最良だったと思う。
けど、俺の予想を上回り、奴は広場から抜け出せる手段を持ち合わせていた。仮に奴の攻撃をやり過ごせたとしても、結局俺は、奴の機動力を上回る逃走能力を、持ち合わせていなかった。だから仕方なく迎え撃つことを選択したんだ。
今のように『金剛外装』があれば、また少し展開は変えられただろうけど……。
うん。やっぱり、今後の事を考えて、色んなスキルが欲しい所だな。
「何度も言うけれど、単身で戦場に挑む以上、一番に考えるべきは自分の身の安全よ。命の危険を前に、実力も無いのに周囲の人間に気を配るのは、愚者のする事よ。逆に、余裕があるときは、その辺りしっかり出来ていると報告もあるし、私もハナもその点は心配していないわね」
「……わかりました。誓います、この力で、俺自身を守って、2人の心も守ると」
「よろしい、合格とします。ハナ」
「はい、ミキさん」
「えっ!?」
どこからともなくハナさんが現れた。一体いつからそこに!?
「ふふ、ショウタさん。油断大敵ですよ?」
「いいからハナ、2人を呼んで来てくれる?」
「わかりました」
「……アマチさん、わかりますね?」
「はい」
そうして、ハナさんに連れられて恐る恐ると言った様子で2人が入ってきた。
それに対し、支部長もハナさんも何も言わないので、気が気じゃない様子だった。
そんな2人の前に立ち、目を合わせる。
「アキ、マキ。2人に大事な話があるんだ」
「は、はいっ」
「う、うん……」
手を伸ばし、問いかける。
「俺は……2人の事を大切に思っている。かけがえのない存在だと。冒険者と受付嬢、専属と言う関係ではなく、1人の女性として意識している。どっちか1人だなんて言わない。俺は2人とも幸せにしたいし、2人と家族になりたい。だから、これからもずっと一緒にいてほしい。もう知ってるだろうけど、こんなダンジョンバカの俺で構わないなら、この手を取って欲しい」
不器用で言葉足らずな俺の、必死のプロポーズ。
そこに、両目に涙を浮かべたマキが、真っ先に手を乗せてくれた。
「私も、ショウタさんと一緒にいたいです。いさせてください」
「マキ、大好きだ。これから先も、君の心は俺が守るよ」
「はい……!」
続けてアキは、まだ戸惑いが勝つようだ。まるで自分に声がかかるとは、思ってもみなかったかのような。先ほどから、手を伸ばしては引っ込めてを繰り返している。
「アキ」
「っ!」
「俺はアキが好きだ。アキはどうだ?」
「あ……」
「姉さん、ほら」
そういってマキがアキの手を取り引っ張った。
彼女の手も重ねられ、そんな2人の手を包み込む。
「マキ」
「姉さん」
「う……。あ、あたしも、好きぃ……」
ボロボロと涙を流すアキに、マキが耐え切れず涙を流した。
そんな2人が愛しくて、俺は2人を抱きしめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「若いって良いわね」
「ふふ、完全に3人の世界ですね~」
「散々泣いたと思ったら、今度は私達を無視してイチャイチャイチャイチャ……。ここ、支部長室なんだけどね?」
「そんな事言って~。ミキさんさっきから口角上がりっぱなしですよ~?」
「っ……。そ、そんなことはないわ。そういう貴女はどうなのよ」
「私も眼福ですよ~。この3人なら、毎年行われてる、冒険者と専属のベストカップルでも優勝しちゃうんじゃないですか~?」
「それは当然よ。なんたってうちの娘達なんですもの」
「ふふ、親バカここにありですね~。でも、そろそろ戻ってきてもらわなくては」
『パンッ』
「「「!?」」」
ハナは、3人の前で手を叩く。
猫騙しのような行為だったが、不思議と3人は、熱も想いもそのままに、冷静さを取り戻した。
「仲が良い事は喜ばしいですが、場所を弁えましょうね~」
「「「はい……」」」
「ではショウタさん、お2人に伝えたい事があったでしょう~?」
「えっと?」
一世一代の告白の後という事もあり、どうやら記憶が飛んでいる様子だった。
「さっき支部長に見せたアレですよ、アレ~」
「あ、ああ!」
すっかり忘れていたショウタは、改めて2人の手を握った。
「マキ。『鑑定』のスキルはいくつあるんだ?」
「えっと、実は4あります」
「そうなんだ」
「はい」
そんな短いやり取りでも惚気る2人に、ハナの笑顔も深まる。
そして、『鑑定Lv4』を持ち合わせておきながら、今まで一度も自分にスキルを使わなかった点に、ショウタは好感を覚えていた。逆にマキも、今まで自身のスキル構成を、一度も覗き見してこなかったショウタに、愛情を深める。アキも、そんな2人の様子を見て、愛おしく思っていた。
「じゃあ2人とも、俺の今のステータス、そしてスキル。『鑑定』で見てくれ」
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