第136話 順番があった

 部屋に入るとそこはやはり広間になっていた。

 その周りの壁には壁画が。原初のエルフにドラゴンが協力して瘴気の靄を消している様子が描かれている。黄龍王の里の遺跡にあった壁画と同じだ。

 奥には、黒くなった魔石に古代の魔法言語で書かれた術式がリボンの様に何重にも絡みつき、上下の大きな魔法陣で固定されている。

 どうやらこの国の魔石は、巨大サイズが定番らしい。ここの魔石も超巨大だ。


「やっぱ、でけーな」

「ハルちゃんそうやな」

「やっぱりって感じよね」

「真っ黒黒ら」

「ホンマやな。黄龍王の里にあったのより黒いな」

「本当だわ」


 この3人、良いチームだ。おとぼけチーム。


「ハル、コハル、さっさと浄化するぞ」

「ん、りひと」

「はいなのれす」

「ぴゅりふぃけーしょん」

「ピュリフィケーション」


 長老と、ハル、リヒト、コハルとで手を翳し浄化する。すると、目も眩む様な白い光が漆黒の魔石を包み込み消えていった。

 光が消えるとそこには、漆黒だった巨大な魔石が浄化され透明に輝くクリスタルが現れた。


「ん、みっちょんこんぴゅりーちょ」


 何度言っても、ちゃんと言えてない。


「ここは楽勝だったな」

「りひと、うしゃぎがいなかった」

「ハル、ヒュージラビットと戦いたかったのか?」

「ん、ありぇは美味い」

「アハハハ! そうかよ、美味いのかよ」


 昨日、おばば様の家でルシカがヒュージラビットの肉をステーキにしてくれた。それをハルは気に入ったらしい。


「ハル、あのうさぎは大きいからまだまだ肉はありますよ」

「りゅしか、しょっか!」

「なんだよ、ハル。食い気だな」

「いおしゅ、食い物は大事」

「おう、そうだな。美味かったな」

「ん」


 どうやらハルさん、この遺跡でもヒュージラビットがいるのを期待していたらしい。


「ハル、ならヒュージラビットを討伐に行けばいいんだ。あいつら群れでどこにでもいるからいくら狩っても平気だぞ」


 紅龍王が余計な事を言った。そんな事を言えばハルがその気になるじゃないか。


「じーちゃん、いくりゃりぇもいりゅって!」

「ハル、先に遺跡調査だ」

「ん、しょうらった」


 そうそう。遺跡調査がメインなんだぞ。ヒュージラビットはオマケだ。


「ハル、この遺跡にはハイヒューマンの壁画は無さそうか?」

「じーちゃん、しょう言えばなんも聞こえねー」

「そうなのか? 壁画のない壁を触ってみるか?」

「ん」


 ハルを抱っこした長老が壁画のない壁に近づく。


「あ……しょっか」

「ハル、どうした?」

「ん、精霊の声が聞こえた。なんらって? しょうか……あの壁画はお話が続いてて、ここは3番目なんらって」

「そうなのか」


 ハルが何も描かれていない壁をペタンと触った。すると……また蜃気楼の様に壁画が現れた。


「これは……黄龍王の里が1番で、ここが3番目なのか?」

「ん、2番目は北の黒龍王、3番目がここ、4番目が東の青龍王、最後が西の白龍王んとこらって」


 ほう、順番があるのか。先に言ってくれればその順番で遺跡調査したよね?



 まず最初に行った中央を守護する黄龍王の里にある遺跡。そこの遺跡に描かれていたハイヒューマンに関する壁画には、まだこの世が瘴気の靄に覆いつくされていた頃の事が描かれていた。

 最初はエルフ族が瘴気の靄の除去に乗り出した。そして、ドラゴンや竜族が参加した。その後、ハイヒューマンも参加した事が描かれていた。


 今ハル達が来ているのは、南方を守護する紅龍王の里にある遺跡の壁画だ。そこに描かれていたのは、エルフ族と一緒にハイヒューマンが魔石を設置している光景だ。目の前にある巨大な魔石をドラゴンが持ち上げている様子が描かれていた。

 この遺跡の壁画は3番目だと精霊が言っていた。なので、明日は2番目らしい北を守護する黒龍王の里にある遺跡を調査する。

 午前中に1箇所。午後からは肝心のハルがお昼寝してしまうので、無理をせず1日1箇所の調査となった。


 と、言う事で一行は北を守護する黒龍王の里にある遺跡へ来ている。

 今日もやはり黒龍王が立ち会うらしい。


「すまんな、世話をかける」


 北を守護する黒龍王ヘイロンだ。ストレートで長い漆黒の髪に、黒色の瞳。ハルにとっては馴染み深い色味だ。

 一見、学者かと思えるような印象の黒龍王ヘイロン。黄龍王より少し若く見える。

 今までの龍王がイケイケだったのでとても落ち着いて見える。


「黒龍王様の従者でダントと申します。宜しくお願い致します」


 今回はちゃんと従者が一緒らしい。肩下位のストレートの黒髪に黒い瞳。落ち着いた雰囲気だ。

 どうも、龍王によってかなり雰囲気が変わるらしい。


「君が長老の曽孫か」

「あい、はりゅれしゅ」

「青龍王の赤子を助けてくれたそうだな。私からも礼を言う。ありがとう」

「あい」

「ハルは聡いな」

「え」

「あの怪獣の様にやんちゃな赤子達を上手くまとめている」


 おう、龍王に怪獣と言われる幼体達。まあ、いたずら盛りやんちゃ盛りだ。


「みんな可愛いれしゅ」

「そうか、ありがとう」

「ヘイロン様参りましょう」

「ああ、ダント。ハル、今日は宜しく頼む」

「あい」


 ちょっと緊張しちゃったハルさん。今までの龍王と違って威厳があった。いや、決して黄龍王と紅龍王が軽いと言っている訳ではない。


「やっぱデケー」

「ほんまやな、けどちょっと慣れてきたわ」

「そうね、さすがに3つ目だものね」


 またまた、ハルとカエデとシュシュのおとぼけチームだ。


「ハル、カエデ、シュシュ行くぞ」

「ん、りひと」


 やはりリヒトは引率の先生だ。

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