13.おりぇ……
第238話 出るらしい
「リヒト様、宜しいですか?」
「おう、ルシカ。どうした?」
リヒトの執務室にルシカがやって来た。手には数枚の書類を持っている。
「こちらのヒューマンの冒険者なのですが、予定日を過ぎても戻ってこないのです」
「なんだと? またか?」
「はい」
「確か、2〜3日前にも同じ事があったよな?」
「そうなんです」
リヒトが書類を受け取り目を通している。
「また薬草採取か……難しいクエストじゃないな。ランクが……パーティーでCランク……微妙だな」
「はい、そうなのです」
「念の為、捜索隊を出そう」
「はい。何名出しますか?」
「そうだな……3人パーティーか……じゃあ3名だそう」
「了解しました。直ぐに」
「おう、頼んだ」
ルシカが急いで手配をする為に執務室を出て行く。ヒューマンの冒険者が戻らない。無事だと良いのだが。
「薬草採取……最近多くないか?」
リヒトが部屋を出て、受付があるベースの1階まで降りてきた。
「すまん、最近ヒューマンの冒険者が出した書類を見せてほしい」
「はい、リヒト様」
ベースの窓口担当をしている者達が書類を次々とピックアップしていく。
「リヒト様、今月の分です。まだ必要なら出しますが」
「取り敢えずこれだけでいい。ありがとう。ああ、それから今出ている捜索隊が戻るまで冒険者を森へは入れないで止めておいてくれ」
「はい、分かりました」
リヒトが書類を持ってまた執務室へと戻って行く。何か引っかかる事でもあるのだろう。
「リヒト様、宜しいですか?」
「おう、ミーレか。どうした?」
「食事をしていたヒューマンの冒険者から少し聞いたんですが、薬草が不足しているらしいです」
「あー、だから最近薬草採取が多いのか」
「みたいですよ」
「だが、どうしてそんなに不足しているんだ?」
「それが出るらしいですよ」
「出る? 何がだ?」
「お化けら」
「ハル、何食べてんだ?」
「ん? あめちゃん。いちご味ら」
ハルの片方のほっぺがプクッと膨らんでいる。シュシュに乗ってハルが入ってきた。最近、よくシュシュに乗っている。
「そうかよ。で、お化けなんてマジなのか?」
「ハル、お化けじゃないでしょう」
「えっちょ、あんれっちょ」
「ああ?」
「らからぁ、あんれっちょ」
「プハハハ! 言えてねー」
ハルがプクーッとほっぺを膨らませている。お口の中で飴がコロコロいってるぞ。
「あめちゃん食べてりゅかりゃら」
「そうかよ。で、ミーレ」
「はい、アンデッドですよ。5層と6層に出るらしいです。街の中に夜な夜な……」
「墓場じゃないのか? なんでだ?」
「さあ?」
「あ?」
「なんででしょうね?」
「なんだよ、それは分からないのかよ」
「はい。原因不明だそうです」
「頼んねーなぁ。何で原因を調べないんだ? あ、サンキュー」
「いえ」
ミーレがリヒトにお茶を出している。ハルとシュシュと自分にもだ。
「みーりぇ、お砂糖がほしい」
「はいはい」
「ハル、甘いの食べ過ぎじゃねーか?」
「しょんな事はねー」
まだまだこの時は呑気にしていた。アンスティノス大公国の事だと他人事だった。実際、リヒト達には関係ない話だ。まさか、只のアンデッド騒ぎから……誰も想像も出来なかったんだ。
アンスティノス大公国の5層と6層で、夜になるとアンデッドが徘徊する様になったのは、リヒト達がセイレメールから帰ってきた頃だった。しかも、街の中にだ。アンデッドと言えば墓場に出るのが普通だ。それが、街の中に堂々と出た。
アンデッドの中でも、スケルトンと呼ばれるものが多く出る。アンデッドの中では弱い種類だ。しかし、アンデッド全般に物理攻撃が効きにくい。物理攻撃で倒すには、ちょっとしたコツがあるのだ。物理攻撃よりも魔法で攻撃する方が一網打尽にできる。さっさと倒してしまわないと、毒や麻痺などの攻撃をしてくる。
魔法を使えないヒューマンにとっては脅威だろう。その為、教会が聖水を配布していた。冒険者達はその聖水を頼りにアンデッドを討伐していたらしい。その時はまだマシだった。聖水で討伐できていたのだから。
だがそのうちスケルトンだけでなく、レイスまで現れるようになった。レイスは毒や麻痺の攻撃だけでなく、呪いも掛けてくる。その上、スケルトンよりも強く少しの知性まである。聖水をレイスに掛けようにも、身体が透き通っていたり、知恵があって回避されたりで討伐は苦戦を強いられている。
それで麻痺や毒、呪いを解呪するポーションに必要な薬草が不足していたんだ。
「これ、ニークは何も言ってきていないのか?」
「にーくしゃんか。元気かな?」
「リヒト様、捜索隊が戻りました!」
「そうか! 冒険者は無事か!?」
「3名共無事です。医務室にいます」
「ルシカ、話を聞けそうか?」
「ええ。大丈夫です。たいした怪我ではありませんから」
急いで報告にやって来たルシカと一緒に、リヒトが医務室へと向かう。
「ありゃ、いしょがししょうらな」
「みたいね。またヒューマンだわ」
「みーりぇ、かえれは?」
「裏にいるわよ。また、イオスと訓練しているわ。見に行く?」
「ん、行くじょ。しゅしゅ、行こう」
「ハルちゃん、またカエデと対戦するの?」
「しねー」
「あら、そう?」
「ん、今日は気分じゃねー」
「あら、そうなの」
要するに、ハルちゃん暇なんだね。ミーレやシュシュと一緒にベースの裏に行くらしい。また、シュシュに乗っている。最近、全然歩かないんだね。
一方、リヒトは……
「ルシカ、アンスティノスでアンデッドが出るらしいぞ」
「アンデッドですか。教会は何をしているのでしょうね」
「普通に街の中に出るらしい」
「墓場じゃないのですか?」
「ああ、街中らしい。で、冒険者はどうして戻らなかったんだ?」
「はい。薬草採取に夢中でウルフ種が出てきたのに気付かなかった様です」
「危ねーな」
「はい。それで、馬が驚いて荷物を載せたまま逃げてしまった様です。幸い、馬の方が先にベースへ戻ってきていました。ウルフ種は冒険者達が倒したそうです」
「なんだ、馬の方が賢いじゃねーか」
「リヒト様、それは言ってはいけません」
「まあ、無事で良かったよ」
「はい。たいした怪我もない様です。空腹らしいので、今は食事をしていますよ」
「人騒がせだな」
「ええ。しかし、薬草が不足しているのなら、まだまだヒューマンの冒険者が大森林に入りますね」
「だろうなぁ」
取り敢えず、無事で良かったよ。また騒ぎになるのかと思った。
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