第95話 捜索隊無事帰還

「2人共、ドワーフの親方と一緒に数年前に行った事があるらしいんだ。だから、大丈夫だと思ったんだが。親方とギルマスのサインもあったしな。だが念の為、護衛を付ければ良かったよ」

「ああ、何かあったのかも知れないな。しかし、そう遠くではないし」

「普通の馬でも半日あれば着くだろう?」

「そうだな」


 ――コンコン


「リヒト様、ミエール様、今捜索隊から連絡がありました。2人を発見したので連れ帰るそうです」

「そうか、良かった」

「ただ、2人共傷だらけで意識がないらしいです。遺跡に倒れていた様です」

「マジかよ。よく無事だったな」

「ミエーク、そうだな」

「ただ、遺跡の様子がおかしいみたいです。黒い靄に包まれていて魔物も出てきていたそうなんです」

「なんだと!? 捜索隊もドワーフも無事なのか!?」

「はい。でも、良い感じはしなかったそうなので結界を張りながら救出したそうです。あ、待って下さい……」


 エルフの連絡手段、パーピが知らせに来たエルフの肩に止まった。


「リヒト様! 魔物に追いかけられているそうです! しかも数えきれない数の魔物だそうです!」

「なんだと!?」


 リヒトとミエークが部屋を出て1階に下りて指示を出す。


「何人か迎えに出てくれ! 魔物から守るんだ!」


 ――了解しました!


 俄かに慌ただしくなったベース。


「大森林へ入る申請は暫くストップだ! 安全が確認できるまで、誰も入れるな!」


 ――はい! リヒト様!


「一体どうなってんだ? スタンピードか? そうならない様に間引いているぞ」

「リヒト、その黒い靄ってのが気にならないか?」

「ああ、黒ってのがな。ロクな事ないぞ」

「だよな……」


 リヒトが足早に食堂へ向かう。


「ルシカ、ハルいるか!?」


 片手にナイフ、もう片方の手にフォークを持って、ぷよぷよのお口の周りにトマトソースを付けたハルが振り向いた。しかも、ほっぺを膨らませてモグモグしている。側で食べているコハルのほっぺもパンパンに膨らんでいる。


「ぶふッ」


 あ……ミエークが吹き出している。


「超可愛いじゃねーか……」


 これは、ミエークの呟きだ。


「リヒト様、どうされました!?」

「イオスとカエデは?」

「外で体術と短剣の訓練をしてますよ」

「ルシカ、問題が起こった。ベースから出ない様にしてくれ」

「分かりました。大丈夫なのですか?」

「まだ分からん。ハル、とにかくベースから出るなよ! 魔物が来るんだ」

「え、りひと。おりぇやっちゅけりゅ? ちゅどーんしゅる?」

「なんでだよ、ベースから出るなよ! 絶対だ!」

「ん、分かっちゃ」


 リヒトはまた急いで次はイオスとカエデを探す。2人はベースの裏にいた。イオスがカエデに体術を教えていたらしい。


「イオス! もうすぐ魔物がこっちに来る! ベースから出ないでくれ! ハルが食堂にいるからそっちへ合流してくれ! いいか! 絶対にハルを出すな!」

「リヒト様、了解です! カエデ、行くぞ!」

「はいにゃ!」


「リヒト、もしかしてハルは戦うのか?」

「ああ、俺達がいてもまっ先に飛び出すんだよ。抱っこしていても勝手に飛び降りるんだ」

「アハハハ! スゲーちびっ子だな!」

「馬鹿、笑い事じゃねーよ! その度に俺は心臓がキュッてなるわ!」

「アハハハ! リヒトがか!?」

「それより、ミエーク。皆に結界の中から攻撃する様準備させてくれ」

「おう」


 どれだけの魔物がやって来るのか? 捜索隊は無事に辿り着けるのか? 一体どうなっているんだ?

 リヒトは足早にベースの結界ギリギリまで出る。まだ何も見えない……が、生い茂る高い樹々の向こうに黒い靄が微かに見え隠れしている。リヒトの瞳がゴールドに光った。


「マジかよ……クソ、仕方ねーな」


 リヒトはルシカにパーピを飛ばす。


「ハル、ほらお口を拭きましょう」

「ん、りゅしか。超美味かった、満腹ら」

「それは良かったです」


 ルシカにお口の周りを拭かれるハル。


「おや……」


 ルシカの肩にパーピが止まった。


「ハル、リヒト様がお呼びです。浄化するらしいですよ」

「りゅしか……浄化は何らっけ?」

「ハル、ピュリフィケーションです」

「あ、そうら」

「ハル、行きますよ。ミーレはここにいて下さい。イオスとカエデも来る筈です」

「分かったわ」


 ルシカがハルを抱っこして走る。


「りゅしか、何があったんら?」

「私も分かりませんが、浄化の必要な魔物が押し寄せてくるらしいです」

「え……まじ?」

「みたいですね。何がどうしてそうなったのか……」

「ん……らな」


 ベースの外にルシカが出ると、微かに黒い靄が大森林の中に見える。それが樹々の間を縫う様に少しずつベースに近付いて来る。


「うわ……」


 ハルの瞳が光った。


「まじ……りゅしか、あれ瘴気ら」

「そう見たいですね。最近浄化や解呪をよく耳にしますね」

「らな……」

「リヒト様!」


 リヒトが結界ギリギリのラインに立ち、黒い靄の方を見ていた。


「ルシカ、ハル」


 4頭のユニコーンが空を飛んでくるのが見えた。2頭は捜索隊で2頭は迎えにでた者達だろう。空から攻撃魔法を放ちながら飛んでくる。リヒトの眼が光っている。


「あのユニコーンに乗ってる保護したドワーフも浄化が必要だな。可哀想にボロボロじゃねーか。よく生きてたよ」

「ん……ケフ……」


 ん? ハルさん今ゲップしたか? 可愛らしいが。


「ハル、腹いっぱいか……?」

「ん、わりぃ。満腹なんら。超美味かった」

「アハハハ! そりゃぁ良かった。来るぞ」

「ん」


 ユニコーンが結界の中に入った。


「リヒト様!」

「おう! そのままそこにいてくれ! ハル!」

「ん、ぴゅりふぃけーしょん」

「ピュリフィケーション」


 リヒトとハルの2人が手を翳し詠唱すると、4頭のユニコーンごと白い光が包み込み消えて行った。


「よし! いいぞ」

「りひと、待って! ひーりゅもして! えりあれ!」

「おう、エリアヒール」


 もう1度、白い光が包み込み消えていった。


「ん、おっけーぐりゅぐりゅ」

「アハハハ! 何だそれ!? いいぞ、医務室で休ませてやってくれ! ご苦労だったな」

「はい! リヒト様」


 捜索に出ていた2人が、ドワーフの2人を抱えてベースへ入って行く。入れ違いで、弓を持った者達がベースからバタバタと出てきた。


 ――リヒト様!

 ――あの黒い靄は!?

 ――ハルちゃん! 危険よ!


「ん、らいじょぶら」

「ハル、急に飛び下りたりしないで下さいね」

「りゅしか、おりぇしょんな事しねー」

「何言ってんだ? 俺が抱っこしてる時に何回飛び下りたよ」

「え……しょうらっけ?」

「そうだよ、とぉッとか言ってさ」

「ん……覚えてねーな」

「そうかよ、覚えてねーのかよ」

「リヒト様、来ますよ」

「おぅ」


 大森林の中から魔物がベースに向かって来るのが見えた。魔物も黒い靄を纏っている。

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