第231話 王女の提案

「りゅしか〜!」

「おや、ハル。起きましたか?」

「ん、おやちゅら」

「はいはい」

「ハル、王子殿下と王女殿下だ」


 リヒトが紹介する。ハルがやって来たのはリヒトの部屋だ。そこに王子殿下と王女殿下が来ている。。王子殿下の方が兄だが、セイレメールでは妹である王女殿下の方が王位継承権は上になる。


「あなたがハルちゃん?。私は王女のアンシェンよ。ねえ、抱っこさせて!」

「アンシェン、いきなりは失礼ですよ! ハルくん、私はアンシェンの兄でシャンインだ。よろしくね」

「はりゅりぇしゅ。よりょしくれしゅ」


 ハルが2人に向かってペコリとした。


「やだぁ! 超可愛いんですけどぉー!」


 アンシェン王女が堪らずハルを抱き上げた。


「ああ、いきなり抱っこなんかしたら……!」


 ルシカがハルの威嚇パンチを心配している。王女にパンチなんてしたら……


「うわ、王女しゃま?」

「そうよ、アンシェンよ! 宜しくね!」

「あい!」


 心配無用だった。いくらなんでも、ハルだって弁えている。


「ハルくん、ごめんね。アンシェンも母も可愛いものには目が無くて」

「らいじょぶれしゅ」

 

 ハルが大人しくアンシェン王女に抱っこされている。王女はハルにスリスリしているが。


「ハル、お前パンチは?」

「りひと、しゅるわけねー」

「いつも、フィーリス殿下にはするじゃねーか」

「ありぇは、くりゅくりゅ回りゅかりゃら」

「そうかよ」


 どうやら、威嚇パンチの発動基準はクルクル回る事らしい。いや、フィーリス殿下だからじゃないのか?


「聞いたわよ。ハルちゃん凄いわね!」

「なんら?」

「ハル、巨岩の撤去だよ」

「ありぇは切ったじーちゃんとりひとがスゲーんら」

「そうね。まさかあんなに大きい岩をスパッと切るなんて思わないわね。エルフってなんでも規格外なんだから」

「まあ! お話できるのね!」

「しゅしゅれしゅ。虎の聖獣れしゅ。この子はこはりゅれしゅ」

「やだ! 超可愛いんですけどぉ!」


 本当に可愛いものが好きらしい。


「これが、もふもふと言うものなのね!」


 いつの間にか、王女がシュシュの首に抱きついている。


「あたしは特別よ! 手触りも極上でしょう?」

「ええ! 凄いわ! 初めての感触だわ!」


 そりゃそうだ。海中に虎はいない。


「りゅしか、おやちゅら」

「はい、ハル。用意してありますよ」

「やっちゃ!」

「ハルちゃん、おやつなの?」

「しょうら。りゅしかのおやちゅは超美味いんら」

「まあ! そうなの!?」


 王女がおやつに反応して、目を輝かせているぞ。ついでに、手は胸の前でお祈りポーズだ。


「アンシェン……」

「お2人も一緒にいかがですかな?」

「長老様、申し訳ないです。ご迷惑ではありませんか?」

「何を仰る。そんな事はありませんぞ」

「お口に合いますかどうか」


 ルシカが遠慮気味に今日のおやつを出している。ハルが出されたおやつをマジマジと見ている。


「りゅしか、ふりゅーちゅけーきじゃねーんらな」

「ええ。マロンケーキですよ」

「まりょんが続くんらな」

「こちらへ来る前に沢山頂いたのですよ」

「しょっか。美味しょうら」

「ハルの好きな生クリームもつけてますよ」

「ん! んまい!」


 ああ、ハルちゃん。やはり一口目で生クリームがほっぺについている。


「やはり陸は食べ物が豊富なのですね。見た事がないですわ」

「アンシェン、スゴイ美味しいよ!」

「まあ、兄様ったらもう食べているの?」

「アンシェン、食べてみろよ! ルシカさん、凄く美味しいです!」

「有難うございます」

「頂きますわ……」


 と、王女がパクッと一口ルシカの作ったマロンケーキを口に入れた。


「あぁ! なんて甘くて美味しいのかしら……うぇ〜ん! 美味しいぃ〜!」


 アンシェンが食べながら、泣いている。そんなにか? ルシカのおやつは泣くほどなのか?


「兄様! 本当に美味しいわぁ……うぅぅ〜……とっても美味しいのぉ!」

「アンシェン、泣くなよぉ」


 シャンイン王子がアンシェン王女の背中をさすっている。


「アンシェン殿下、大丈夫ですか?」

「ええ、アヴィー様。グス……失礼致しました。嬉しいのです! 感動しました!」

「嬉しい……ですか?」

「ええ。私共は普段食しているものから充分な栄養を摂取しておりますわ。ですが、この様な甘いおやつと言う物はないのです。エルフの方々と交流を持たなければ、もしかしたら一生口にする事がなかったのかも知れません。それが……こんなに甘くて美味しいものを食する事ができて、とても嬉しいのです!」

「まあ! それは私達もですわ。こうした機会がなければ海の幸など、食べる機会はありませんでしたもの」

「そうなのですか? なら、アヴィー様。提案がありますの」

「提案ですか?」

「ええ。私共からは海の幸を。エルフの方々からは陸の食べ物を提供して頂く事はできないのでしょうか?」

「アンシェン、それは母上と相談しないと」

「兄様、大丈夫よ。母上だってこのおやつを一口食べられたら同じ事を考えられる筈だわ!」

「アハハハ! それは良いですな!」

「長老、そうよね。協定にできれば言う事ないわね」

「ああ、アヴィー。そう思うだろう?」


 と、ルシカのおやつがきっかけとなって、エルヒューレ皇国とセイレメールとの相互協力協定が結ばれる事となった。世の中、何がきっかけになるのか分からないもんだ。


「長老、突然の申し出を受け入れて下さり感謝致しますぞ」

「王配殿下、私共にも願ってもない事でございます。実はですな、ツヴェルカーン王国とドラゴシオン王国とも3ヶ国協定を締結しておりましてな」

「おや、そうなのか」


 長老が、3ヶ国協定の説明をする。


「ですが、長老殿。相互協力協定はまだしも、安全保障協定では私共はお役に立てそうもないのだが?」

「そんな事はありませんぞ。この国を覆っている結界は素晴らしいものです。独自に発展した魔法をご指導頂けるだけでも、我等の国には有益なものですぞ」

「そんな事で宜しいのですか? なら、是非我々も参加させて頂きたく思います」

「はい。それでは直ぐに各国とも調整致しましょう」


 巨岩を撤去するだけの筈が、話が大きくなっている。上手くいけば、4ヶ国協定を締結できる。長老は言葉通り、直ぐに各国と連絡をとり調整に入った。

 各国共、セイレメールの結界には興味を示した。何より、海の幸というものに大きな興味を持ったのだ。そして、ハルだけが知っていたエレベーターだ。これは風魔法で代用できないかとドラゴシオン王国が食いついた。ツヴェルカーン王国は海底資源だ。ツヴェルカーン王国にはない鉱石を採取できる事が分かったからだ。

 巨岩にミスリル鉱石が含まれているのに、惜しみなく持って帰っても良いと言ったセイレメールにはミスリルよりも珍しい鉱石があった。陸では幻の鉱石と言われているオリハルコンだ。セイレメールの武器は全てこのオリハルコンで作られていたのだ。長老の神眼がフル活用された結果だ。

 それらの代わりに、陸からは海中では手に入らない食料や資源、知識を提供する事となった。


「私共が普通に使っていたこの鉱石が幻と言われていたのか。驚きだ。それに、陸の瘴気を吸収するという魔石も興味深い。我々も瘴気には手を焼いていたのだ。何にせよ、エルフの方々に間へ入って頂く事になるだろうから、長老殿宜しく頼む」

「はい、もちろんでございます」

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