第13話 心の鍵
大学生でも中退をせざる得ない人が増加している、というニュースを耳に挟んだとき、私は背筋が凍るか、と思った。
友達にもそれを話したら同じように陰気な顔をしていた。
担任の先生はその現実を知ってもなお、私たちに大学受験まであと一年半! と口酸っぱく言っているのにいつ、母が大学を諦めて、と口を開かないか、びくびくしている私がいる。
真さんはどうして、高校を辞めてしまったんだろう。知的欲求も高そうに見えるし、大学生でも読まないような難しい本(前に読んでいたのは『孤独な散歩者の夢想』というタイトルの本)を何かしら手に持っているのに、神さまは徒らに苦難を与えるのか、不条理だ、と投げかけたい。
私だって一寸先は闇、刻々と迫る明日さえもシャットダウンするかもしれない。
月並みなポエムをツイッターで投稿する気はない。
私の心の鍵にしっかりと固定したいだけ。
西方の、城山に沈みゆくお日さまが夏を引っ張っている。
桜島も薄紫色の衣をかぶり、ずっしりと湾の上で構えていた。
西日を浴びていた真さんの背筋は曲がっていなかった。
帰り際に私は生まれて初めて歌集を購入した。
マルヤガーデンズの六階にある、ジュンク堂で慣れない手つきでその本をレジに持っていくと、若い女性の店員さんが頼もしそうな眼の色に変わり、ハッとさせられた。
高校生で歌集を買う人なんて滅多にいないから、ちょっと褒められているんだ。
他の客さんも雑誌やベストセラーのミステリー小説、子供連れのお母さんなら児童書を持っていたし、私にはちょっとした誇らしさが生まれていた。
マルヤガーデンズを出ると空にはグラスに入ったワインのように染まった入道雲が浮かんでいた。
十七歳の夏休みは例外的に、そう、悲劇的に終わったんだ。
まあ、グズグズと弱音を吐くな。
歌集なんて初めて買ったけれども部屋でゆっくりこの本を読んで気持ちを落ち着かせよう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます