本作は、物語にすっきり爽やかな読後感や、派手なエンターテイメント、ハッピーエンドを求める方にはおすすめしません。
というのは、この物語は、主人公達を襲う悲劇で始まり、悲劇に終わり、ほぼ救いがありません。
これは、作者様も作品紹介に記載されている所です。
しかし、本作品には、バッドエンドとはわかっていながらも、読み手を惹きつけ、物語の中に引き込む「力」があります。
【あらすじ】
王太子エドワードと、公爵令嬢のステファニーは幼い頃に婚約し、婚礼を翌年に控えた相思相愛の仲。
そんな中、ある事件によって二人は引き裂かれてしまい、それぞれに別の伴侶を得る。
ステファニーの夫となったエイダンには、嫉妬深い愛人・エスターとその息子がおり、ステファニーは、彼らとの関係にも苦しめられることに。
一方、ステファニーを忘れられないエドワードの行いは徐々に度を超し、即位後も変わらず。貴族や側近達から見放され、民衆の不安を煽って民主化運動へと駆り立て、隣国との国際問題にも発展し……?
【みどころ】
本作の見所は、一つの出来事が更に呼び込む悲劇の連鎖、それによって展開される人間模様、心の機微にあると思います。
加えて、物語を描き出す、作者様の洗練された筆致。引き込まれました。
ここに描かれているのは、人間の弱さであり、いかんともしがたい程の愚かしさ、拙さであり、時に目を覆いたくなるほどの醜さでもあります。
例えば、この物語において、最も甚だしい行動を見せるエドワード。
王太子という立場故、ステファニーとの婚約を解消させられてなお、諦められず。
王としての立場•体面も顧みず、周囲に憚ることも無く、ステファニーの立場や考えにも配慮もなしに、ただ必死にその愛にしがみついていく。
それは、溺れる者が救いを求めてもがく姿に似て、一方では悲哀を感じさせながら、どこまでも生々しく、読者の前に立ち現れてきます。
エドワードが見せた「割り切れなさ」や「弱さ」は、巻き込まれる周囲や執着されるステファニーにとっては、中々受け容れがたいところもあるでしょう。
一刻の命運を背負う王という立場であれば尚更。
しかし、一人の人間としては、これも人間の一つの在り方かもしれない、と考えさせられるような物語でした。
個人的には、最期のステファニーの台詞も気になっています。
あれは、本心のものか。或いは、合わせただけなのか。それとも……?
それをどのように取るか、によっても、
また物語は全く異なる色を見せようかと思います。
【こんな方に】
わかりやすく、万人受けするような物語ではないことは確かです。
しかし、味わい深く、じぃんと心に「何か」を突きつけてくる、魅力ある作品です。
濃厚な人間ドラマを楽しみたい方、引き込まれるような物語を読みたい方に、おすすめします!