第170話 魔法の弓

 近くまで来たらしい。先頭が止まった。ユニコーンから降りて木に登り出した者もいる。他の隊員達は皆ユニコーンから降りて弓を構える。リヒトやルシカ、イオスもだ。

 ハルはミーレやシュシュと一緒に最後尾で長老に抱っこされている。

 前方にはベア種の群れが見える。茶色系の毛皮と短い尾が見え隠れしている。


「みーりぇ、準備しないのか?」

「これだけいれば必要ないわよ」


 そんな事はないと思うぞ。なんせ、ベア種50頭以上なんだからな。対してこちらはベースの隊員15名にベースの管理者リレイ、リヒト達一行だ。どう考えても不利だろう。


「ミーレも弓を使うの?」

「当たり前じゃない。弓の方が本領よ」

「そうなの? 鞭を使っていたところは見た事あるけど」


 ミーレの鞭はリヒトの母直伝だ。普通の鞭ではない。魔力で作った鞭だ。

 リレイが先頭で片手を上げた。これが合図なのだろう。皆が弓を構えると魔法の矢が現れた。皆、普通に2本3本の矢を同時に出している。ルシカは3本出している。リヒトは4本だ。

 リレイが手を振り下ろすと同時に一斉に魔法の矢がベア種の魔物目掛けて飛んで行く。


 ――グギャオォォ!!


 ベア種が断末魔の様な悲鳴をあげて身悶えている。それでも容赦なく魔法の矢が射抜いていく。首を頭を額を、急所を狙い撃ちしていく。


「しゅげーな」

「ね、見てハル。リヒト様なんて4本1度に出しているわ」

「おぉ……」


 と、前方にいるリヒトを見るハル。


「よし、やってみりゅか!」


 ハルが何かをするらしい。やはり何か考えていた。

 弓を構える格好をするハル。その手にはなにも持っていない……筈だった。抱っこしている長老が驚いて目を見張って見ている。

 ハルの手にはグリーンの魔力でできた小さな弓がハッキリと現れた。そして、そこに魔法の矢を番える。小さな手でググッと弓を弾き放つ。

 

 ――グギャオォォ!!


「やっちゃ!」


 狙いは完璧、威力も充分だ。魔法の矢がベア種の額の辺りを貫通した。


「ハル! 凄いじゃないか!」

「じーちゃん、れきた!」

「ああ、凄い! リヒト、見たか!?」

「ああ! 見た! ハル、よく出来たな!」

「エヘヘ」


 またハルは魔力でできた弓を構える。今度は矢が2本だ。ググッと弓を弾き矢を射る。


 ――グギャオォォ!!


 ハルが射た矢はヒュンと空を切りながら飛び、また1頭ベア種の首と腹を貫通する。


「イオス兄さん、あれ! ハルちゃんのん一体どうなってんの!?」

「信じらんねー……」

「ハルちゃん、凄いわね!」

「なあ、凄いん!? あれ、ハルちゃんがした事凄いん!?」

「カエデ、凄いなんてもんじゃねーよ! あんな事誰もできねーよ!」

「シュシュ、ちょっとハルを乗せてくれ」

「いいわよ、長老何すんの?」


 長老がハルをシュシュの背中に乗せる。そして……


「いや、イオス兄さん! 長老見て!」

「長老は何でもできるものね」


 そうだ。シュシュの言う通りだ。長老もハルの真似をして魔力で弓を作り出して矢を射る。ハルとは弓の大きさが比べ物にならない。大きくてグリーンに力強く光っている。

 魔法の矢がヒュンッと空を切って飛びベア種を射抜く。


「ハッハッハ! これは便利でいいな!」

「長老! マジかよ!」

「リヒト、やってみろ! 結構簡単にできるぞ!」


 本当なのか? 長老が言うならとリヒトも挑戦してみる。


「アハハハ! これは簡単でいいや!」


 そう。リヒトも簡単にできてしまった。どうして今まで思い付かなかったのか? する者はいなかったのか?


「ふふん。いいらろ?」

「ああ、ハル! よく思いついたな!」

「らって、おりぇ弓持ってなかったかりゃ」

「なるほど」

「ハルの発想の転換だな! ないなら弓も魔法でか!?」

「じーちゃん、しょうら!」


 しかし、これはある程度魔力量がないと使えない。弓を維持するだけでも魔力を使う。下手したら弓は出せても矢が出せないなんて事になる。普通にウインドカッターを飛ばす方が手っ取り早いし使う魔力量も少なくて済む。

 要するに、無駄に力を使う訳だ。ハルは、自分も同じ様に弓でマジックアローを撃ちたかったが為に、魔力で弓も出した。普通は、態々弓に拘る必要はない。

 

「カエデ、あれは魔力量が多いからできるんだ」

「イオス兄さん、そうなん?」

「ああ。カエデは無理だぞ。先ず矢をもっと出せる様にならないとな」

「そうね、カエデはまだ魔力量が足らないわ」

「そうなんや。やってみたいなぁ」


 リアル討伐なのに、この一行は緊張感がない。魔法講座になっているじゃないか。


「リヒト! 行くぞ! ボヤボヤすんなよ!」


 ほら、リレイに言われちゃった。


「おおッ!」


 リレイが剣を手にベア種の群れに突っ込んで行く。後を追ってリヒトが行く。後方にいるハルは援護する。


「ういんろかったー!」


 と、風の刃をガンガン飛ばす。そう、ウインドカッターの方が手っ取り早い。

 マジックアローで8割は倒している。残りのベア種に向かって隊員達も剣を抜いた。袈裟斬りに斬りつける者、首を狙う者、討伐隊が一斉に斬りつける。


 ――グギャオォォー!!


 然程時間が掛からずにあれだけいたベア種の魔物が既に壊滅状態になっている。

 だが、先にいるベア種。ベア種の中でも凶暴なベアウルフだ。


「あれは……何かを狙っているな」

「リレイ! あれだよ、あれ!」


 リヒトが指を指しながら叫ぶ。


「あー、レッドベアビーか!」

「そうだよ! ベア種の好物だ!」


 レッドベアビー。体長は20cmを超えずんぐりした体形で、胸部には細く細かい毛が多い。全身が黒く、翅も黒っぽい飴色をしている。胸の細かい毛が真っ赤なのが特徴の凶暴な蜂の魔物だ。

 この季節は、メスが太い枯れ木等に細長い巣穴を掘り中に蜜と花粉を溜め込んでいる。ベアウルフが向かう先の枯れ木には、大きな巣が見えている。それを目当てにベア種が集まって来ていたんだ。


「ハル! 蜂蜜だ!」

「はちみちゅ! りひと! ほしい!」

「ハル、レッドベアビーの蜂蜜は、蜂蜜の中でも王様と言われる程美味しくて珍しいのですよ」

「りゅしか! しょうなのか!?」


 後方から支援をしていたルシカが教えてくれた。

 ハルさん、目がキラッキラしているぞ。やはり、食い気だ。ルシカ作のふわふわパンケーキにたっぷり蜂蜜をかけて食べると絶対に美味いぞ。


「りひと! はちみちゅ採って帰りょうな!」

「アハハハ! おうよ!」


 しかし、蜂蜜を採るにはレッドベアビーも討伐しなきゃいけないぞ。ハル、分かっているのだろうか? 凶暴なデカイ蜂の魔物だぞ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る