第32話 前向きに
ミロアが目覚めてから十四日目、今日もミロアはソティーから訓練を受け続けていた。
「ミロアお嬢様! その調子です! もっと速く!」
「はい!」
今日の訓練は初日よりも厳しかった。それというのも、ミロアがソティーの思っていた以上にやる気を見せ続けていたからだ。ソティーの予想に反して、一切の弱音を吐かないどころか体力が尽きるまで張り切って取り組み続けるミロア。それに深く感心したソティーはもう少し厳しくしても大丈夫だと判断したのだ。
(お嬢様はすごい。まだまだ素人の動きではあるが、私の課した訓練にこんなに前向きに取り組めるなんて思わなかった。やはり当主様の娘だからなのだろうか? これは鍛えがいがある!)
ソティーはなんだか楽しくなっていた。そして、その気持はミロアも同じだった。
(久しぶりに運動するのもいいわね! 前世の学生時代を思い出すわ! ソティーの訓練って体育の授業みたいで本当に楽しい!)
ただ、ミロアには前世の記憶の影響があったゆえに今の状況を楽しめるのだ。だからこそ、ソティーの訓練を耐えれるし楽しめる。ただ、そんなミロアの姿など第三者から見たら不思議な光景でしかない。事実、他の騎士や使用人たちは目を丸くしたり、深く感心したりしている。
「すごいな、ミロアお嬢様は。あんなの騎士見習いの訓練だろ? 護身術なのに厳しすぎやしないか?」
「全くだ。それほどまでにガンマ殿下が危険なんだろうな。そんな男が婚約者だったなんてお嬢様も苦労されていたんだな」
「貴族令嬢どころか私達みたいな侍女だってあそこまで走れないし運動できないわ。流石は旦那様の御子様……」
それは、この二人も同じだった。
「な、なんということだ……。ミロアお嬢様があれほどまでに熱心に訓練に取り組んでおられるとは……! やはり旦那様の血筋故に剣士の血が騒ぐのか……!?」
「しかし、これでは護身術というよりも並の剣士になるための訓練になるのではないか? いや、お嬢様も乗り気である以上、我らが口出しするというのも無粋……どうすれば?」
老兵のダスターとスタード。ソティーをミロアの指南役にしたこの二人も、驚き戸惑うのも仕方がなかった。ソティーの訓練内容もそうだが、それ以上にミロアが前向きに厳しい訓練に励み続けることに驚かされたのだ。
「もしもミロアお嬢様が男子であれば、旦那様を凌ぐ剣士に……いや、考えすぎか」
「これは……あともう一人の専属騎士を慎重に考えなくては。旦那様にもご報告せねばな」
老兵二人は二人の若い女性を眺めながら静かに決意した。
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