第232話 4ヶ国協定

 それから、長老は各国と細かい調整をし無事に4ヶ国協定を締結する事となった。

 エルヒューレが協定締結後に各国へ進呈していた魔道具を介して4ヶ国の代表が顔を合わせた。

 ツヴェルカーン王国からはドワーフ王。ドラゴシオン王国からは竜王。エルヒューレ皇国からは皇帝が出席した。


「長老、まさかセイレメールに行っていたとは驚いた。ハルもか?」

「はい、竜王様。もちろんハルも一緒です」

「また我が国にも来ると良い。おばば様や皆も、ハルが来るのを楽しみにしておるぞ。ハルに助けられた子も元気にしておる」

「ありがとうございます」

「いや、我が国にもだ。親方とリンがもう来ないのかと煩くてかなわん」

「それは、嬉しい事です」

「いやいや、その前に国でゆっくりさせんと。フィーリスがハルハルと毎日言っておる」

「アハハハ、フィーリス殿下には可愛がって頂いておりますからな」

「おや、ハルくんは人気者なのだな。私の子達もハルくんと仲良くしておる様だ」


 そう。長老とアヴィー先生が4ヶ国協定の調整に入っている間、ハルはアンシェン王女やシャンイン王子と一緒に泳ぎまくって遊んでいた。もちろん、シュシュも一緒にだ。

 そして、皆揃ってルシカに叱られると言うパターンが既に出来上がっていた。


「ハル! シュシュ! 何度言ったら分かるのですか!」

「あら、ルシカだわ」

「あんしぇん王女、ありぇはやばいじょ」

「そうね、あれはマジで怒っているわね」

「戻りましょう」


 ハルと王女、王子達は泳いで鬼ごっこをしていた。泳ぎに慣れちゃったハルちゃんは超早い。スイスイどころが、ピュゥーと泳いで逃げたり追いかけたり。

 それが、ルシカには心配でならないらしい。


「ハル、ここは海中なのですよ! シュシュもです!」

「あい」

「ルシカ、大丈夫よぉ」

「王子殿下と王女殿下まで巻き込んで、何かあったらどうするのですか?」

「ルシカ、私達も悪いのよ」

「そうだ。ハルだけを叱らないでやってほしい」

「分かりました。もう、仕方ないですね。さあ、おやつにしましょう」

「やっちゃ! りゅしかのおやちゅら!」

「まあ、おやつね!」

「アンシェン、今日は何だろうね!」

「うふふ、皆ルシカのおやつに夢中ね」


 などと、ハル達が遊んでいるうちに4ヶ国の間に相互協力及び安全保障協定が締結された。

 4ヶ国間は対等であり、平時は過度な介入をお互いにしない。

 何れかの国が有事の際はお互いに協力を惜しまないというものだ。

 セイレメールからは各国に結界やエレベーター等の技術提供と、鉱石と海産物の提供を。

 ツヴェルカーン王国からは、武器や防具等のドワーフが持つ技術提供と食料を。

 ドラゴシオン王国からは、瘴気を吸収する魔石の提供や設置と食料を。

 エルヒューレ皇国からは、それらの輸送に関する技術提供を。所謂、マジックバッグ等の提供だ。そして、瘴気を吸収する魔石の設置やメンテナンスと食料を。

 各国が出来る事を提供し、万が一何かがあった時には協力を惜しまないと協定が結ばれた。


「では以上の内容で相互協力及び安全保障協定締結と言う事で」

「有事の際我々はエルヒューレ皇国とツヴェルカーン王国、セイレメールを共に守ると約束しよう」

「我々も技術提供を惜しまない事を約束する」

「我々は各国の食料等の輸送と魔石のメンテナンスを約束しよう」

「私共も新鮮な海の幸の提供と鉱石や技術の提供をお約束致します」

「では、皆様書類の作成に入ります」

「異存はない」

「我が国もないぞ」

「ああ、ないな」

「ありません」

「では、皆様。是を以ちまして4ヶ国協定の締結となります。女王陛下、王配殿下、各国と連絡が取れる魔道具を置いて参ります」

「長老殿、忝い。心強い事だ。何しろ遠いのでな」

「長老、アンスティノスはどうする?」

「皇帝陛下、此度の協定の件はもちろん報告致しますぞ」

「アンスティノスですか。こう申しては何だが、私達は良い印象がないのだ」

「我々もです。ですが、平和を維持するに越したことはないのでな」

「それはそうだ。しかし、無理強いはできまい」

「その通りです。飽くまでも協定ですから。ま、獣人族の大公がまた慌てる事になるでしょうな」


 誰もまさか海の中にある国、セイレメールが協定に参加するなど想像もしていないだろう。何百年、何千年と閉ざされた国だったのだ。

 今回、海底火山が噴火しその影響で巨岩が国の外れに飛んで来て突き刺さると言う滅多にない事が起こった。それがきっかけでエルヒューレ皇国と接点を持った。そこから4ヶ国協定の締結だ。

 話がスムーズに進んだのは、調整役の長老とアヴィー先生が各国を訪れた事があり信頼されていた事と、やはり各国の王が平和を望んでいるからだろう。

 アンスティノス大公国はどう出てくるのか。最早、協定に参加していないのはアンスティノス大公国だけとなってしまった。


「長老、アヴィー、ご苦労であったな」

「皇帝陛下、とんでも御座いません」

「長老殿とアヴィー先生にはとても世話になった。王女と王子も毎日ハルと一緒に居る」

「アハハハ、皆様一緒になってルシカに叱られておりますな」

「ルシカか。あれはレオーギルと一緒で少し心配性だからな」

「ハルもヤンチャなのですわ」

「それはアヴィー、其方の曽孫だからな」

「あら、長老によく似ているのですわ」

「アハハハ、どちらにもよく似ておるわ。長老、ゆっくりしてから戻ってきなさい。急ぐ事はない」

「はい、ありがとうございます」

「此度は急な申し出を快く受けて頂き感謝致します。今後も交流する機会ができて嬉しく思いますぞ」

「我々もだ。4ヶ国協定が締結できた事は目覚ましい進歩だ。各国の進展と友好を期待しよう」


 こうして、スムーズに協定は締結された。

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