とある、お話の死ぬという事と女達の気持ち【前編】

〜蘭子の気持ち〜


 高校3年の夏休み、太郎のお店に遊びに行くついでに寄る、太郎と付き合っている時の元間男?であり、太郎と親しかった鬼頭先輩と付き合う事になった。

 不思議なもので、避妊をやめたら即出来た。

 太郎は祝福してくれた。俺の大切な幼馴染と、俺を救ってくれた先輩が付き合うなんて最高だ、と。


 太郎は私の家で、笑いながら言った。

 俺は蘭子とはもう付き合わないと思う。もちろん一生付き合うつもりの幼馴染だ。

 だから、バイクを教えてくれて、バイトや放課後の楽しい時間をくれた、俺を救ってくれた鬼頭先輩と一生友人であると思える事は幸せな事なんだと言う。

 太郎が写真を撮ろうと言った。3人で笑顔で、肩を組んで…その時に言ったんだ…太郎が…


『俺でもこの瞬間は幸せだったんだって思える様に、3人…いや、4人か?写真を撮りたいんだ』


 それ、居なくなる奴の…死ぬやつの行動だよって茶化した。

 不穏なことを言うなってツッコまれた。

 後から知る、この時…既にサラの事を太郎は全て知っていた。

 鬼頭先輩は付き合う事…子供が出来ている事…そして太郎に言ったそうだ…お前の事を考えず、すまんって。

 しかし太郎の返事は…


『蘭子はずっと幼馴染だと言ってくれた、鬼頭君は楽しい時間くれてやると言ってくれた…二人の気持ちに救われたんだ。俺を救ってくれた人達の幸せ、祝わない訳ないでしょ?二人の子供なんて嬉しく内訳無いでしょ?』って笑いながら言った。



 結果、太郎はシアを忘れる為なのか、シアの真実を知って罰を受けるためなのか、全てを捨てる為なのか…最後に話をしたメグミがいないから分からないけど…太郎は…


 ただ、私と鬼頭さんは子供が小学校入る前に離婚した。子供は私が親権を持って、鬼頭さんは養育費は払うし慰謝料も払うというが…そんなのどうでも良かった。

 他に女が出来ても良い…いや、出来た方が良い。養育費、特に慰謝料なんてなんて要らない。

 ただこの子にたまに会ってほしい。貴方の子供でもあるのだから。私達だって憎み合って別れる訳じゃない…ただ、二人の心に穴が空き、二人でいるとお互いの心の穴が見えてしまい自分の穴を自覚するとお互いがおかしくなるだけだから。


 別れを切り出した時に鬼頭さんは微笑んで『分かってるよ』と言った。

 待てなかった私と、救えなかった鬼頭さん。

 一度は私も鬼頭蘭子になった…ごめんなさい、でも、一つ我儘を言うなら、太郎が祝福してくれた鬼頭の名前で、この子と共にいさせて下さい。


 1年に1度、動物園に行く。

 太郎の秘密の墓の前で祈る。子供と祈る。

 私は太郎に心で伝える。

『離婚したけど子供は元気、愛してる。鬼頭さんとも仲良し、私は幸せだよ。太郎はどうかな?』


 すると毎日いる白髪で、彼の最愛の女が応えた。

『タロァならきっと喜んでるよ、だってタロァだもん』

 彼女はいつもここにいる。


 何だかんだで私達はタロァの側にいる事を選んだ。子供とだけど。

 ねぇシア?あの二人に比べれば…私達は幸せなんだろね。


〜サラの気持ち〜


 夏休み…先輩と海にドライブに行った。

 インドアな先輩と私の、思い切ったデートだった。

 スクール水着っぽい水着着てみた、ちょっとだけ冒険した。ビキニまでは行けなかった…海に浸かるだけだったけど、楽しかったなぁ。


 結局、砂浜で私は絵を描いて、先輩は私のオススメの漫画を読んでいた。

 凄い気持ち、何かが溢れ出る。手が、これまでに無い速度で動いた。

 気付けば空いてる手で先輩の手を握っていた。

 

 先輩が握り返してくれた。心、心臓、ハート♥

 バイクを描いた、私を描いた、先輩を描いた、海を描いた、ハートを描いた…描き終えた勢いで…


 キスをした…カチンと歯が当たった。

 

「は、初めては…2人は初めてで…これからも初めてを…頑張りましょう!」 


 この時から足元がフワフワしていた…夢の中にいるようで…事務所に呼ばれ社長に言われた。


 クリスマスイブの大規模イベントのイラストと作曲の依頼…姉のシアの仕事だ。

 シアラを踏み台に私は家族を見返すチャンスに辿り着いた。


 別に名声やお金は望んではいないけど、姉を越え、世間を黙らす、これで先輩と歩んでいける。


 興奮していた、これがチャンスというものだと。


 現実を越え、姉を越え、私は先輩に伝えるんだ!


 こんな事がありました!知りましたよって!

 それに、楽しい事や気持ち良いを知りました!

 大人になれば知る事、無知だった私は知りませんでした!だから先輩と共有するんです!


 事務所で社長と、この仕事を受けてから始めた…いつもの行為をする。

 大分、上手くなったかな?何となく、先輩以外とするものではないと思うし、練習じゃなくて先輩との本番に望むべきだと思うべきだけど…今すぐあの海のドキドキを思い出すには仕方ない。


 社長に聞いた、初めては痛くて、痛がっている女を見ても男が困る。

 初めてかどうか気付く奴はいない。ましてや、やったことないなら尚更だ。

 優しく、仕事も私生活も優しく導くのが大人の役目だと言ってくれた。

 お酒ではないと思うけど、リラックスするお香を焚いてしてくれた。

 頭がボーっとしてまるで先輩が助けてくれた時の様な気持ちになる。

 だから初めては痛くなかった、頭が快楽に酔いしれた。

 それから、デザインが上手く行かないとムラムラしてくる、だから社長にやってもらう、最初は優しかった、今は激しく。


 アレの後は頭がよく動く、手が動く、デザインであれ、作曲であれ。

 脳、精神、肉体…快楽なのか達成感なのか、全てが廻ると、まるで釈迦の様な、悟ったような…

 たまに先輩の事を忘れそうになる…


 クリスマスのライブは大成功だった。

 その日の番組に宣材写真の様に化粧してウィッグ付けて、少しだけインタビューを受けた。

 明日から私が…シアラになる錯覚を覚えた。

 その日の夜は打ち上げで、記憶が無くなった。


 次の日の朝、先輩と連絡を取るが電源が入っていない…メールの返事もない…なんだろう?

 母からの電話には出ない、しつこい。

 後、数日で年が明ける。先輩と年越しは難しいかも知れないな…でも…明日も連絡はしっかり取ろう。声を聞きたいから。


 先輩が電話に出ない…電源が入らない。

 不安になった…だから…また社長に頼んだ。

 いつものようにソファの上で社長に跨り、絶頂に達する寸前にそれはいた。

 人の形をした身体中に様々な虫が蠢く化け物、虹色 3対6枚の羽。それは言った…


「羽…見えてるな…この子もか…だる」


 その後ろに親友…と思っているメグミちゃんが感情のない顔で私を見下ろし、驚いた。メグミちゃんは、何だか薬をやめろとか仕事をやめろと送りまくるのでおかしくなったと思ってた。

 メグミちゃんは抑揚の無い声で言った。

 

「サヨウナラ、サラ。私も知ったよ…無知である事は悪い事では無い。そして知ったものによって良くも悪くも成る。でもね、サラは…サラが知ったそれは…それは悪意の一つだよ……では、お願いします」


 虹色の蝶羽の生えた化け物は独り言の様に喋る。


「君主様…審判を…お願い…します…」


 よく聞くと事務所の人間のうめき声が聞こえる。

 何かが来た…


 一人は多数の光の輪と虹色の歪みの中に人形の何か。


 一人は様々な表情で筋骨隆々な三面六臂の巨大な女性の化け物。


 その真ん中に憤怒の表情をした恐怖の塊…赤黒い角の生えた巨大な鬼が赤色の目から血の涙を流していた。

 喋る声が聞こえる、化け物たちの姿とは違う優しい声。


「みんな、いつかは覚めますが。ただ、使った分だけ時間がかかる。この感じ…3ヶ月ぐらいですか、正気に戻るには…それは…死ぬより困難ですね」


「そうか…君、頑張ってな…いつかは、時が癒やしてくれるから、俺たちに出来る事はここまでだ…」

 

 まるで地獄、不安と恐怖と絶望しかない世界。

 それでも私は…美しい…と、思ってしまった。


 直後、突然何かが抜けていった。私のデザインや作曲の要、想像力や表現力を加速器させていた何かが抜けた。これがなければ姉を越えられない、母を見返せない、先輩と一緒に…アレ?おかしい…


 先輩といるために?じゃあ何で先輩と居ないの?私も先輩も望んだ、幸せだった2人で静かにあの店で、ただ2人で時を過ごす事…望んでたのに?

 

 海で約束した…手を繋いで約束した…全ての初めては一緒に…同じ速度で、同じ高さで、同じ気持ちで…歩いて行くって…なのに私が知って、教えてあげる?何で?初めては?この世界は何?王子様は?王子様はどうしたの?ずっと待ってたの、王子様。


「連絡取れなくなったでしょう?死んだからだよ。お兄ちゃんは、あの日に。お前が打ち上げとかいう幻覚にまみれていたあの日。ほら、手紙とコレ。」


 そして言の葉になっていない、感情の感じられない親友からの激情を脳に、心に叩きつけられた。


『お兄ちゃんはシアさんの車に激突して死んだよ。

サラ…お前の教えた夢の叶え方でな、本当に正しかったたどうか、延々に考え続けろ。私はずっと見てるから。生きるも死ぬも許さない。永遠に…永遠に贖罪し続けろ…』



 て、手紙?そ、そうだ…最後に貰った手紙には…返事が来て…私がメールで…早く会いたいって送った返事…先輩らしい、けどなんか引っかかる返事…


『俺の事は考えなくて良い、1人でも描き続けられるだろ?それがサラなんだよ。振り返っても良い、止まっても良い。でも…作り続けろよ?自分の世界を愛し続けろよ!俺はいつでも応援してるからさ』


 応援するって言ってたよ…じゃあこの手紙は…

 血?血だらけの紙に…王子様の気持ち…が…


『サラへ、頑張ってるか?元気にしているか?

 サラに伝えなきゃいけない事があるんだ。

 俺さ、全部知った、知ってたんだ。夏からの事。

 事務所の社長との事、ドラッグをしてる事。家族を越えようとしている事。

 俺は…あくまで俺はな、それでも良いと思う。

 それがサラの道なら、目指す場所なら俺は否定しない。俺はサラに教えてもらったからな。

 夢の見方、夢の叶え方、夢への歩き方。

 誰がサラを否定しても応援するよ、サラの夢。

 だから俺も夢を叶えにいくよ。

 やっぱり俺はシアを忘れられそうに無いんだ。

 だからさ、これで別れよう 

 でもさ、いつまでも応援しているよ

 悩みがあるなら相談にも乗る、話も聞くよ。

 だから、ずっと描き続けろよ

 サラが描いてくれた俺達の海の絵

 大好きだからさ

 沢山の思い出をありがとう

 絶望から救ってくれてありがとう

 歩き方を、翔び方を教えてくれてありがとう

        ファン1号の男 犬山太郎』

  


 読み終えると同時に便箋の中から指が転がった…

 私を助けてくれた人…暖かい気持ちを教えてくれた人…

 愛した人…指…確かに覚えている…約束した…

 繋いだ手…絡めた幸せの繋がり…その、指が…


 指…だけ…が…先輩…の?


 ―――――――!!!―――――!!、!!、


 死んだ!?死んだ!?しんだ!?シンダ!?

 言葉が出ない!?息が…出来無い…何で!?

 先輩は…私から教えて貰ったと言っていた!?

 

 自分がやっていた事が、言った言葉が、感情が…

 濁流の様に頭に入ってきた。

 ゆっくり後悔をする暇なんて無かった。

 頭の中、直しては壊し、治しては傷付き、幸せになっては…堕ちる…

 もう死にたい、死んだらあの人の所に…行けない。あくまが見ているから。

 死ねない、でも一生あの人に会えない、でも死ねない、あくまが見ているから。

 ただ…繰返しの悪夢に…私が…壊れ…



 ブーンブーン 風を切り 太陽の下を走る


 夏休み、先輩と海に行った、バイクで二人乗りで


――こんなに気持ち良いなら先輩とならきっともっと♥だからたくさん!もっと!♥――


 砂浜でシート広げて、やってる事は店と一緒

 でもこれも特別 だって、初めての事だから


――社長、私が先輩を養うんですよ、なんでもしてあげるんです♥――


 バイクのサベージ君、ここまでありがとうね。

 海だと店と違って先輩が沢山話してくれますよ


――母が頭を下げて来て、姉から先輩を取り返し、私は手に入れたんです!自分の才能で♥だからもっと!もっと♥――


 でも、店とは違うんですよ?

 片手は繋いでお話するんです。

 もう片手は思い出を描くんです。

 それで描いた絵は…自分で描いた絵なのに、とても暖かくて優しいんですよ


――先輩にもこの気持ち良いアートを知ってもらいましょう!♥みんな!ミンナで!♥逝きましょう♥ぎぼぢいい!♥溺れるうぅおぢるぅ♥――

 

 これはきっと私だけの絵 繋いだ掌

 誰も描けない私だけの世界 繋がれた心

 だから壊れても描ける 私の欠片が紡ぐ

 太郎さんが言った…この絵が一番好きだって

 笑いながら、少し泣きながら、言ってくれた


 だから私も 嬉しくて泣いちゃった

 2人で繋ぐ、2人で紡ぐ、2人で描く幸せ

 タイトルは『海と、繋ぐ王子と女の子』


―――なんで…いつまでも完成しないんだろう…完成したら行けるのに…あぁそうか…繋いで無いから…―――


 ごめんなさい…先輩…ごめんなさい



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