第291話 番外編 それぞれの想い 5 ーフィーリス殿下編ー

 僕はフィーなのだぞうぅ。本当は、フィーリス・エルヒューレというのだぞぅ。エルフの国、エルヒューレ皇国の第2皇子なのだぞぅ。

 僕の兄上はしっかりしているのだ。僕なんかよりずっとしっかりしているのだ。それに兄上は長男なのだ。だから、皇帝を継ぐのは兄上なのだぞぅ。

 僕は2番目なのだ。だから、気楽なのだぞぅ!

 兄上と母上はちょっと口うるさいのだぁ。いつも『落ち着きなさいッ!』て、叱られるのだ。

 でも、僕は僕のできる事をするのだ! 僕は街を設計したりするのが好きなのだぞぅ。

 設計といっても、上下水をどう通すか、この木を伐採せずに家を建てるには? とかを考えるのだぞぅ。

 僕が小さな頃は大雨が降ると、よくウルルンの泉が氾濫をして街が水浸しになったりしていたのだぞぅ。城も例外ではなく、その頃の名残で1階には部屋がないのだぞぅ。

 だから、僕は考えたのだ!

 どうして、ウルルンの泉が氾濫するのか?

 どうしたら、街を守れるのか?

 ウルルンの泉が氾濫すると、大森林の樹々が水浸しになってしまうのだ。どんな大樹でも木は水には弱いのだぞぅ。根から腐って、そのまま気付かずに放っておくと突然大木が倒れてしまう。そして、被害がでるのだぞぅ。

 畑の作物だって、全部ダメになってしまうのだ。それはダメなのだぞぅ!

 僕は考えた。ウルルンの泉から国一帯に水路を通す。それも、高低差をしっかり測量して、尚且つ元々ある樹を伐採しなくても良い様にだ。最終的にはウルルンの泉から流れ出ているテュクス河や、その支流に流れ出るようにするのだッ!

 各家からの排水は、街の水路へ流れ出る前に浄化される仕組みにしてあるのだぞぅ。浄化の魔石を組み込んであるのだ。それを発明したのは長老なのだぞぅ。

 僕がこんなものが欲しいと言えば、長老は考えて作ってくれるのだぞぅ。長老は凄いのだッ!

 そうして、何年も掛けて下準備をして街を作り直したのだぞぅ。

 エルヒューレの街は僕の自慢なのだぞぅ!

 木々とエルフの生活がうまく調和しているのだぞぅ。精霊達も住みやすいはずなのだ! 瘴気も溜まらないように設計してあるのだ!

 水路を沢山作ってからは、ウルルンの泉が氾濫する事はなくなったのだぞぅ。

 街だけじゃないんだ。僕は設計したり、作ったりする事が好きなのだぞぅ。

 一時、魔道具作りや魔法杖を作るのにもハマったのだぞぅ。

 その頃に、エルヒューレの街に入る為のパスを考えたのだぞぅ。

 それでも、どれも長老の足元にも及ばなかったのだぞぅ。

 長老は、年の功だと言うのだ。だが、それだけではないのだぞぅ。やはり、センスが必要なのだぞぅ。長老には何年たっても敵わないと思うのだ。


 そうだ、長老の曾孫というちびっ子が帰ってきたのだぞぅ。

 ハルはとっても小さくて、とっても可愛い僕の友達なのだ! いや、大親友なのだッ!

 ちびっ子だから僕の事を『ふぃーれんか』と呼ぶのだ。まだちゃんと喋れないのだぞぅ。それもまた可愛いのだッ!

 そんなちびっ子なのに、よく国を出て何かをしているのだ。僕は詳しく知らないのだぞぅ。

 でも、いつもハルが帰ってくるのを待っているのだ。


「ふぃーれんか! たらいま~!」


 と、手を振りながらハルが帰ってくると嬉しくて、つい抱き上げて回ってしまうのだ。

 気分はもう『ひゃっほぅ~!』て、感じで嬉しくて仕方がないのだ!

 そしたら、ハルはいつも僕にパンチしてくるのだぞぅ。

 ちびっ子なのにだぞぅ。


「とうッ!」


 て、言いながらパンチしてくるのだぞぅ。それがまた可愛いのだ! ハルは全然本気じゃないから、ぺちッて音がするのだぞぅ。

 ハルはみんなに好かれているのだ。

 ちびっ子はみんな可愛がるのだ。エルフはそういう種族なのだぞぅ。

 僕もちびっ子の頃は可愛がられたのだ。ん~、何百年前かなぁ? もう忘れたのだぞぅ。


 ある日、長老に要請されてヒューマンの国へ行ったのだ。僕は初めて国を出たのだぞぅ。

 ハルが街を守ろうと、大型の魔物と戦ったそうなのだ。ハルはまだちびっ子なのに、そんな事をしているのかと驚いたのだぞぅ。

 ハルと一緒に魔法杖へ乗って、上空から街の様子を見ていたのだ。またルシカが怒っていたけど、上空からの方がよく見えるのだぞぅ。

 ヒューマンの街は、魔物に壊されてグチャグチャだったのだ。その上、ヒューマンの街はなっていないのだ!

 上下水の設備が全くなっていないのだ! その上、樹々や花々が少なすぎるのだ。

 これでは、精霊が生まれないし寄り付けないのだ! それに、瘴気が溜まってしまう。

 ダメだダメだ! これはもう水路からやり直しなのだぞぅ。


 ハルはその街で何をしていたのだろう? どうして、大森林じゃないのに街中に大型の魔物が暴れたのだろう?

 僕は何も知らないのだ。だが、ハルは間違った事はしないのだ。

 だから、ハルが守った街なら僕も頑張って設計するのだぞぅ。

 ハルと僕は友達、いや親友だからな。当然なのだぞぅ。


 今までヒューマンは碌な事をしてこなかったのだぞぅ。種族差別をしたり、人攫いをしたり。2000年前には同じ種族のハイヒューマンを絶滅にまで追い込んだのだぞぅ。

 でも、ハルは守ろうとしたのだ。ハルの曾祖母であるアヴィー先生だって何年もヒューマンの国に住んでいた。

 今回の事でヒューマンの国が変わろうとしているらしい。兄上がそう言っていたのだ。

 だから、長老やドラゴン族、ドワーフ族まで復興に手を貸しているのだそうだ。

 なのに、ハルの友達である僕が手を貸さないなんて事はないのだぞぅ。

 母上にも言われたのだ。


「しっかり頑張りなさい!」


 と、珍しく真剣に言われたのだ。ちょっと僕をみる目が怖いぞぅ。

 早く片付けてまたハルと遊ぶのだぞぅ。

 また2人で魔法杖に乗って飛ぶのだ! あ、ダメだ。飛んだら兄上とルシカが怒る。だから、シュシュに乗って走ろう!

 ハル、帰ってくるのを待っているのだぞぅ! また一緒に遊ぶのだぞぅ!

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