ついで。
食堂にて、様々な料理を美味しそうに頬張る子供達。その中にはポチとタマも居た。
主食は小麦をかん水を使って練って茹でた麺、つまり中華麺で、塩茹した野菜がたっぷり入ったスープに麺を入れたらチャンポンの出来上がりだ。
サイドメニューとしてマッシュしたジャガイモでポテトグラタンを作り、サイドのサイドとしてニンジンのグラッセも用意した。
デザートには小麦と豆乳、バター、砂糖でホットケーキモドキも作る。
重曹、ベーキングパウダーが無いのでバターをたっぷりと使う事で泡立ちを誤魔化したエルム。重曹程じゃないが、バターを上手く使うとしっかり膨らむ。
「さて、こんなもんかね」
ボロい建物を見上げたエルムは、足でトンっと床を叩いて樹法をゆっくり使用する。急激に変化させるとホコリが落ちてくるだろうと、エルムは子供の食事に落ちたホコリが入るのを嫌った。
子供が食事をしている間に建物の修繕を済ませる。その様子まで見ていて院長は更なる信仰に目覚めるが、それはエルムの知るところでは無かった。
(…………なんであの婆さん俺の事を拝むの?)
まさか信仰対象にまでなってるとはつゆ知らず、エルムは「感謝するにしても過剰」だとしか思ってない。
作業をしてると、モリモリと食べ進める子供が何人か異変に気付き、「おうちがあたらしい!?」「は? お前なにいってホントに新しい!? なんでぇ!?」とはしゃぎ始める。
(…………なんだ、この欠陥住宅。梁も柱も無駄なのが多い)
喜ぶ子供達には
重量を支えるにしても無駄が多すぎる柱や梁の配置を省いていき、使用されてる木材を徴収する。
(この余った木を使って豆とか用意するか。小麦の木みたいに術式の構築を工夫すれば何とかなるが、やっぱり最初からある物を変化させる方が楽だからな)
樹法の産物は魔力供給を切ると朽ちる。それを加味すると予め魔力を練り込んで置くか、盗賊達に食べさせた果物のように本人の魔力で維持させるか、色々と工夫が必要になる。
特に保存して少しづつ消費する前提の食べ物なんて、魔力を練り込んでおくにしても限度がある。
だからやはり、樹法で実態を残す時は植物性の触媒を大量に用意するのが好ましい。ゼロからでも出来ない事は無いが、エルムをして「面倒臭い」と思う程度には手間なのだ。
「…………こんなもんか」
しかし、今のエルムは大量の触媒を持ってない。なので課外授業に使う足を用意する為にその「面倒臭い」方法を使わざるを得ない。
孤児院の修繕で余らせた端材は全て食料に変えたので、エルムが使える分は残ってない。
「おにーちゃん、なにすゆのー?」
「あそぼー?」
「ごはぅ、おしひかったのぉ〜!」
孤児院に対する施しが殆ど終わったエルムは、庭に出て本命の作業を始めようとする。だが食事を終えたちびっ子に囲まれて身動きが取れなくなった。
「おまっ、ちょ、くっ付くなガキ共!」
「おにーたんあしょんで〜?」
「あそぼあそぼ〜」
子供達にとって、エルムは突然やって来て美味しいご飯を沢山くれたヒーローである。懐かない訳が無い。
「分かった、俺が悪かった。だからとりあえず離せ。楽しいオモチャをくれてやるから、俺を一旦フリーにしろ」
両手を上げたエルムが観念すると、子供達は「はーい!」とニコニコしながら離れた。
(さて、子供が喜びそうなオモチャか……)
エルムはいつくか日本のオモチャを想像しながら、種を一つ地面に落として樹法を行使する。
(これ、疲れるからやりたくねぇんだけどな)
発動した樹法は種を急速に成長させ、しかし地上には何も出て来ない。
恐ろしい速度で成長を続けるのは、一本の根っこ。木の根がただ成長し、伸び続け、王都の外に向かってグングンと進んで行く。
「いま準備してるから、ちょっと待ってろ。ついでだから材料を多めに集めっから」
キラキラした目で待ってる子供を見たエルムは、それだけ言うと目を瞑る。
王都の外まで伸ばした根は、そのまま平原に根を張る植物の根に接続し、吸収して行く。
(あまり大々的にやるとヤバいから、所々から少しずつ……)
突然平原の植物が全部枯れていた場合、ことの次第によっては疫病なり災害の前兆を疑う。そんな騒ぎになっても面倒なので、エルムは王都の外まで伸びた根を操作して網状に広げ、点々と少しずつ植物を回収する。
(…………お、遠いが森、いや林か? とにか樹木があるなら助かる。数本丸っと奪えば材料は足りるだろ)
外に小規模の林を見付けたエルムは、そこが人の管理下に無いことを確認してから五〜六本の木を根っこから全て奪う。樹法によって根っこから吸収された植物達は、遠く離れた孤児院の庭にて大樹として生えてくる。
「ふぅぅうう、こんなもんか。あとはコレを────」
更に樹法を駆使して、庭に生やした大樹を製材済みの板に加工していく。木の中に蓄えられた水分も全て絞り出し、畑の方に栄養としてぶち撒けたので木材はカラッカラに乾いてる。
それから木材を更に変形させ、十数種類のオモチャを一気に作成。
積み木なんかの「ザ・木のオモチャ」は当たり前に、他にもキックボードの様なオモチャや滑り台などの遊具も含め、本当に多種多様なオモチャが孤児院の庭に並んだ。
「ほれ、これで遊んでろ。ボドゲは後でルールも教えてやるから、今は俺のやりたい事をやらせてくれ」
エルムは五目並べ用のボードを一枚手に取って、目の前に居た子供に渡す。
院長はまた一つ、神の所業を目にして祈り始めた。
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