第208話 後始末

「ヒューマンが破壊した巣はどこだか分かるか?」

「あ、長老。多分、奥ですよ。俺らが配置についていた分かれ道の奥に壁が崩れた場所がありました。その近くに潜んでいたんです」


 イオスが確認していたらしい。


「俺らがいた奥の壁と地面にもあったぞ」


 リレイもだ。ヒューマンの冒険者は一体どれだけ掘ったんだ?


「よし、その崩れた場所を固めておくぞ」

「了解」

「了解ッス」


 リレイとアラン、イオスとルシカが奥に入って行く。


「じーちゃん、何しゅんら?」

「巣穴を破壊した壁や地面を固めておくんだ。誤って落ちたり、また掘ったりしない様にな」

「なりゅほろ〜」


 周りを見ると、崩れた壁面や地面をリヒトとルシカが魔法で固めている。

 討伐するだけでなく、復元しておく事も忘れない。至れり尽せりだ。


「長老殿、ありがとうございました」

「ああ、宰相殿。見ていらしたのですか」

「圧巻でした。危なげもなく見事でした」

「それは、ありがとうございます」

「その上、後始末までして頂いて。何と申して良いのか……」

「ああ、気になさらないで下さい。ドワーフの方々が坑道に入れないと困るでしょうからな」

「何から何まで、ありがとうございます。どうか、一休みなさって下さい」

「ありがとうございます」

「長老、終わりました!」

「こっちも終わったぞ」


 リレイとイオスが戻ってきた。


「よし。撤収だ」

「おー」


 おや、ハルさん。まだ力が有り余っているね。


「君は長老殿の曽孫さんだね」

「あい。はりゅれしゅ」


 ハルがペコリと挨拶をした。


「君も強いんだな。小さいが歴としたエルフだ」

「あい。ありがちょごじゃましゅ」

「アハハハ、なんとも可愛らしい。なのに、強いんだな」

「まあ、ハルは飛び抜けていると言いますか」

「そうなのですか?」

「はい。いくらハイエルフでもこんな3歳児はそうおりませんな。アハハハ」

「長老ご自慢の曽孫ですな」

「そう言う事です。アハハハ」


 末恐ろしいと思われていそうだ。ハルは我関せず、シュシュに乗ろうと短い足を掛けている。


「ねえ、ハルちゃん。もう終わりなの?」

「ん、終わりら」

「そう。あっけなかったわね」

「りひとと、りりぇいしゃんが、ちゅよいんら」

「そうね。カエデも頑張っていたじゃない」

「ほんまか? まだまだ甘いてイオス兄さんに言われたけどな」

「あら、上出来よぉ。まだ子供だもの。力が足りないのよ。大人になったらもっと力も強くなるわ。それに、エルフが強すぎるのよ」

「せやなぁ。けど、自分ももっと強くなりたいわ」

「でも、カエデ」

「なんや?」

「メイド服はないわね」

「え? そうなん?」

「そうよ。でも、戦うメイドもいいわね。そそられるわ」


 一体何にそそられるのか? シュシュはやはりマイペースだ。と、言うかいつも余裕だ。

 しかし、シュシュが言う様にこんな討伐にカエデのメイド服は如何なものだろう? 本人は気にしていない様だが。


「あ、こはりゅ忘れてた」

「ハルちゃん、いいんじゃない? 楽勝だったし」

「しょうか?」

「よくないなのれす!」


 あ、コハルが出てきた。亜空間から顔だけヒョコッと出している。


「あたちもやるなのれす!」

「こはりゅ、また今度な」

「仕方ないなのれす」


 コハルがヒョイッと首をすっ込めた。


「コハル先輩も、何気にイケイケよね」

「しょう?」

「そうよ。ハルちゃんもだけど」

「え、しょう?」

「そうやな、ハルちゃん」

「あ、りゅしか! 腹減ったじょ!」


 ハルも全く人の話を聞いていない。マイペースだ。シュシュに乗って、ルシカに手をブンブンと振っている。


「ハル、分かりましたよ。待って下さいね」

「ん、しゃーねー」

「アハハハ! ハルは食い気だな」

「じーちゃん、飯は大事」

「そうか、大事か。ハルはお昼寝もおやつもだな」

「ん、大事ら」

「さあ、戻ろうか」

「皆様、ありがとうございました! 昼食をご用意しております!」

「おー、やっちゃ!」

「ハル、良かったですね」

「ん、飯ら」


 ハルはシュシュに乗って行くみたいだね。もう、乗り慣れている。



「んまいなぁ」

「ええ、美味しいわね」

「めちゃ美味しいやん」

「れも、なんかなぁ」

「ハルちゃん、なぁに?」

「なんか違うんらなぁ」

「あれじゃない? お上品過ぎるからじゃない?」

「猫に小判やな」

「なりゅほろ〜」


 なんか違うと言いながら、ハルのお口はいっぱいだ。


「ハル、ほっぺにソースがついていますよ」

「ん……」


 ルシカにほっぺを拭かれているハル。やはり、ギュッと両目を瞑っている。


「アハハハ! ハル、ほっぺを拭かれているのに目を瞑るんだな」

「りりぇいしゃん、おりぇしょんな事しねー」

「いや、ハル。いつも瞑っているぞ」

「りひと……しょう?」

「ああ、そうだな」

「そうですね」


 リヒトやルシカにも同意されてしまった。ハルは自分で気付いていなかったらしい。


「ま、いーか」

「いいのかよ!」


 昼食を食べたらハルはお昼寝だ。シュシュにくっついて丸くなって、スヤスヤとお昼寝タイム。

 その間に、長老とリヒト、リレイはドワーフ王に報告をしている。


「また! またもや! エルフの方々に世話になってしまい! 忝い! 本当に助かった!」


 そう、大きな声で言うとガバッと頭を下げるドワーフ王。


「陛下、おやめ下さい。我々は協定に則ったまでです」

「エルフの長老殿、そう言って頂けるか!?」

「はい、陛下」

「しかし、忝い。此度も助かった!」

「お役に立てたのなら、宜しかったですよ」


 長老、アンスティノス大公国の大公への態度と偉く違う。ニコニコしている。


「ゆっくりできるのなら、是非ヴェルガーに会って行ってくだされ。奴も楽しみにしておる様ですのでな!」

「ありがとうございます。陛下、此度討伐したデスマンモールですが……」

「分かっておりますぞ。ヴェルガーに持って行くのであろう?」

「アハハハ。お見通しですか。構いませんかな? ヴェルガー親方からまた分配してもらえたらと」

「何!? こちらで分配しても良いのか?」

「我々は討伐に来ただけですので。親方と相談して、何かあれば少々頂けると助かりますが」

「もちろんだ。ヴェルガーと相談して武器なり防具なり作られると良い」

「ありがとうございます」


 これは、良いのではないか? カエデのメイド服をなんとかしてやって欲しいものだ。親方に要相談だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る