失物

〔青〕

 陽花のいる病室に向かう。驚かしてやろうと思い、病室近くで足音を忍ばせる。中からは、咳払いが聞こえてきた。

「あんたみたいな役立たず,産まなきゃよかった」という母親の声が聞こえた。一瞬怒りに視界が揺れる思いがした。が,、すぐに違和感に気づいた。陽花の母親は、今仕事中のはずだ。訳がわからず、とりあえずその場を離れるしかなかった。


「でも、そ、その台詞は陽花姉さんの最後の夜に聞いたことあったはず、」

「うん。たぶんだけど、あれは録音で私たちが母親を殺すよう仕向けていたのかも」

 碧生が葵に思いを託したのと同じで。

「ど、どうしよう。何が起きてるのか全然わからない」

「これまた推測だけど、今はこれで大丈夫だよ。いつか,私たちが強くなって、これも思い出にできるまで」それっぽいことを言って、蒼威を葵が励ます。


〔葵〕

 家に帰る。この家路が、人生で一番長く感じるかもしれない。もう夜の11時を回っていた。

「良い子はもう寝ないとね」

そんな軽口を叩いた時だった。足に、何かが当たった。石にしてはおかしい。拾い上げてみる。目を凝らすと、それは銃だった。それと同時に、今まで父親にバレないような、陰湿な暴力を振るってきた母親を思い出した。

「どうしたのゼラ?」

誤魔化せ。

「なんか面白い形の石があった」

「気になるなぁ。見せてよ」

誤魔化せ

「家に着いたらね」

 なんとか、上手く誤魔化せた。と思う。何故こんな所に銃が落ちていたのか。やはり、どうしても母親が頭をよぎる。

「あ、ごめん!さっきの穴の近くにスマホ落としたっぽい。先行ってて」

 1人、暗闇の中を進んでいく。母親が見えた。スマホのライトで辺りを照らしている。震える手を握り直し、周りとほぼ同化した黒い物体を見る。

 今までの過去が流れるように脳内を流れ,手が自然に母親の方を狙った。そして、少しの間が空き、母が銃に撃たれたように倒れる。引き金はまだ引いていない。混乱の最中に、蒼威が来る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る