ガチャ018回目:知り合いが出来た
振り向けば、林の外に複数の男女がいた。
男性3人に女性1人の4人組。女の人も鎧姿である以上、彼ら全員が冒険者でありチームなんだろうな。装備も鋼鉄装備を身に纏っていて、色合いも似通っている。
しかし、第二層で狩りをするには、あまりにも他の冒険者と雰囲気が違っている。装備の格からしても、少なくとも第三層かそれ以下で戦っていそうだ。
この場所は第三層へ続く道からは外れているはずだし、この人たちは何をしに来たんだ?
でも呼びかけられたのなら、答えるしかない。やましい事をしてるわけじゃないんだし。
とりあえずガチャを消してから林を出た。
「えっと、俺の事ですか?」
「ああ、そんなに警戒しなくてもいい。俺達は様子を見に来たんだ」
「様子……?」
「ええ。私達は普段第四層を中心に狩りをしていて、今から帰る所だったの。けど、第二層の入り口で、見た事のない巨大なモンスターを見たって慌ててる人達がいてね。それで様子を見に来たのよ」
俺の不審がる様子を察したのか、女性冒険者が優しめの口調で説明してくれた。
「君はこの辺りで狩りをしていたのなら、何か情報はない? その、大きなモンスターについて。危険そうなら、安全のためにも私達が倒しておきたいの」
たぶんこの人達が言ってるのは本当なんだろう。慌ててる冒険者っていうのも、俺がアイツと鬼ごっこしてる姿を目撃したに違いない。それを聞いた彼らは、未知のモンスターが暴れているのではと心配になって、ここまで駆け付けてくれたんだろう。
現に、この林は所々で倒木が発生してるし、遠くから見ただけでもズタボロだもんな。そんな現場に留まる俺を見たら、声を掛けずにはいられなくなったわけだ。
ちらりと女性や彼らの装備に目をやれば、確かに長い間戦ってきたのだろう。防具やインナーには拭いきれない汚れが付着していたし、表には出さないようにしているけど、疲労も感じられた。
本当に心配になって、見に来てくれたんだな。
なら、正直に話しても良さそうだ。
「ここに出現したレアモンスターなら、俺が討伐しました。他の人達が見たことないっていうのは、協会のデータベースにも載っていない新種だったからだと思います。少なくとも俺は初見だったので」
「えっ!?」
「新種!?」
「君が討伐したのか?」
「凄いじゃないか!」
4人はそれぞれの反応を示してくれたが、どれも好意的だった。
疑ったりしないのかな?
「それで疲れてたので休んでいました。これから協会に戻って報告するつもりだったんですよ」
嘘ではない。
レアモンスターを倒して、ちょっと実験して、満足できずにレベルを上げたくらいで、疲れてるのは本当だった。
「何かドロップ品はあったかい?」
「はは、それも協会でお願いしますよ」
「ああすまない、つい興奮してしまった。手持ちのアイテムを聞くのはマナー違反だったね」
「ちょっとリーダー。彼は疲れてるんだから、不安にさせるようなことを言って、余計な気を使わせないで」
「ごめんよー。それに君も、申し訳なかった」
「いえ、初めてのモンスターに興奮する気持ちはわかりますよ。俺もそういう性質の人間ですから」
「だよね!? あ……」
女性に睨まれて、リーダーらしき彼は申し訳なさそうに委縮してしまった。それを見たメンバーたちは笑っている。
良いチームだな。俺も秘密が無ければ、誰かと組めたんだろうか……。
「俺はこのチーム『一等星』のリーダー、シュウジだ。シュウって呼んでくれ!」
「あ、俺はショウタです。一応ソロでやってます」
「やっぱり、ソロでレアモンスターを倒したのか! やるなあショウタ君!」
俺は彼ら『一等星』の厚意に甘え、雑談をしながら共に帰還することにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
協会へ辿り着くと、俺の顔を見たマキさんが駆け寄って来てくれた。
「ショウタさん、お帰りなさい! あ、『一等星』の皆さんもご一緒だったんですね」
「おお、本当にマキさんが出迎えに来てくれた。凄いなショウタ君!」
「いや、あはは」
戻る最中、専属の話が飛び交ったのでマキさんの話をしたらとても驚かれた。まだ仮の段階ではあるが、支部長から試験が出ている事も。
専属は本人の意思と、所属するところの支部長からの許可で確定するが、他の受付嬢ならまだしもマキさんを専属に求めた場合、支部長から無理難題を吹っ掛けられることがあると有名らしかった。軽く合掌されたが、『頑張れよ』と応援もしてもらった。
本当に気持ちの良い人達だ。
「マキさんただいま。ちょっと報告したいことがあって、『一等星』の人達も一緒なんですけど良いですか?」
「は、はい」
困惑気味のマキさんを連れて、いつもの会議室へと入った。
そしてまず、『一等星』のリーダーであるシュウジさん……いや、シュウさんが今回の顛末を語ってくれた。第二層入り口で未知のモンスター発見の報告があり、駆け付けたところ俺が休んでいた。そして、俺がそのモンスターを討伐したのだけど、証拠を確認したい為に一緒に協会へとやって来たと。
「シュウさん、またですか……」
「あはは、いやー、今まで本当に申し訳なく」
どうやらシュウさんは、新しい物に目が無いらしく、見た事のない装備に興奮して、装着した冒険者に突撃する事が何度かあったらしい。暴力的な行為はないものの、いい大人が目を輝かせて駆け寄る行為は、傍から見てる分には面白いが、やられた当人は困るのだろう。
最後にはシュウさんが謝罪し、パーティの紅一点であるアヤカさんが叱るのがいつもの流れらしい。
まあ、シュウさんは悪気はないし、憎めない人なんだろうな。それはここまで戻ってくるまでの短い会話でも感じた事だった。
「まあ俺は気にしてないんで大丈夫ですよ。シュウさんの事もよく知らなかっただけですし」
「ショウタ君、君は良い奴だな!」
「ショウタさんが怒ってないならいいですけど……。では、気を取り直して報告を伺いましょう。ショウタさんはレアモンスターに遭遇し、これを撃破。しかもそれは新種だったと」
「はい。これがドロップ品です」
そう言って俺は、机に『マーダーラビットの捻じれた角』を2本と、『マーダーラビットの毛皮』、そして『中魔石』を置いた。
「デカイ! 長い!」
「シュウ、うるさい」
「これは……このダンジョンで見たことがありません。ですがこの角の形状は……。ショウタさん、今回のレアモンスターは」
「はい、キラーラビットのレアモンスター、『マーダーラビット』でした」
それを聞いた面々は様々な反応を見せたが、マキさんは立ち上がり、すぐに俺の腕を引っ張って壁際にまで連れていかれた。
そして混乱する俺に、ヒソヒソと耳打ちをして来た。
「ショウタさん、『鑑定』をお持ちなんですか?」
「……あ」
そうだ、データベースにも載っていない名前を知るには、『鑑定』を使うしかないんだった!
「……もう、気を付けてください。『鑑定』はモンスターやアイテムだけじゃなくて、レベルが上がれば人の情報だって盗み見る事が出来るんです。ショウタさんなら悪用はしないって私は信じられますけど、他の人はそうとは限らないんですからね?」
「ごめんなさい。考えが足りませんでした」
「幸い『一等星』の方々は、この協会所属の冒険者の中でも実力者ですし、信頼もできます。本当に、気を付けてくださいね……?」
「……はい」
『鑑定』の便利さは知っていたが、まさか悪用を疑われる原因になるとは。
でも確かに、よく考えたら『鑑定』はレベルが上がれば上がっただけ、相手を盗み見れる情報が増えていく。強い冒険者の情報を欲しがる奴らもいるのかもしれないしな。
それを思うと、レベルが上がった『鑑定妨害』はそれを弾けるってことだよな。俺のスキルが読まれる危険もある訳だし、高いに越したことはなかったのか。
「『一等星』の皆さん、お話があります」
「おお、君のスキルの事だな? いいぜ、俺達は何も聞いてないし何も知らない」
「シュウさん……!」
「ええ、持ってる苦労は私も同じだものね。ショウタ君、私も『鑑定』を持っているの。だから危険視されるリスクは分かるわ」
「俺も同意しよう」
「俺もだ」
「皆さん、ありがとうございます!」
本当に『一等星』の人達は良い人ばかりだった。
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小説家になろうにて、ローファンタジー週間ランキング1位を達成したので、今日も3話投稿です。(3本目)
続けて、明日は4話投稿します。
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