第244話 墓地では
墓地は街外れの少し小高くなった場所にあった。昼間なら日当たりも良く、風もよく通る。掃除や管理も行き届いているらしく、怖いイメージからは程遠い墓地だろうと推測できる。況してや、アンデッドが発生してしまう様な場所ではない。
リヒト達が墓場に到着してみると、そこはアンデッドがうじゃうじゃと……ではなく、何もいなかった。静かな墓地だった。アンデッドどころか猫の1匹もいない。何もいなかった。アンデッドが見当たらない。
「長老、どうなってんだ?」
「訳が分からんな」
「街中にあれだけアンデッドが溢れているのですから、墓場にはもっといる筈ですよね?」
「ルシカ、そうだよな」
「もしかして……」
「長老?」
「リヒト、これは人為的なものなのかも知れないぞ」
そう言いながら、長老がパーピを飛ばす。
「ソニルにも墓場を確認しながら来る様に言っておこう」
そうだった。今、ソニルもアンスティノスに南側から入ってアンデッドを討伐しながら北上している筈だ。
「長老、嫌な匂いがするわ」
シュシュが何かに反応した。ピンク色の鼻をヒクヒクとさせている。
「コハル先輩なら分かるかしら?」
シュシュがそう言うとコハルが張り切って亜空間から出てきた。
「任せるなのれす!」
アンスティノスでコハルは自由に亜空間から出られない。小さな真っ白なリスの聖獣は目立ってしまう。その為、殆ど亜空間にいた。シュシュも小さくなったままだ。
「シュシュは小さくなっているから能力が制限されてしまうなのれす」
「そうなのよ。あたし、少しだけ元の大きさに戻ってもいいかしら?」
「今は人目がないからいいんじゃね? なあ、長老」
「ああ。しかし、用心するんだぞ」
「分かったわ」
そう言うと、シュシュがグググンと元の大きさに戻った。
「しゅしゅ、乗しぇて」
「ハルちゃん、ちょっと待ってね」
「おりぇも一緒に探しゅじょ」
「あら、そう? じゃあ、乗る?」
「ん」
長老が抱っこしていたハルをシュシュの背中に乗せる。ハルが上手くバランスをとってちょこんとシュシュの背中に乗っている。
「しゅしゅ、こはりゅの言う方へ行くんら」
「分かったわ」
「こはりゅ、分かりゅか?」
「分かるなのれす! こっちなのれす!」
コハルがフワフワと空中を移動して行く。墓地は低い生垣で囲ってあり、整然と墓石が並んでいる。四方に木が植えてあって、その下にはベンチもあり簡易的な水場まである。そこには掃除道具が備え付けてあった。日本の様に水を使う事はないのだろうが、墓地内や墓石を綺麗にしておきたいと言う気持ちは一緒なのだろう。
そして、コハルは北東の角にある1本の木の下で止まった。
「この地面に何かあるなのれす!」
「掘ります」
イオスが、土属性魔法で地面を軽く掘り起こした。すると、そこから出てきた物は……
「長老」
「イオス、触るんじゃない」
「は、はい」
皆がそれを除き込む。そこには、直径10cm程の大きさで多面にカットされた真っ黒な魔石が埋められていた。見るからに禍々しい気配が伝わってくる。
「これは……魔石だ」
「長老、何で魔石なんか?」
「強い闇の魔力を込めてある」
「長老、そうなのれす! これでアンデッドを呼び出しているなのれす!」
「コハル、それは間違いないのか?」
「間違いないなのれす!」
「なんだと……」
と、言う事はだ。長老が言った様に、人為的なものだという事になる。誰が何の為に? 一体何がしたいのだろうか?
「コハル、この魔石を壊したらどうなる?」
「壊すのではなく浄化するなのれす!」
「浄化か」
「そうなのれす! 浄化してしまえば、アンデッドは消えるなのれす!」
「リヒト」
「ああ、分かった。ピュリフィケーション」
リヒトが魔石に手を翳し詠唱する。すると、真っ黒だった魔石が光に包まれ透明な魔石へと変わった。
「なんか、浄化ばっかだな」
リヒトが思わず呟いた。確かに。魔石に浄化。遺跡調査で散々してきた事だ。
「コハル、この闇の魔力はワシ等でも辿れると思うか?」
「大丈夫なのれす! 強い魔力だからエルフなら辿る事が出来るなのれす!」
「よし」
また、長老がパーピを飛ばす。
「長老、ソニルにか?」
「ああ」
「こはりゅ、もうないか?」
「もうないなのれす!」
「でもね、この匂いよ。魔石を持っていた者の匂いが微かに残っているの」
「シュシュ、分かる筈なのれす!」
「コハル先輩、あたしが知っている匂いなのよね?」
「そうなのれす!」
「あぁ、分かったわ。思い出した。あれよ、毒よ」
「シュシュ、毒クラゲの時か?」
「そうよ、イオス。あの黒マントの男からした毒の匂いよ。間違いないわ」
「あの毒は強烈だったからなぁ」
「シュシュ、それが本当ならえらい事だぞ」
「長老、分かっているわ。誰かがこの国を狙ってやっているのよ」
「多分、この国と言うよりはヒューマン族を狙ってだな」
「長老、どうしてだ?」
「リヒト、気付かんか?」
「おりぇ、分かっちゃ」
「なんだよ、ハル。言ってみろよ」
「りひと、マジ分かんねーのか?」
「分かってるっちゅうの!」
「えぇー」
リヒトが本当に理解しているかは怪しいが。前回、毒クラゲの騒動もヒューマン族の街だけだった。直ぐ隣りには獣人族の街があるのにだ。アヴィー先生がいた街もそうだ。毒クラゲの被害にあったが、隣りにある獣人族の街は何もなかった。1番最初に毒クラゲを発見した湖もヒューマン族のみの村だった。
今回もだ。隣りには獣人族の街がある。が、今回はアンデッドがそっちにも流れていて、数は少ないもののアンデッドは出るらしい。だが、獣人族はヒューマン族より身体能力が高い。難なく討伐していた。
「長老、マジかよ」
「ほりゃ、りひと分かってねー」
「いや、分かってるっての! しかしだな、今回はほぼ全域なんだろう? 隣りは獣人族の街じゃねーか?」
「ああ。アンデッドがそっちにも行ったんだろう。あいつらに、そっちは違うと言っても理解できんだろうからな。だが、数は少ない筈だ。それに、獣人族にとっては下位のアンデッドなど簡単に討伐できるだろうよ」
「じゃあ、誰かがヒューマン族を恨んでいるって事かよ」
「そうなるな」
「けどなぁ……」
「りひと、何ら?」
「いや、ヒューマンは色んなとこで恨みをかってないか? 人攫いにしてもそうじゃねーか?」
「そうだな」
長老、何を考えているんだ?
「いや、まさかな」
「じーちゃん?」
「長老は多分ハイヒューマンの事を考えているんでしょう?」
「シュシュ、お前は時々鋭いな」
「やだ、長老! あたしはいつでも鋭いわよ!」
「アハハハ、そうかよ。まあ、街に戻ってみよう。アンデッドがどうなったか気になる」
そうだ。魔石を浄化したらアンデッドがいなくなるとコハルは言っていた。
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