第6話 細事の徹底の象徴としての、来客用茶葉
「このお茶、かなり高級な茶葉をお使いのようだな。来客にはいつもこれか?」
大宮氏は特に茶の味利きができるというわけではないが、素人なりにその味のほどがわかった模様である。以前よつ葉園に招かれたときも、ここまで高級な茶葉でお茶を出されたことなどなかっただけに、驚いているのであろう。
森川のおじさんの頃は、こんな高級な茶葉を出したりされてなかったよな。
そんなことを思いながら、大宮氏は大槻園長に尋ねたのである。
「いえ、この茶葉は特別な時にだけお出しするようにしています」
「昔から、大槻君はこういうことにものすごく気配りのできる人だったからなぁ」
大槻氏は若い頃から、年長者や来客に対して実に気配りできる人物であった。普段の身内だけのときにこそ、自分がしゃしゃり出てというところはあったが、他者が絡んだときの彼の「そとづら」は、飛び抜けてよいものが見られた。
まして彼の学生時代から知っている大宮氏からすれば、この程度のことはしてくるという予測の範囲内であった。
大槻園長は、その茶葉でお茶を入れさせた趣旨を説明した。
恐縮です。
さて、昨年の園長就任にあたって職員各位に何を申し上げたか、以前お手紙でお送りした通りですけど、その成果は徐々に出てきております。
社会性を高めることに、今は一点絞りと言いますか、そこに重点を置いて、よつ葉園を運営しております。
特別な来客にはそれに応じた茶葉でお茶を差し上げる。
こんなことは本当に細かい話でしょうが、それなりの方が来られたあかつきには、そこらのスーパーの特売で買ってきたような粗末な茶葉ではお出しできんでしょう。
超高級品の玉露というわけでもありませんけど、それに応じたものを、お茶にしても珈琲にしても、お出しするようにしました。
もっともそれが、園長としての初仕事というわけでもないですがね。
後輩の弁に苦笑しつつ、大宮氏もその件についての意見を述べる。
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