第109話 討伐開始
ハルがフィーリス第2皇子にパンチした事は有名になっている様だ。そりゃそうだ。相手は一国の皇子殿下だ。
「帰ったりゃまた一緒に遊ぶんら」
「ハル、えらく仲良くなったんだな?」
「じーちゃん、フィーれんかはいいやちゅらじょ」
「そうだな。エルヒューレの街が、大雨でも水害に合わないのは殿下の計画的な水路のお陰だ」
「じーちゃん、しょうなのか?」
フィーリス第2皇子が、優秀と言われる所以だ。
昔は時々、それこそ数百年に一度程度だが大雨で街が浸水する事があった。家屋や樹々も浸かってしまったりしていた。浸水すると後が大変だ。何故かというと、木は腐る。洪水は土砂も連れて来る。
だが、フィーリス第2皇子が地形やら何やらを測量して、計画的に木を移動し植え替え水路を増やした。それからは、大雨が降っても家屋や樹々が水に浸かる事もなくなった。
それと、魔道具の作成だ。国に入るパス代わりの魔道具も、フィーリス第2皇子が改良した。
普段の言動が突拍子もないせいで、誤解されがちだがフィーリス第2皇子は天才肌だ。
「れんかは魔道具もちゅくりゅって言ってたじょ」
「そうだな。魔道具を作る事も優秀だ」
「れも、じーちゃんには敵わないって言ってた」
「そうか、そうか」
「ん、じーちゃんがちゅくった杖はしゅごいって。敵わないって言ってた」
「アハハハ、じーちゃんは凄いか!」
「ん、じーちゃんはなんれもしゅごい」
「回復魔法や調薬はアヴィーの方が凄いぞ?」
「しょうなのか? ばーちゃんもしゅげーな!」
「そうだろ? アヴィーの次がリヒトの母だ」
「かーしゃまか。うん、かーしゃまは何れも知ってた」
「あれは研究者だからな。調薬だけでなく、魔法も国の歴史にも詳しい。あの瘴気の靄の出た遺跡があるだろう?」
「ん、真っ黒黒の」
「そうだ。あの地下の遺跡もまた調査しているらしいぞ」
ドワーフの2人が無理矢理扉を壊して入った地下の遺跡だ。瘴気を吸って浄化の役目をしていた魔石が容量を超えてしまった為に、瘴気の靄が漏れ出し魔物が溢れ出てきた。それを、ハルや長老、リヒト達で一掃し浄化した。
その地下遺跡が、原初のエルフの遺跡だと発覚したんだ。
リヒトの母はオールマイティな研究者だ。あの遺跡には壁画があった。壁画が残っている事は特に珍しいらしく、嬉々として原初のエルフの遺跡を調査しているらしい。
「長老、リヒト様。こちらの入り口から入れます。この坑道が魔鉱石の鉱脈で、採掘場の最奥に出るそうです」
「ロマーティ、他の魔物は?」
「はい、モグラ系ですね。赤い上位種も発見されています」
「あー、それ面倒くせー。早いやつだろ?」
「リヒト様、そうです。緑のモグラより素早い」
「え? え? 上位種とかあるん?」
「カエデは緑のモグラを狙え。赤は緑より素早いから引っ掻き攻撃されるぞ」
「マジで!?」
「カエデ、索敵スキル持っていただろう?」
「イオス兄さん、索敵て何?」
「どこに魔物がいるかとかさ」
「そんなん持ってた?」
「お前、あったぜ。人の気配とか読んでたんじゃないのか?」
「ああ、やってた! 結構当たるんやで」
「それだ。それやっとけよ」
「分かった!」
「俺、そばにいるからな」
「イオス兄さん! 頼もしいにゃん!」
師弟と言うより、兄妹か。
「いいか? 入るぞ」
「長老、リヒト様、皆様。お気をつけて」
「おう」
リヒトを先頭に長老達が坑道に入って行った。
リヒトは剣を、ルシカは弓を、イオスは双剣を、ミーレは鞭を、カエデは両手に短剣だ。長老はハルを抱っこしている。この2人だけ武器を持っていない。
「じーちゃん、おりぇ武器持ってねーじょ」
「ん? 武器か? いらんだろう。ハルには魔法があるだろう」
「あ、わしゅりぇてた」
「アハハハ、忘れてたか。ハル、水属性魔法が有効だ」
「ん、じーちゃん。分かっちゃ」
ヒョコッと地面の穴から緑のモグラが顔を出した。
「カエデ! 行くぞ!」
「はいにゃ!」
イオスとカエデがモグラ目掛けて走って行く。その奥にも緑のモグラが顔を出す。
ミーレが鞭を撓わせる。
「こんな入り口近くからもう出るのか」
「リヒト、ワームが奥で陣取っているから避けて来ているのだろう」
「長老、思った以上に面倒そうだ」
「だな」
長老とリヒト達はどんどん奥へと進んで行く。
「あかーん! めちゃ素早いにゃん!」
カエデだ。どうやらモグラに手を焼いているらしい。
「カエデ! 索敵しろ! 出てくる場所を察知するんだ!」
イオスは流石に楽勝モードだ。
「カエデ! 突っ込んでも駄目よ!」
ミーレも楽勝らしい。やはり実戦経験が違う。
「索敵、索敵……てか。そんなん……」
カエデが集中する。
「……そこや!」
緑のモグラが顔を出したと同時に、カエデが短剣で斬りつけた。
――ズザンッ!
「やった! イオス兄さん! やったで!」
「おう! その調子だ!」
「リヒト様、あそこが最奥みたいですね」
ルシカが見ている方に、行き止まりらしき壁が見える。
「ちょっと刺激してみるか」
リヒトが足元にある少し大きめの石を最奥の地面を目掛けて投げる。
ゴゴゴゴ……と言う地響きと共にワームが姿を現した。5mはあるだろうか。巨大なワームだ。
「うわ、れけー! きも! きもー!」
ワームの身体が、ブルブルと小刻みに震え出した。
「来るぞ! 毒の煙幕だ」
「ウォーターウォール」
長老が水の壁で煙幕を防ぐ。
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