第13話 嫉妬

いくら院長達3人がステファニーを悪意から守ると言っても、修道女は大勢いるし、付属の孤児院や母子寮にも住み込みの女性職員がいるので、ステファニーの噂や悪口を広める者がその中から出てくることはどうしても防げなかった。かと言って、ステファニーが婚前に純潔を失ったために婚約者だった王太子と結婚する資格をなくしたというような繊細で個人的な事情をそんなに大勢の修道女に話すわけにはいかなかったし、ステファニーもそれを望んでいなかった。


隔絶した世界のはずの修道院でも、ステファニーの素性に関する噂は外からも流れてきた。貴族女性は平民と違って特に純潔や貞節が重要視されるので、この修道院に来るわけありの女性には、問題を起こした貴族の娘や元妻が少なからずいた。だからステファニーが相手を個人的に知らなくても、相手側がステファニーを王太子の元婚約者だと認識できることもあった。


ステファニーが誘拐されたことは報道規制されたが、王宮に勤めている者達には知られており、一応緘口令は出されたものの、話が広がるのは防ぎきれなかった。もしそのことを知らないとしても、面会者から聞き知ることもあっただろう。男性は家族でも修道女と面会できないものの、女性は面会できるのだ。そういうところからステファニーの事情が修道院でもどんどん口伝えで広まっていってしまった。


「ねえ、あの方よ。王太子殿下の元婚約者。純潔をなくしたから婚約破棄されたんですって」


「いやねぇ。あんな清廉潔白そうな顔していて淫乱なのね」


「それなのに院長先生にあんなに気をかけていただくなんて生意気よね!」


「本当に!」


ステファニーが麦わら帽子をかぶってアポロニアと中庭で雑草を抜いていると、中庭に面した回廊を歩く修道女達が話しているのが聞こえた。ステファニーから彼女達が見えているのだから、彼女達もステファニーに気付いていてわざと話しているのか、それとも麦わら帽子のせいでステファニーを認識できないのか-ステファニーはそう思ったが、そんな陰口を聞くのは初めてではないから、聞こえないふりをして雑草を抜き続けた。


アポロニアが注意しようとして立ち上がったが、それに気付いた修道女達はあっという間にその場から逃げていった。アポロニアはそれでも彼女達を追おうとしていたが、ステファニーはアポロニアの腕を掴んで引き留めた。


「いいんです。言わせておきましょう」


「でも注意しないと・・・」


「あの方達に言って私の悪口をやめてもらっても、今度は別の方達が悪口を広めます。きりがありません」


ステファニーの毅然とした態度は、かつての未来の王太子妃の姿勢を彷彿とさせた。

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