古竜の正体のようです
「――あの古竜は、恐らく『
シュリヒテはどこから持ってきたものか、一つの書物をその場に開いて説明を始めた。
「古竜の出現からこっち、集められる限りの文献と資料を漁ってその正体を探ろうと試みていた。〝古竜〟というのは単なる総称だ。今まで現れた全ての古竜が同一のものなわけがない。様々な種類がいる」
その説明を聞きながら、目を白黒させるしかないスタルカ。
恐らく隣で聞いてるクロウシも似たようなものだろう。
ブランについてはわからない。いつものように胡散臭い微笑をずっと浮かべている。何を考えているのかすらも読み取れそうにない。
だから、ひとまずブランについては放っておくしかない。スタルカはそう決める。
それよりも今は、頑張ってシュリヒテの説明を理解しようとしなければ。
「あの古竜が一体どんな種類のものなのか。過去に似たような個体は出現しているのか。だとしたら、その特徴は? 生態は? それらが判明すれば、何か有効な対策が立てられるかもしれない。戦って倒すか、追い払うかにあたってのな」
あるいは、と続けて。
「過去、先人達は如何にして退けたのか。
シュリヒテの「ここまではいいか?」という確認に、スタルカはなんとか頷きを返す。
シュリヒテは古竜の種類を突き止めることで、その弱点と倒し方を探ろうとしていた。概ねそんな理解でいいはず。
「そして実際に確認した古竜の姿や特徴と照らし合わせ、調べた結果だが……。結論から言うと、該当する情報が存在した。恐らく
それがこの『
シュリヒテはそう言いながら、書物の中のある記述を指で指し示す。
「全身から突き出した、透き通る鉱物のような〝鱗〟。半透明のそれが光を乱反射させることで、薄白くぼんやりと発光する身体。ここに書かれているその特徴と、実際迫りつつある古竜のそれは完全に一致している。間違いはないだろう、多分」
「過去の出現例と、それに関する記録が残っていて何よりだよセンセイ。それで、肝心のことはわかったんスか?」
クロウシがそう尋ねる。口を挟むようにして。
口調は茶化している風にも聞こえるが、その声には若干の焦りが混ざっていた。
案外、気が逸っているらしい。不本意ながらそれに関してはスタルカも同じ気分なのだが。
「ああ。それに関しては何とも幸運なことにな。
シュリヒテはそう言うと、全員の顔を見回してくる。
まるで何かを確認するかのように。
スタルカ達も緊張に身を固くしつつも、視線だけで続きを促す。
「……その記録によると、『結晶鎧竜』のその特徴的な鱗には最初一切の攻撃が通じなかったらしい。どんな刃でもその鱗を斬ること
それを聞いて、しばし全員が沈黙する。その言葉を噛み砕いて飲み込むために。
えーと……つまり、その記録を信じるのであれば……。
「勝てねえじゃん、誰も。反則にも程があるでしょ」
「そう結論を急ぐなよ。これは一応〝討伐の記録〟だと言っただろ」
クロウシの素朴なツッコミに、シュリヒテはそう返す。軽く嘆息しつつ。
ということは。
スタルカは縋るようにシュリヒテを見る。沈みかけた気持ちをどうにか持ち直しながら。
「無敵のように思えるこの鱗だが、唯一通じる攻撃があった。〝魔術〟だよ。とにかく魔力の類をぶつければこの鱗に傷をつけられると先人達は解明したそうだ。……〝一度に、大量に〟という条件はあるが」
シュリヒテは悩ましい顔をしつつ、「なので」と続け、
「記録によると、大勢の魔術師が一気に魔術を集中させて放つことでその鱗をどうにか砕くことが出来たらしい。鱗さえ砕ければ、他の武器や攻撃も通るようになる。そうして無事に結晶鎧竜を討伐することが出来たというわけだ。めでたし、めでたし」
「おお~……」
スタルカは思わずクロウシと一緒に小さく拍手をしてしまった。
なるほど、そういうことなのか。感嘆の声をこぼしつつ。
「……そんで、その
「……古い記録で、叙事詩に近いって言ったろ。残念ながら、正確な人数なんぞ書かれてはいなかった。ただ……この結晶鎧竜を討伐するために、
恐る恐るで投げかけられたクロウシの疑問。
それに対してシュリヒテは言いにくそうに答えつつ、遂には言葉を濁してしまった。
「――だが、まあ、とにかく結晶鎧竜について今のところ
シュリヒテが一旦今までの話をそうまとめる。気を取り直すようにして。
言葉と共に、シュリヒテは指を一本ずつ、三本立てた。
他のことはひとまず脇に置いて、今考えるべきはその三つ。シュリヒテはそう言いたいのだろう。
その指を見つめながら、スタルカも慌てて今までの情報の整理を試みる。
「……ということは、つまり――」
スタルカは呟きつつ、愕然としてしまう。
その三つの事実が指し示すものに気づいてしまって。
スタルカがそれに思い当たったらしいことを悟ったのだろう。
シュリヒテが頷きと共に、ハッキリと口にしてくる。答え合わせのように。
「あいつにとって――カティにとって、この結晶鎧竜は相性最悪の相手ということになる。何せあいつは筋金入りの〝脳筋戦士〟だからな。力任せにぶん殴る以外の戦い方が出来るとは思えない。魔術を使えるなんて話も聞いたことがないしな」
つまり、カティにはあの鱗を砕く手段がない。
シュリヒテは盛大に嘆息しつつそう言い切った。
「だから、あいつの攻撃は結晶鎧竜に一切通じていない。そういうことになる。そんな状態で殴り合ってどうにかアレを足止めし続けてるらしいってんだから、それだけでも大したもんだがな……。いつまでも続けられるものじゃないことも確かだ」
それはそうだろう。スタルカにだってわかる理屈だった。
カティがどれだけ攻撃しても結晶鎧竜にダメージを与えることは出来ない。
しかし、その逆は違う。
結晶鎧竜からの攻撃はカティにも通る。当たり前だ。
戦いの中で先に削れていくのはカティの方だろう。どれだけカティが頑丈だとしても。
「だから、あいつだけでは結晶鎧竜には決して勝てない。当然だな、倒す手段を持っていないんだから。今は互角に渡り合えちゃいるみたいが、相手を倒せないとなるとあいつの方が先に限界を迎える。つまり、行き着く先は
シュリヒテはそう結論を述べた。極めて冷静に。
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