第248話 黒マントの男

「魔法なのか偶然なのかは分からないけど、仮死状態で生き残っていたとしたらって事よ」

「シュシュの言う通りなのれす」

「そうよね。だとしたら魔力を辿って探しても見つからないわ。それに、いつ目覚めるのかも分からない。もしかしたら、目覚めてから暫くは魔力を失っていたのかも知れないわ」

「シュシュ、そんな事があると思うのか?」

「ないとは言えないわ。でも、それはとんでもなく低い確率よ。だけど、それ位しか考えられないわ」

「じゃあ、何人か生き残っているかも知れないのね?」

「それはないなのれす」

「コハル、どう言う事なの?」

「シュシュが言った様にとんでもなく低い確率なのれす。奇跡に近いなのれす。そう何人も生き残れる筈がないなのれす」

「こはりゅ、何人も生き残りぇないほろの事をヒューマンはしたって事なのか?」

「……そうなのれす」


 ヒューマン族は自分達より能力の高いハイヒューマンを殲滅する為に徹底的に攻撃した。最初から絶滅させるつもりで攻撃に出たんだ。だからこそ、神の怒りを買ってしまったんだ。


「神はそんなヒューマン族に怒ったなのれす。それは当時のヒューマン族が死んだからと言って許される事がない程なのれす。だから、今でもヒューマン族は能力を取り上げられたままで短命なのれす」

「とにかく、探さなきゃ」

「ああ、ワシもそう思う」

「おりぇもら。伊織じーちゃんの事を知ってりゅかも知りぇない」

「そんなのどうやって探すんだよ?」

「あの魔力の込め方だと、今は魔力が戻っているわ」

「そうだな。エルフと同等の魔力があるやも知れん」

「だから、どうすんだ?」

「探して止めなきゃ」

「シュシュが追った黒マントの男がいただろう?」

「あ、長老。あの男を探すのね?」

「そうだ、シュシュ。多分、あの男がそうだろう」

「そっか。だから、あの時毒クラゲを持っていても解毒も浄化も出来たんだわ」

「シュシュ、お前匂いを覚えてんだろ?」

「イオス、覚えてるけど匂いだけだと駄目だわ。追えないわよ」

「俺なぁ、あの時さぁ……」

「イオス、何よ?」

「チラッと顔が見えたんだよ」

「何よそれ! 何で早く言わないのよ!」

「見えたけどさぁ、だからって本当にチラッとだけなんだよ。探せる程じゃないんだ。だけど、長老。片目が無かった気がするんだ。偶々その時に怪我していただけなのかも知れないんスけど、黒い眼帯をしていたんです」

「片目か?」

「それなら、片腕も無かったわよ」

「シュシュ、マジか?」

「あたしがウインドカッターを当てた腕よ。無かったと思うわ。だから、血が流れてないし、匂いもしなかったのよ。手ごたえがなかったもの」

「そう言えばそうだな」

「シュシュ、イオス。お前等何でそれをもっと早く言わないんだよ! 片目と片腕がない男なんてスゲー特徴じゃねーか!」

「あら、ごめんなさい。でも、確かじゃないのよ」

「すんません。でも、シュシュが言った様に不確かなんですよ。多分、て話です」

「それでもだよ! 他に何かないか? 髪色は?」

「それは分かんねーッス」

「だってフードを深く被っていたもの」

「あの……今は5層と6層にアンデッドが出ますよね」

「ルシカ、それがどうしたんだ?」

「だから、リヒト様。次は4層だとは思いませんか?」

「ルシカ!」

「はい!?」

「いいとこに気が付いたよ! 長老、4層に先回りしようぜ!」

「リヒト、4層に一体幾つの墓地があると思うんだ?」

「あ……まあ、そうか」

「だが、まあ。なんとかなるかもな」

「そうね」

「長老、全然分からんぞ」

「リヒト、考えてみろ」


 リヒト、マジで考えて。君、最後までパッとしないままだぞぅ。


「アンスティノスは円のような層でできているだろうが。中心の層に行く程その円が小さくなるだろう?」

「だから?」

「だから、4層に入る時を思い出せ」

「4層に入る時……は、門があるだろう? あ、そうか! 4層は5層や6層より門の数が少ないんだ。東西南北の4箇所しかない!」

「そうだ。で、ワシ等は今5つのベースの管理者が来ている」

「門で見張るか!?」

「まだ4層に入っていないのなら、それで引っかかるやも知れんな」

「なんだよ、どっちなんだよ」

「見張りながりゃ、中を探しゅんら」

「ハル、そうだな」

「れも、こはりゅなりゃ分かんねーか?」

「近くなら魔力を追えるなのれす。れも、層が違う程だと分からないなのれす。みんなの気配や魔力程詳しく分からないから仕方ないなのれす」

「そうか。前にシュシュとイオスを探せたからどうかと思ったんだがな」


 以前、毒クラゲ退治の時だ。黒マントの男を追いかけて行ったシュシュとイオスを、帰りが遅いからとコハルに探してもらった事があった。

 あの時は層が違ってもコハルは追えていた。それは、いつも一緒にいるシュシュとイオスだったかららしい。特にシュシュだ。聖獣の気配は同じ聖獣のコハルには追いやすいのだろう。


「ちょっと待て」


 長老が結界を解除する。


 ――コンコン


「あー、やっと合流できたよー! リヒトー、ハルちゃーん! 久しぶりだねー!」


 呑気に部屋に入って来たのは、南東にあるベースの管理者でソニル・メリーディだ。相変わらず、キュートだ。

 セミショートにしているブルーゴールドのふわふわした髪を顔の片方だけ伸ばして編んでいる。ブルーゴールドの瞳は片方の瞳(左目)だけ虹彩にゴールドが入っている。その瞳は常時鑑定と言うスキルの持ち主だ。リヒトよりも小柄だし、そうガタイが良い訳ではないが、最強の5人の戦士と呼ばれる中でも1番強い。正に、最強の戦士だ。


「しょにりゅしゃん!」

「ハルちゃ〜ん! 相変わらず可愛いねー!」


 ハルに抱きつくソニル。


「ソニル、終わったか?」

「うん、長老。全部終わったよ。魔石を浄化して回収してきたよ」

「ご苦労だっな」

「長老、本当だよ〜。魔石を浄化してるとさぁ、変な奴が見張ってたから捕まえてやろうかと思ったよ。気持ち悪かったぁー」

「なんだって!?」


リヒトが思わずソニルに掴みかかる。


「え!? リヒト、何だよ? どうしたの?」

「ソニル、その変な奴を見たの?」

「ソニル、お前何でそいつを捕まえないんだ?」

「げっ!? アヴィー先生! リレイもじゃん! なんでいんの!?」 

「いいから、見たの? 見てないの?」

「え? えっと、顔は見てないかな?」


 ソニルがアヴィー先生を見て狼狽えている。アヴィー先生、もしかして怖い先生だったのか? それとも、ソニルは何かやらかしたのか? まあ、どっちでもいいが。

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