第247話 ハイヒューマン

「すんません、お待たせしました」


 イオスが戻ってきた。これで全員揃った。長老が念の為、声が漏れない様に結界を張る。長老とアヴィー先生の表情がいつになく険しい。


「長老、アヴィー先生。どう言う事なんだ?」

「リヒト……先ず魔石に込められていた魔力は、ハルが言っていた様にエルフが使う精霊魔法ではなかった」

「あんな禍々しい魔力は見た事がないな」

「リレイ、そうなのか? てか元々、エルフじゃないって話していただろう?」

「そうだが……な。ワシもまだ信じられん。アヴィー」

「ええ。あの魔石に込められていた魔力ね、あれだけの魔力を強い思いで込められていたから長老の神眼でも情報が見られると思ったのよ。私は魔力を大まかに見分ける事ができるわ。リレイも多少は分かるわよね。長老やハルの様に情報を見る事はできないけど、どんな魔力かは分かるの」

「普通は長老の神眼で見ても分からないのか?」

「どんな魔石かは分かるが、それを作った者の情報など普通は魔石には残らんのだ」

「なるほど。それが残る程の思いがあると言う事か?」

「リヒトの言う通りよ。それほど強い思いがあった。恨みと言う思いのね」

「恨みか……ヒューマンに対するか?」

「リレイの言う通りよ。ヒューマン族全体に対する恨みね」

「気持ちは分かるわよ。恨んでいても仕方ない事だと思うわ。恨んで当然よ。でも……それだけじゃ無い筈よ」

「シュシュ、それは経験していないワシらの思いだ。実際に目の当たりにしたり体験した訳じゃないワシ等には理解できない事もあるだろうよ。しかしだ。ワシは残念でならん」

「でしょう? あたしだってそう思うわ」

「あたしもよ。せっかく生きているのに、そんな思いを持ち続けて生きるなんて悲しい事だわ」

「もしかしたりゃ、おりぇのじーちゃんが知ってりゅ人かも知りぇないんらよな」

「そうかもね、ハルちゃん」

「だが、ハルが必要以上に気持ちを掛ける事はないぞ」

「じーちゃん、分かっちゃ」

「待て、待ってくれ。みんなもう分かってんのか? 俺、全然分からんぞ」

「マジかよ。俺は余裕で想像がついたぞ」

「え……」


 リヒトが皆を見回す。大丈夫だ。カエデも理解していない様だ。キョトンとしている。


「こはりゅ」

「はいなのれす」

「こはりゅも一緒に聞いてくりぇ」

「はいなのれす」

「では、話すか……」


 長老の口から語られた事はある意味衝撃的だった。

 魔石に込められたのは、エルフが使う精霊魔法ではない。では、他にあんなに強力な魔力を誰が込めたのか? エルフではない。誰が?


「ワシは、2000年前に絶滅したと思われていたハイヒューマンの生き残りだろうと思う。それしか考えられん魔力だ。しかも、かなり強い恨みを込めている」

「そうだよな。エルフ以外であんな魔力を込められるのはハイヒューマン位しか見当がつかないだろう」

「リレイ、その通りだ。ドラゴン族も魔力は強いが、魔石に込めようとしたら多分魔石が割れちまうだろう。それこそ、パーン! と、弾けてしまうだろうな。緻密な魔力操作が得意ではないんだ」


 ハイヒューマン。約2000年前に同じ種族であるヒューマン族から絶滅に追いやられた種族だ。

 ヒューマンと同じ種族と言っても、能力は桁違いだった。エルフと肩を並べる程の能力を持っていたハイヒューマン。遺跡の壁画にも描かれていた。

 そして、ハルの祖父であり長老とアヴィー先生の一人娘の婚約者であったマイオル・ラートスもハイヒューマンだ。

 ハルの、エメラルドグリーン掛かって見えるゴールドの髪色は、そのハイヒューマンだったマイオル・ラートスの髪色を継いでいる。


「長老、まさか……待ってくれ! 確か、あの時長老達はハイヒューマンに生き残りがいないか探した筈だよな?」

「俺達はそう学んだな」

「だよな?」

「ああ、探した。当時動けるエルフを総動員して大陸全土を探したんだ。1人でも生き残っていれば保護しようとな。それこそ、隅から隅まで探した。だが、見つからなかったんだ。あの時、エルフ族とヒューマン族の間で話がついていた筈だったんだ」 

「話?」

「リヒト、保護しようとしていたと教わっただろう」

「ああ、そうだ。ヒューマン族との間で、エルフ族がエルヒューレで責任を持ってハイヒューマンを保護すると話が纏まっていたんだ。なのに、エルフがハイヒューマンを保護する直前に、ヒューマン族はハイヒューマンの殲滅に動いたんだ」

「なんだって……!?」


 約2000年前の話だ。エルフ族とハイヒューマンとは交流があった。よく似た能力を持つ者同志で長命種だった事もある。ハイヒューマンがヒューマン族から迫害を受け数を減らしていた事についても相談を受けていた。

 その頃だ。エルヒューレにマイオル・ラートスがヒューマン族から命辛々逃げて来たのを保護した。そして、長老とアヴィー先生の一人娘であるランリア・エタンルフレと婚約した。なのに2人は次元の裂け目に吸い込まれてしまった。


「だから余計にワシ等はハイヒューマンを保護しようと動いた」

「そうね。せめて、マイオルの同志は保護しようとしたわ」

「皇帝がヒューマン族の大公と話し合い、エルフ族が保護する事に決まったんだ。なのに、ヒューマン族は裏切ったんだ」

「突然だったわ。突然、ヒューマン族がハイヒューマンを攻撃し出したのよ」

「その生き残りなのか?」

「そうとしか思えないわ。私達はハイヒューマンの魔力も知っているもの。あの魔石に込められた魔力は同じだった」

「でも、アヴィー先生。2000年だぞ? その間、どうしていたんだ?」

「分からないわ。全く何も分からない」

「あり得ないだろう?」

「私もそう思いたいわ」


 ハイヒューマンの生き残りが、今度はヒューマン族に害をなす。恨みを晴らす為だろう。

 2000年もの間、何処でどうしていたのか? 

 2000年もの間、恨みを持ち続けていたのか?


「2000年前、確かに動けるハイヒューマンはいなかったなのれす」

「コハル、知っているのか?」

「あの時、確かにハイヒューマンは絶滅したなのれす。それで、神はヒューマン族から能力を取り上げたなのれす」

「なら、どう言う事だ?」

「待って、仮死状態だったとしたらどう?」

「シュシュ、そうなのれす」

「そうよね、コハル先輩」

「シュシュ、コハル。どうなっているんだ?」


 仮死状態。仮死状態とはどう言う事だ? そこからいつ目覚めたと言う事なのか? 何人か生き延びているのか? コハルは何を知っているんだ?

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