閉鎖

〔蒼〕

 やはり、母親が死んでもあまり悲しくなかった。正直、母親が死んで悲しかったら彼女を思う気持ちがまだ残ってたんだな。と感じることができた。それに比べ、葵達は少し悲しそうだった。

 僕はこれから2人と過ごせるのだろうか?過ごす権利はあるのだろうか?母はダメ元で頼んだ殺し屋に殺された。まあ殺しを生業としているのだから、“殺し屋に殺された”ではなく“殺し屋が殺した”の方がいいだろう。

 落ち着いた葵がようやく口を開く。

「あ、蒼威あれが開いてるよ」

「ん?」

「ほら社会の窓が」

急いで確認すると、開いていた。

 蒼威が早急に窓を閉じる。それを見て、葵が寂しく笑う。


〔葵〕

 パソコンを初めて使った。碧生から借りたものだ。気づけば、小一時間使っていた。現代の技術の進歩を感じる、という旨の事を碧生に伝えると,碧生は笑い、パソコンの画面を覗いた。

「おいおい、ウィンドウはこまめに閉じとけよ」

葵が渋々窓を閉じる。碧生がマウスを握る。


〔碧〕

 スマホを返してもらった。嬉しい。何やら学校の前に落としていたらしい。

俺はこの宍向市ししむしの市民が善良人達であると信じているのだが、信憑性は高そうだ。

いつのまにか入っていたアプリを開く。ロウソク足チャートのマドが3つ空いていた。確か,三空とか言ったはずだ。

スクリーンショット略してスクショをし、落書きツールを出す。黒で、マドを閉じる。そこに、青藺が来た。

「あ、スマホあったんだ」青藺が無表情で言う。


〔青〕

 私たちは葵の言う通りこの事件をいつか思い出として、また笑えるのだろうか。何を考えても、今はくだらないものになる気がして、嫌になる。

 自分の部屋に戻ると、窓が開いていた。そういえば、昨日の夜僕が開けてからずっとこうだった。やはり空気は夜の色に染まったままだった。

 陽花は、何をしようとしたのか、碧生は陽花の、蒼威の何を止めようとしたのか。うまく思い出せなかった。あまりにショックだったからかもしれない。何がショックだ?

とにかく、思い出すのは陽花と碧生だった。


「やっぱり、時代はボクっ娘だよ」


 そうかな,どちらにせよ、僕はまだ彼女になりきれていない。


「俺がいなくなったらさ、あいつらのこと見てやってくれよ。特に、蒼威とかさ」


 不甲斐ない姉ですまなかった。いや、彼にとっては妹か。なぜか涙が出てきそうになり、誤魔化そうと慌ててそっと、窓に向かって踏み出す。

 一瞬の時間は終わり、青藺が窓を閉じる。

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