集団

〔葵〕

 どんな社会集団にも,グループによる序列というものがある。それは役職によるものだったり,自然とそれを評判が作ったものだったりする。そんなわけだが,もちろん私の学校にも,その序列はあった。

「どうしたの葵ちゃん,そうなぼーっとして」

「ぐみちゃんの可愛さに見惚れてたの」

 ぐみちゃんとは,私の友達だ。本名は岩倉と同じく「具視ともみ」というのだが,親しくなろう,と私がぐみちゃん,と呼ぶことにしたのだ。ぐみちゃんは眼鏡をかけていて,肩まで髪を伸ばしている。前髪が長いのでわかりにくくはあるが,顔は整っている。ただ,よく見ないとわからない程,雰囲気で損をしているので,クラスでは評価はあまり高くない。

 しかし,一緒に過ごすと,彼女の深い人格や,美しさに気がつくので,私からの評価はとても高かった。

 現実を見てしまうと,私たちはスクールカーストの中でも中の下くらい。特に注目もされず,目の敵にもされない心地いい位置なのだが,今回の一件で少し変わってしまった。

 ぐみちゃんの綺麗さに気がついた趣味の良い少年,少年Xとしよう。とにかく,少年Xがいたのだが,その少年Xにクラスのアイドル的マドンナ風注目の的,熊野さんがお熱をあげていたのだ。

これは非常にまずい,というわけで,彼女の傘下のようなグループが,ぐみちゃんを一生懸命に勧誘している。

そして,なんだかんだあって私もクラスの上位グループに入れと圧をかけられているのだが,入りたくない。

だが,お互い入らない選択をしてしまうと,名前を口に出してはいけない「あの惨事」が起きてしまう。そこで,今悩んでいるという状況だ。

「ところでさ,楠田くんだから少年Xって安直だと思う?」

「流石に行かないんじゃない?安直とまでは」

そこで現状に疲れたのか,ぐみちゃんは眼鏡を外し,少し長いため息を吐いた。

「あ,イだ。」

「え?」

「イだよ,イ。藺草だよ。畳に使われる」

イグサと言われ,少し瞳孔を開く。自分の義姉の名前かと,勘違いしてしまった。

確か,青藺は今,高校の校外学習に行っている。

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