第3話 襲撃

エスタス公爵家は王宮まで馬車でせいぜい10分ほどの場所にあった。高位貴族ほど王宮に近い場所にタウンハウスを所有していたからだ。だが、その日はステファニーが帰宅することはなかった。


突然馬車がガクンと揺れ、停まった。ステファニーは不安そうに専属侍女ジャクリーンを見た。


「お嬢様、窓の外を見ないで座席の下に身をかがめてください」


ジャクリーンが御者台との仕切り壁にある窓を覗くと、御者は倒れていた。騎馬で付いてきた公爵家の護衛騎士2人は、襲撃者達に対して劣勢のようだった。ジャクリーンはステファニーの上に重なって身をかがめた。


剣と剣がぶつかり合う音が永遠に続くかと2人は思った。突然その音が止んだかと思うと、馬車の扉が乱暴に開けられた。


「馬車から出ろ――おっと、侍女には用はない。このまま馬車にとどまれ」


「そうはいきません。私はお嬢様にどこまでもついていきます!」


「仕方ねえな。ほんとはなるべく女は傷つけたくなかったんだが・・・」


最後まで言う前に大男がジャクリーンに強烈なパンチをお見舞いして彼女は一発で気を失った。


「ジャクリーンに何をしたのですか!」


「安心しな。殴られてちょっと気を失ってるだけだ」


あっという間に口元に刺激臭のする湿ったハンカチが当てられてステファニーの視界は暗転した。

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