第49.3話 賊の襲撃

(公爵視点)



後一日もすれば王宮に着く。もうそこまで差し掛かった頃に、突然それは起こった。



突如、黒ずくめの武装集団が我らを囲むように現れたのだ。何十人くらいいる大柄な男達が剣や槍、弓矢をもって馬車ごと取り囲む。



「レトスノム公爵はいるか!」


「悪いがここから先へは行かせない!」


「場合によっては始末する!」



私達は即座に理解した。賊の襲撃だと。



「仕掛けてきたか……」



襲撃を受けたと悟った私は……口角を上げてニヤついてしまった。何しろ戦わざるを得ない理由ができたのだ。久しぶりに剣を振るうことができると思うと血が滾るような感覚を思い起こさずにはいられなかった。



しかし、私が剣を振るうまでもないようだ。



「賊の襲撃だ! 旦那様を守れ!」


「馬車を中心に円陣だ! 中に入れるな!」


「ここで返り討ちにしてくれる!」



何しろここには我が公爵家の精鋭がいるのだから。それでいて若くて頼もしい優秀な騎士たちがいる。彼らに経験を積ませるという意味でも私がでしゃばるわけにはいかない。残念ながら私は馬車で待機だ。



「まあ、いざとなれば……という心配もないか。見たところ黒ずくめの武装集団は武器はともかくとして腕っぷしだけの素人のようだしな」



馬車の窓から見ても敵の賊は訓練された者はいないようだ。おそらく大金で雇われただけのクズだろうな。気をつけるものがあるとすれば武器くらいだろう。こんな連中を雇った者も大した者でもないことも分かる。こんなことを仕組む者が頭の切れるタイプならば訓練された兵を賊に変装させて襲撃するだろうしな。



「……随分と稚拙で単純な計画なのだろうな。戦時を生き残った者が考えることではない。首謀者はガンマ殿下か近しい者だろう。幼稚な若者でなければ説明がつかん」



私は嘆かわしく思う。もしも今が戦時中ならば、私を襲撃するのにこのような手段は無駄すぎる。屈強な兵士を差し向けるなり、深夜にことを起こすなりの工夫が施されるのが襲撃の常識だったのに。



……おっと、私が今と昔の戦いを比べながら思案している間にも戦いはこちら側の勝利に終わろうとしている。この短時間でもうあれだけの人数に勝てるとは流石は我が公爵家の精鋭達だ。相手が弱すぎたんだな。



「こ、こんなのってあるかよぉっ!」


「む?」



賊側から随分と若い男の叫び声が聞こえた。

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