第31.3話 勘違い

(女性騎士視点)



ダスター様とスタード様からはお嬢様に護身術、つまりいざという時に己のみを守れるだけの技術を身につけさせる指南役を頼まれたのだ。そんなことを頼まれた私はとても驚いてしまった。お嬢様に護身術が必要ということは、また戦争が始まると思ったからだ。レトスノム公爵家のご令嬢であるミロアお嬢様の身柄に危険が迫る理由があるとすれば他国の介入しかないと私は勘違いしてしまったのだ。



しかし、実際は違っていた。というか、私の予想とは大きく違いすぎていた。



ダスター様とスタード様は詳しい話を聞かせてくださって、私は初めて全体の流れを知った。知らなかった自分を恥じるほどに。



まず、お嬢様が3日間も寝込んだのは学園で別の女性の尻を追いかけるガンマ殿下に突き飛ばされたショックで絶望して、自らの意思で二階の窓から飛び降りたこと。次に、起きた後で殿下に愛想を尽かしたお嬢様が婚約解消を望んだのに、それを王家が了承しなかったこと。そして、文句を言いに来たガンマ殿下からダスター様とスタード様が守ってくださったこと。こんなに大事なことを私は知らなかったのだ。



だからこそ、お嬢様は学園に復帰したあとのことを考えて護身術を学びたいと望んだということで、その指南役に私が推薦されたのがこの話。本当なら喜ぶべきなのだが、お嬢様が大変だったことを知らなかった私は指南役にふさわしくないと思って辞退した。しかし、ダスター様とスタード様はそれでも指南役は私しかいないという。



「我が公爵領の中でお嬢様と歳が近くて武芸に秀でるのはお主しかおらん」


「お嬢様は今、良き方向に成長しておられる。故に、お主はいい刺激になろう」



……結果的に私は根負けしてお嬢様の指南役を任されることになった。





お嬢様は貴族のご令嬢。父君である当主様は私も尊敬する剣士だが、お嬢様は剣を持ったことすらないはずだ。なので、まずは体をほぐす運動から始めて基礎的なトレーニングを学んでもらい、体力づくりと精神力の向上を促す。それが私のやり方だ。



そして、初日で私は驚いた。お嬢様が一切弱音を吐かなかったのだ。お嬢様がどれだけできるか知るためにも素人には少し厳しい訓練を選んだのに、お嬢様は起き上がれなくなるまで訓練を続けられたのだ。てっきり、普通の令嬢らしく弱音を吐いたり文句を言うと思ったのに。



もしや、お嬢様はこのような訓練をしたことがあるのではないか、と思った私はお嬢様に何気なく聞いてみた。そして、こんな返答をなされた。



「はぁ、はぁ……ぜ、前世で学んだのよ……」



ゼンセ……聞いたことがないが、そんな名前の人から学んだのだろうか? それとも地名か? いや、これは機密情報では? 勘違いしそうな単語で返答されてしまったため、もう深く考えないようにしよう。

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