第49.5話 一対一
(公爵視点)
真っ直ぐ向かってきた勢いを利用して縦斬りか。若者らしい。
「らぁっ!」
「むっ!」
その直前でフェイントか。まあ、そのまま切り込んできてくれればカウンターをくれてやったのだが直前で見抜いたか最初からフェイントをかますつもりだったか?
「らぁっ!」
「ふっ!」
フェイントの本命は横切り。序盤で凝ったことをするが、私はこの戦法に見覚えがある。何しろ戦友が見せてくれた戦法だからな。見覚えがなくても私なら見切れていたから防げたのは決してそのおかげというわけではない。
その後も何度か少年の剣を相手にしながら観察を続ける。彼の剣にはれっきとした己の意思を感じる。どうやら、彼個人の計画のようだ。……もういいか。ここらで反撃する。
「っ! いっ!?」
私の剣を受け止めた直前に体のどこかしらに大きな負担がかかって驚いただろう? 剣の振り方次第で受け止めた相手の体に大きな負担をかけて隙をつくる。難易度の高い剣術だから実際に行う者は少ない。その少ない中に私がいることは知らないようだ。そのうえでとっさに後ろに引いたのは良い判断だ。大抵の者はこれで隙をつかれてやられるのだが。
「ハァハァ……だぁぁぁっ!」
すでに息を切らし始めているにもかかわらず走って迫りくるか。そんな行動は戦時中では自殺行為だ。いや、兵法をよく知る騎士でもする者はいないだろう。あまりにも無謀なのだからな。
もう見ていられない。剣を通じて知りたいことだけは分かった。後は、本人の口から聞かせてもらうとしよう。
「これで終わりにしよう。グロン・ギンベス!」
「なっ!?」
私が少年の正体と思わしき名前を口にした時、聞いてしまった少年の方は動揺してしまった。その隙を私は決して逃さなかった。
「はぁっ!」
「うわっ!?」
私は剣を下から上に向けて振るうことで、動揺した少年の手から剣を弾いた。空に向かってくるくると回る少年の剣はすぐに地に落ちる。その直後、少年の素顔が暴かれる。どうやら、剣を弾くだけだったのに顔を隠していた覆面まで斬ってしまったようだ。
「あ……あ……」
一瞬の隙をつかれて剣を弾かれたショックのせいで、膝から崩れ落ちて戦意を喪失する少年。相当悔しかったと思っただろうな。まさか、ここまで差があるとは思ってもいなかっただろう。いかに私がこの国で英雄視されていようとも結構年を取っている。だから油断したのだろうな。
「ま、まさか……ここまで、差がある、なんて……」
……む? 私の予想通りの言葉を呟いたではないか。いや、そんなことはどうでもいい。勝敗は決したのだ。後はこの場で縛り上げて色々聞かせてもらおう。
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