第50話 手段であって目的は保身

「――そういうことがありました。そして、縛り上げた彼は全てを諦めた様子で話してくれましたよ。自分がグロン・ギンベス伯爵令息であり、金でゴロツキを雇って王宮に向かう私を襲撃して強引に屋敷に引き返させることが目的だったと。いやはや肝を冷やしましたよ」



心の中では『肝は冷えなかったな』と思いながら冷ややかに笑うバーグ・レトスノム公爵に対して、国王は眉間にシワを寄せるほど難しい顔をしている。それもそのはず、国王からしてみれば息子の側近が公爵貴族の襲撃という大罪を犯したという話を聞かされたのだから仕方がない。



「……公爵の話は真かグロンよ?」



国王はグロン・ギンベスに視線を向ける。心の底では何かの間違いであってほしいと思いつつも、公爵が言うから間違いないだろうという確信がある。そのため、国王はすでに怒りすら抱いていた。



「はい……公爵のおっしゃるとおりです。俺は……公爵を襲って返り討ちにされて……」


「っ! ……馬鹿な……何故そのようなことをしたのだ!?」



本人が認めたことで国王は思わず声を荒げる。これで公爵の要求を受け入れるしかなくなったのだ。ガンマの卒業後に与える爵位の変更、ガンマの周りの者の選び直し。どっちも今から考え直すなど面倒なことだと言うのに。



「お、俺は……将来騎士団長になりたかった……。俺には剣しか取り柄がないから、親父の立場を継いで騎士団長になるしかないと思ったんだ……俺は嫡男じゃないし……。それなのに……ガンマ殿下がミロア嬢との婚約を破棄されれば、廃太子になるっていうから……」


「それが公爵の襲撃とどうつながるんだ!? 逆恨みのつもりか!?」



騎士団長になりたかったと生気の無い顔と焦点の合ってない目で語るグロン・ギンベスに国王は苛立ちを募らせる。公爵の方は呆れるばかり。



「ガンマ殿下が王太子として王位を継げないと、俺の出世にも関わる……そう思ったから婚約破棄を阻止しようと思ったんです……。だから……公爵が王宮に行かなければ、たどり着かなければ、婚約破棄を阻止できると思って……」


「…………は?」


「だから俺は……公爵が王宮に行けなくするために妨害したんです……。襲撃を受ければ王宮に行くのを止めて引き返すか、少しでも手傷でも負えば……なんて思ったのに……まさか、返り討ちにされるなんて思わなくて……」


「…………正気か?」


「私も同意見ですな……」



聞く側からすれば信じられない話だった。婚約破棄を阻止するためという理由で公爵を襲撃したというのだ。しかも、それは手段であって目的は保身だ。要約すると、己の将来のために主であるガンマの婚約破棄を阻止するつもりだったということだ。

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