第113話 剣を作ってもらう

「ワシの手を握れるか?」

「ん」


 ハルの小さなプクプクした手で、親方の豆で硬くなったゴツイ手を握る。いや、指を握る。


「思いっきり握ってみな?」

「ん」


 ハルが力を入れる。


「あれか、ハルは魔法で身体を強化すんのか?」

「ん、しょうら」

「魔力切れになったらどうすんだ?」

「なりゃねー」

「ん? なんだって?」

「親方、めったな事がない限りハルは魔力切れにはならないんだ」

「兄さん、なんでだ? そんな訳ねーだろうよ?」

「いや、大丈夫なんだ。ハルの魔力量は多いから」

「なんだと!? ちびっ子スゲーじゃねーか!?」

「エヘヘへ」

「この小さいのを振ってみな?」

「ん」


 ハルが長老の膝の上からヒョイと下りて、短剣を両手で振ってみる。


「おいおい、エルフってのは剣まで使えんのかよ!? 弓だけじゃねーんだな!?」


 ハルが軽く振っただけなのに、親方は使えると分かったらしい。


「アハハハ! 親方、それは勝手なイメージだ。俺もこの剣を使うぞ」

「兄さんも魔法使うのか?」

「ああ。色んな属性を剣に付与する」

「なんだと!? エルフは風じゃねーのかよ!?」

「親方、それもイメージだ。まあ、風属性が1番得意だけどな」

「そうなのか!? ちびっ子もか!?」

「ん、使うじょ」

「ハル、それは重くねーか?」

「ちょっと重いじょ」

「だろうな。こっちのはどうだ?」


 またハルが両手で振ってみる。


「ん、こりぇくりゃいら」

「長さはどうだ?」

「こりぇれいいじょ」

「まだ小さいからなぁ。ハル、5歳になったらまた来い! ワシが合った剣を打ってやるよ!」

「おっしゃん、しょう? いいのか?」

「ああ、かまわねー。成長が止まるまでは来るといいぞ! カエデも一緒にな! ワシが2人共面倒みてやるわ! ガハハハ!」

「おぉー! ありがちょ!」

「親方、ありがとう!」

「おう! ワシの弟子が迷惑かけたんだ! 大事な遺跡を壊しちまったのに、罪に問わないどころか親切に面倒みて送って来てくれたんだ! それ位はさせてもらうぜ! で、兄さん達の剣も見せてみな!」

「親方、良いのか!?」

「おう! これも縁だ! ワシがまとめて面倒見させてもらうぜ!」


 リヒトとルシカ、イオスが剣を見せる。


「これは……ドワーフが作った剣じゃねーよな?」

「国の職人が作った物だ」

「なんだと!? エルフがか!?」

「ああ。国で使っている剣は全部国の職人が作った物だ」

「いやいや、待ってくれ! エルフがここまでの剣を作んのかよ! エルフのイメージがよぉ!」


 親方……ほんと、うるさい。


「あ、そうだ。親方、投げナイフも欲しいんだ。カエデが使うから普通より小さいのがいいんだが」


 イオスが、親方に聞いた。


「おう、投げナイフなら色々あるから持って行きな! 消耗品だからな、数がいるだろ!?」


 親方が、棚の一画を指す。


「カエデ、来な」

「うん、イオス兄さん」

「あ、私も欲しいわ」


 カエデとイオスとミーレが投げナイフを選んでいる間、リヒトやルシカの剣を見てもらう。


「預かってもいいか? そうだな、3日くれや! 3日でちびっ子2人の剣と、兄さん達の剣のメンテナンスしとくぜ!」

「分かった。親方ありがとうな!」

「こっちがありがとうだ! あんな事やっちまったのによお! 立入禁止にされてもおかしくねーんだ! なのに、エルフ族の皇帝は技術提供と誓約書で許して下さった! ありがてーよ!」

「死傷者は出なかったし、大した被害ではなかったからな。あの2人もまだ大人とは言えん。将来のある若者の先を潰すのは良くないだろう?」

「長老! ありがてぇー! 本当にすまねー! 技術提供も兄さん達の剣もワシがしっかり責任を持つぜ!」

「ああ、頼んだよ」

「任された! じゃあすまんが3日後にまた来てくれるか?」


 と、言う事で……3日の時間ができたリヒト達。


「りゅしか、りゅしか」

「はい、お腹がすきましたか?」

「ん、ペコペコら」

「リヒト様、街で買って帰りましょうよ」

「そうだな、ミーレ。遅くなったしな」

「はい! じゃあ買ってきますね。ルシカ、行くわよ」

「はいはい。リヒト様、そこのベンチで待っていて下さい。イオス、頼みます」

「分かった」


 ルシカがミーレに引っ張られて市場の方へ行った。


「いおしゅ、ありぇなんら?」

「あれは……スムージーじゃねーか? 飲むか?」

「うん! 飲みたいじょ」

「イオス兄さん! 自分もー!」

「待ってな」


 イオスが、買いに走る。ハルは食べ物に対してもテンションが上がる。飲み終わった頃にはルシカとミーレも戻ってきて宿へ戻る。


「りゅしか、スムージー美味かったじょ」

「おや、スムージーですか? 何のスムージーでした?」

「んと……バナナ?」

「そうですか。気に入ったのなら作りますよ」

「ほんちょか? りゅしかのらとゼッテーに美味い」


 ドワーフの親方に言われた3日間。ハル達は街を見学したり買い物をしたり、宿の裏でカエデの訓練を見たり、ルシカに美味しいスイーツを作ってもらったり。良い休息になったようだ。


 3日後、剣を受け取りにまた工房へとやって来たリヒト達一行。


「おう! 待たせたな! 出来てるぜ!」


 相変わらず、声の大きい親方。

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