第7話 悪役令嬢のための準備
マリアンヌが俺の部屋に戻って、仁王立ちしながら高らかに宣言した。
「さぁ!! ミチタカ! ゲームをさせなさい!!」
「ちょっと待って。準備終わらせてからね」
「ええ! 待っていてあげます。なるべく早急に、早々に準備なさい」
マリアンヌは傲慢なお嬢様らしく俺を召使のように扱う。
……といっても、そうじゃなきゃ彼女がゲームをできないのがわかっているから、そんなに腹立つことはないけど。
道隆はゲームの準備に取り掛かかりながら心の中で道隆は呟いた。
――……ゲームの時にあったあのお淑やかさはどこに行った?
もう少しクール系だと思っていたけど、取り繕う理由がないから、とか? 王子たちの前だったからああいう振る舞いだったのだと思うと、猫かぶりはしてはいないタイプなのがわかって少しほっとした。
俺、ぶりっ子女子はかわいいとか側の人間の気持ちは否定しないけど、こういうお嬢様タイプとは現実でも遭遇したことないんだよなぁ。
まあ、今が現実だってはっきり断言したくなる状況じゃないのも事実だけど。
「どうかしましたの?」
「別に、なんでもないよ」
とりあえずマリアンヌにはゲームをプレイしてもらえないと、俺が現実世界から消えてしまうのも事実だし。
成り代われるのも嫌だから、早急にクリアしてもらおうじゃないか。
よし、コントローラーの位置も問題ない。
俺はテレビの横に置いてある家庭用ゲーム機の電源を入れる。
テレビ画面の設定とかは、昨日のままなので特に問題はない。
ゲームを起動させて、まず俺はOPニングをスキップせず、マリアンヌに見せることにした。
「な、なんなんですの!? これは!!」
「え? だから、ゲームが始まったよってことだよ」
「そ、そうではなく、なぜ音楽が響く中、あの女は他の殿方の方々が出てくるのです!?」
ゲーム画面を指してプルプルとマリアンヌは固まる。
……ゲームしたことのない人だったら、当然の反応、なのだろう。
特に相手はゲームの中の中世風世界の悪役令嬢なわけだし。
道隆はマリアンヌによくわかるよう解説をする。
「ああ、このゲームが始まる前についてる映像だよ」
「映像……? 水晶玉の投影と似た物ですか?」
「まあ、そんな感じ。あれに人が手を加えた物が映っていると思ってくれればいいよ」
お、意外と話が分かる。
ゲームの中でも似たような場面が出てきたように思うけど、それのことを差して言っているのか。だったら、色々とわかりやすく説明もできるだろう。
「で、でもあの女以外の男たちとの距離感が近い物ばかりが映っていませんか!?」
「そりゃ、乙女ゲーだもの。多少のネタバレの映像はあるよ」
「そ、そういうものなんですの!? ……ふ、フシダラですわっ、は、ハレンチです!!」
マリアンヌは頬を真っ赤に赤らめながら両手を頬に当ててあわあわしている。
……本当は、ウィリアム王子に一途な子なのは、間違いないようだな。
王子とは政略結婚だろうし、青春に溢れた毎日を過ごすなんてなかったんだろうから、そこは俺と少し被る気がする。
心を鬼にして、呆れた声でゲームのケースを振りながらマリアンヌを煽る。
「……君、これから君が大っ嫌いな主人公と他の異性が恋愛していくところを見なくちゃいけないんだから、それくらい慣れてもらえないと困るよ もしかしてもう攻略するの諦めたの?」
「な、慣れる……!? 本気でおっしゃっているの!? これは、ゲームとはいえ、殿方たちとの恋愛のゲームなのでしょう!? そんなの、本来ならたった一人の相手とするべきことですのに……!!」
顔をさらに赤くしながらも、マリアンヌは正論を言う。
そうだね、でも世の中の女性は自分好みの異性を見つけるためならそんな労力惜しまないものだと思うよ。なんて、彼女にわかるわけないか。
「うん、むしろ、君が彼女のいいところを見つけて王子に取り入りやすい振舞い方とか、勉強できる機会でしょ? それをみすみす見逃す気?」
「……!! それはそうですわね」
マリアンヌは両頬を叩き、キリッとした顔つきで決意表明する。
「そうですわ。この女は嫌いですが、私の今後のためにも利用させてもらいませんといけないのです……徹底的に利用してやりますわ! ウタコ!!」
「じゃ、はいこれ」
勝手に一人で熱くなっているマリアンヌに俺はスッとコントローラーを渡す。
マリアンヌは静かに、ありがとうございます、と言いつつ受け取った。
「な、なんなんですの? この、手によくなじむ感覚がする機械は?」
「それはコントローラー、ゲームをするのに君がそれを使って物語を読み進めるために都合がいい道具、って感じかな」
「こ、コントローラー……わかりましたわ」
「さぁ、ゲームをスタートさせて」
「ちょっと! きちんと説明なさい。わからないままぷれいさせる気ですか!?」
あ、そうだった。
肝心のコントローラーの説明がまだだった。
俺はマリアンヌに事細かく、コントローラーの操作説明を始めることにした。
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