第5話 手放しで喜べない中、高級茶はサーブされた。

 程なく、大槻和男園長が応接室に戻ってきた。


「津島町にいた頃に比べたら、格段に広くきれいになったでしょう。確かにこのような場所ではありますが、津島町の土地を売った金でこちらの土地と建設費を賄えました」

「そうかな。それは、悪くはない選択肢だったようだね」

「ええ、まあ・・・」


 大槻園長は、いささか、手放しでは喜べていない雰囲気を発している。


「移転後の混乱は何とか収まりつつありますけど、津島町にあった森川の時代のようにこの地域の人たちによろしく認知していただけるには、まだまだ時間がかかりそうです。先方も私らも、それなりに思うところがあるものでしてね、いかんせん」


 園長として述べる彼の言葉の端々に、よつ葉園の今置かれている状況がくまなく示されているな。

 大宮氏は、そう感じざるを得なかった。


「だが、それも東先生はじめ理事各位、それに大槻君の決断によるものではないか。ここでしっかりやり切れば、君にとっては、森川のおじさんと同格レベルの中興の祖になる土台ができたと言えやしないか?」

「そうかもしれませんが、そこまで実感がわきませんよ、先々の話までは・・・」

 大槻園長は、そう返答するのが精一杯のようである。

「青春時代の歌じゃないけど、改革時代の真ん中にいるわけだからな、大槻君は」

「ええ。道に迷って、胸にはとげの刺さることばかりですよ、まったくもって」


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 程なく、女性事務員がお茶を2人前お盆に乗せて持ってきた。彼女は丁寧に来客と上司に湯呑をささげ、さらに丁重に挨拶して去っていった。


「大宮さん、どうぞ、たいしたおもてなしも出来ませんが」

「ありがとう。じゃあ、遠慮なく」


 大宮氏は目の前の湯吞のふたを開け、緑茶を一口飲んだ。


「このお茶、かなり高級な茶葉をお使いのようだな。来客にはいつもこれか?」

 

 大宮氏は特に茶の味利きができるというわけでは、ない。

 しかし、素人なりにその味のほどがわかった模様である。

 

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