第22話 呼び出し
寺山さんの告白を目撃して、上白根から衝撃的なカミングアウトをされた。
俺は自席に座り、魂の抜け殻だけが残っている。
『実は和泉って、好きな人がいるんだって!』
上白根に言われた言葉が、頭の中にこびりついて離れない。
俺は俯きながら顔を覆ってしまう。
「嘘だ……嘘だと言ってくれ」
寺山さんに、好きな人がいるなんて……。
これほどまでに、現実を直視したくないのは初めてだった。
何なら、これが夢であって欲しいとまで思ってしまう。
俺の中で、よからぬ妄想が浮かんでくる。
寺山さんと仲睦まじい様子で歩く男子生徒A。
二人は晴れてカップルとなり、寺山さんも彼と一緒にいるときだけは、メスの顔を見せる。
そんな二人がデート先に選んだのは、男子生徒Aの家。
「どうぞ」
「お、お邪魔します」
男子生徒Aに促され、恐る恐る部屋に足を踏み入れる寺山さん。
そして、男子生徒Aは部屋の扉を閉めて内鍵をガチャリと閉める。
「えっ、A君。どうしたの⁉ きゃっ⁉」
寺山さんは男子生徒Aに両肩を掴まれ、そのままベッドへ押し倒されてしまう。
覆いかぶさるようにして、寺山さんを押し倒した男子生徒Aは、決死の想いを打ち明ける。
「和泉……俺もう、我慢できないんだ!」
「えっ……でも私たちまだ……清きお付き合いを」
「頼む! 一度だけでいい! だから、和泉のおっぱいを揉みしだかせてくれ!!」
「えぇ⁉ そ、そんな……恥ずかしいよ」
顔を赤く染めながら、視線を逸らす寺山さん。
懇願して頭を下げる男子生徒Aを見て、寺山さんは恥じらいながらも口を開く。
「も、もう……今日だけなんだからね」
と。
「ほ、本当か⁉」
「う、うん……A君は私の彼氏だから……。A君のしたいことは、出来るだけシてあげたい……!」
健気に男子生徒Aの期待に応えようと、決意を決める寺山さん。
「ありがとう和泉!」
「ちょっと待っ――まだ心の準備が……あぁっ♡」
そして、男子生徒Aの理性は崩壊して、寺山さんの制止の声を聞くこともなく、彼女のぷるんぷるんのおっぱいへ手を伸ばし、思い切り鷲掴みにして揉みしだく。
「うぉぉぉぉぉー!!! 和泉!!」
さらにヒートアップした男子生徒Aは、自身の顔を寺山さんの谷間へと埋めて、スリスリとおっぱいの感触を全身で楽しみ始める。
「ちょっと……! もう……強引なんだから♪」
突然の出来事に困惑しつつも、寺山さんは男子生徒Aを慈しむような視線で見つめて、胸元で暴れる彼の頭を手で押さえ、自らの胸元へさらに引き寄せてあげる。
「よしよーし。いい子、いい子」
寺山さんの母性をくすぐり、そこから、男子生徒Aと寺山さんは、二人きりの家の中で、お楽しみタイムを過ごしたのであった。
「Nooooooooooooooo!!!!!!!!!!!」
俺は頭を抱えてたまま、額を思い切り机にガンっと叩きつけた。
何てけしからん!
寺山さんのおっぱいを触っていいのは俺だけだ!
いや……そんなことはねぇか。
寺山さんが好きな人には、そういうことをする権利があるわけで……。
あぁーくそぉ!!
寺山さんの好きな人って、いったい誰なんだよぉぉぉ!!!!
答えが分からない悶々とする感じが気持ち悪くて、俺は身体をクネクネとさせて唸ってしまう。
「あの……大丈夫? 新治君」
その時、聞き覚えのある声が聞こえてきて、俺はストンっと芋虫のような動きを止めて、パっと顔を上げる。
視線の先にいたのは、心配そうにこちらを覗き込んできている、天使のおっぱい寺山さんだった。
「て、寺山さん。うん、平気だよ……」
ど、どうして寺山さんが俺に声なんか掛けてきたんだ⁉
俺が混乱していると、寺山さんは頬を軽く染めて、周りの視線を覗うと、顔を耳元へと近づけてきて、小声で話しかけてくる。
「あのさ、今日の放課後、時間あるかな?」
「えっ……まあ、あるけど……」
「それじゃあ、今日の放課後、二階にある空き教室に来てくれないかな? 新治君に話があるの」
「お、俺に⁉」
えっ⁉
どういうこと!?
話って何⁉
「うん。だから、放課後待ってるね」
そう言い終えて、寺山さんが俺の耳元から離れると、にこりと笑みを浮かべてから、自席へと戻って行く。
その様子を、目をパチクリと高速で瞬きしながら眺めることしか出来なかった。
寺山さんが席に着席すると、五時間目開始のチャイムが鳴り、現代文の教師が教室へと入ってくる。
日直の号令で授業が始まる中、俺の頭の中は大混乱を起こしていた
待って……寺山さんから直々の呼び出し……だと⁉
しかも、二人きりで人目に付かない空き教室に来て欲しいとか……。
それってまるで……。
告白!?
状況から導き出される答えは、それしか思いつかなかった。
つまり、寺山さんの好きな男の子って、俺だったって事⁉
まさかの衝撃的な事実が判明し、俺は思わず椅子から転げ落ちそうになってしまう。
必死に落っこちそうになるのを堪え、俺は覚束ない足元を支えるようにして、両肘を机の上について手の裏を顎において黙考する。
もし、本当に寺山さんが俺のことを好きだったとしたら、今まで男子生徒からの告白を断ってきたという事実も合点が行く。
って事はやっぱり……寺山さんは、俺に告白するつもりなのか⁉
そう確信付いた途端、内側からぶわりと熱いものがたぎってくる。
ダラダラと額に汗が滲み、武者震いが起きてしまう。
いや、待て待て。
落ち着くんだ俺。
まだ決まったわけじゃない。
もしかしたら、全然関係ない別件かもしれない。
こういう時は、最悪の状況を想定するんだ。
二階の空き教室に夕日が差し込む中、俺と寺山さんは向かい合う。
俺がドキドキと緊張していると、突如寺山さんが頭を下げてくる。
「お願い新治君。これ、男子生徒A君に渡しておいてくれないかな?」
そういって手渡してきたのは、ハートマークの封がしてある便箋で、俺は男子生徒に直接渡すのが恥ずかしいため、橋渡しをお願いされてしまったのである。
そうだ、これだ!
これに違いない!
なんだよ……それならそうと、言ってくれればいいのに。
ったく、寺山さんも照れ屋さんなんだから。
まあ、もし仮にお願いされて手紙を受け取ったとしても、俺はそれを家に持ち帰って、普通ごみに捨てて焼却炉へ送り届けるけどね。
もちろん渡した事実を作るため、男子生徒A君にはお詫びとして商品券か何かでも入れておこう。
よしっ、完璧な作戦だ!
そりゃそうだよな。
こんなあからさまにおっぱい揉みたい発言してるおっぱい聖人の俺なんかを、寺山さんが好きになるわけがないもん!
期待するだけアホだわ。
「新治……新治!」
とそこで、鋭い声で名前を呼ばれ、俺ははっと我に返る。
「は、はい!」
気づけば、俺はさっと席を立ってしまう。
教室前では、チョークを黒板にカツカツと突きながら、現代文教師が眉根を顰めてこちらをギロリと鋭い視線で見据えていた。
現代文教師は、盛大にため息を吐く。
「新治、何か弁明はあるか?」
「い、いえ……ありません」
「放課後、職員室に来なさい」
「はい」
俺はしゅんと項垂れながら、身体を丸めて座り込む。
クラスメイト達からは、クスクスと嘲笑が聞こえてくる。
くそっ……考え事をしてたから、全く授業を聞いてなかったぜ……。
てか待って……今、なんて言った?
放課後、職員室に呼び出し食らってなかったか⁉
状況を理解した途端、俺はやってしまったと血の気が引いていく。
恐る恐る、俺は寺山さんの方へ視線を向ける。
寺山さんもこちらを見ており、アハハ苦笑の笑みを浮かべていた。
俺は両手を合わせて、ごめんなさいと謝罪する。
すると、寺山さんが机の下からスマホを取り出し指差してきた。
どうやら、スマホをチェックしろという意味らしい。
俺がポケットからスマホを取り出して、現代文教師にバレぬよう覗き込むと、寺山さんからのメッセージが届いていた。
『お説教頑張って。終わるまで私、ずっと待ってるから』
寺山さん……君はやっぱり天使だ。
こんなどうしようもない俺を健気に待ってくれるなんて、どれだけ好感度を上げれば気が済むんだよ……。
『ごめんね。すぐに終わらせて向かうから!』
俺はそう返事をして、寺山さんの聖女っぷりを改めて認識するとともに、放課後の呼び出しにワクワクしてしまうのであった。
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