第21話 好きな人
桂華ちゃんとバストアップトレーニングを終えて、俺は一人教室へと戻ろうとしていた。
「あっ! やっと見つけた!」
すると、教室から出てきた上白根が、鬼の形相でこちらを見ながら、ドスドスと近づいてくる。
「おう……どうした上白根?」
「アンタを探してたの! ちょっと付いてきて!」
「えっ⁉ おい待てって!」
俺は上白根に強引に手を引かれ、昇降口の方へと連れていかれる。
上履きから外履きに履き替えて、上白根と一緒に向かったのは、校舎裏にある非常階段。
「おい上白根。こんなところまで連れてきて何のつもりだよ?」
「しぃ……! 静かにしてて」
建物の角の所で上白根が立ち止まると、人差し指を唇に当てながら、もう一方の手で俺を抑えてくる。
「ほら、あそこ見て!」
小声で上白根に手招きされて、俺は恐る恐る建物の端から非常階段のある校舎裏を覗き込む。
そこにいたのは、寺山さんと見知らぬ男子生徒。
ネクタイの色からするに、同学年の男子生徒のようだ。
二人の間には、緊張感とただならぬ雰囲気が漂っている。
お互い黙り込んでいたものの、意を決した様子で男子生徒が声を上げた。
「急に呼び出してごめん。来てくれてありがとう」
「ううん、平気」
どうやら、男子生徒が寺山さんのことを呼び出したらしい。
校舎裏、昼休み、人気のない場所への呼び出し。
この三つから導き出される答えは……。
「ま、まさか……告白!?」
「しぃー! 声が大きい! バレたらどうするの!」
俺が思わず声を荒げてしまい、上白根に思い切り頭を抑え込まれてしまう。
「単刀直入に言います! 寺山さん、ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください!」
俺と上白根がつばぜり合いをしている間にも、男子生徒が寺山さんへ愛の告白を済ませてしまう。
俺たちはそれぞれ驚きの反応を見せ、視線を寺山さんの方へと向ける。
寺山さんは、視線を彷徨させてから、ガバっと頭を大きく下げた。
「ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど、お付き合いすることは出来ません」
寺山さんが断りの言葉を口にして、俺はほっと安堵感を覚えた。
「そっか……ありがとう。俺の気持ち聞いてくれて」
振られた男子生徒は、げんなりとした様子で肩を落としていた。
「あーあ……また振られちゃった」
「おい待て、またってどういうことだよ?」
上白根の言葉に引っ掛かりを覚えて、俺はつい尋ねてしまった。
「ほら、和泉ってさ、やっぱり男子からモテるわけよ。今年に入ってもう何回か告白されてきてるんだけど、全部断ってるんだよね」
「そ、そうなのか⁉ 俺は初耳なんだが⁉」
「まあそういう話って、あんまり異性にはしないから仕方ないでしょ」
確かに、異性に『私この前、○○君から告白されたんだよね―』とか話してる奴は、大体自信過剰系ギャルかバカにしてるかのどっちかだ。
寺山さんは心優しい性格をしているので、そんなこと絶対にしないだろう。
「でもさ、断る理由を私が聞いても、最初は全然教えてくれなかったの。和泉曰く、『動機が不純だから』って言われるんだけど、別に不純な動機でも、教えてくれたっていいと思わない?」
「まあ、人それぞれ言いたくないこともあるしな……」
すると、上白根が内緒話をするように、こちらへ顔を近づけてくる。
「それでね、この前ついに聞き出すことが出来たんだけど、実は和泉って、好きな人がいるんだって!」
「えっ…⁉」
寺山さんに……好きな人……だと⁉
衝撃の発言を聞いて、俺の脳は処理能力が追い付かなくなってしまう。
「寺山さんに好きな人……寺山さんに好きな人……寺山さんに――」
「あっ、同じ言葉を繰り返すだけのロボットになっちゃった。おーい新治、しっかりしろー」
上白根に肩を揺さぶられるものの、俺は意識を失いかけていた。
嘘だろ……寺山さんに好きな男がいるなんて……。
うぅぅぅー羨ましい!!!!
「うぅぅぅ……寺山さーん……うわぁーん」
某市議会議員みたいに、泣き喚くことしか出来なくなってしまう。
だって、おっぱい見過ぎと注意された俺のことを、寺山さんが好意を寄せているわけがないんだから。
終わった、完全なる終焉。
俺の寺山さんに対する恋心は、上白根の一言によって、本人に伝える前に、儚く散っていくのであった。
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