第94話 リヒトの従兄弟ミエーク

「リヒト! 無事に戻ったか!」


 リヒトの従兄弟、父の弟の長男でミエーク・シュテラリールだ。リヒトの家が本家でミエークの家は分家にあたる。家もお隣さんだ。リヒトが留守の間、ベースの管理者代理を任せていた。リヒト達がベースに到着すると出迎えてくれた。

 リヒトも身長は高い。190cmはあるだろう。だが、線が細く細マッチョだ。一見はエルフらしいと言える体型をしている。

 だが、このミエークはリヒトの2回り位大きい。身長だけではなくガタイが良い。筋骨隆々と言う感じだ。その上、眉目秀麗だ。ブルーゴールドの透ける様な長い髪を無造作にポニーテールに結んでいて、爽やかなブルーゴールドの瞳に白い肌。さすがエルフ族だ。どこかの美術館にある彫刻の様だ。


「ミエークすまなかった。だが、また直ぐに出るんだ」

「長老から聞いている。色々大変だったらしいな」

「まあな。それよりどうした? 何かあったのか?」

「ドワーフが2人、大森林に入って予定を過ぎても戻ってこないんだ。1人は少女だったから気になってな。今朝、捜索隊を出したから連絡があるはずだ」


 ベースがいつもと違って騒ついている。


「とにかく今は連絡待ちだ。それより、そのちびっ子か?」

「ああ、長老の曾孫でハルだ。で、ハル付きのカエデだ」

「そうか! 2人共よく来た。疲れただろう。風呂でも入ってこい。ゆっくりしなよ!」

「ありがちょ、はりゅれしゅ」

「カエデです。宜しくお願いします!」

「おう! 2人共、可愛いなぁ!」


 ハルとカエデの2人をヒョイと抱き上げた。


「ぅお……」

「マジか!」

「アハハハ! ちびっ子は可愛い!」

「ミエーク、急に抱き上げたらハルにパンチされるぞ」

「りひと、しねーよ!」

「アハハハ! フィーリス殿下に2回もしてたじゃねーか」

「ありぇは回りゅかりゃ」

「ハル、フィーリス殿下にパンチしたのか?」

「らって急に抱き上げてクリュクリュ回りゅんら。ビックリしたんら」

「アハハハ! あの皇子殿下はいつもあんな感じだ! でも優秀なんだぞ」

「うん、今は分かってりゅ」

「そうか、そうか! 一緒に風呂入るか?」

「うん!」

「待って待って! 自分は下ろして!」

「どうした? カエデも一緒に入ろう」

「いや、自分女の子やし!」

「何言ってんだ! ちびっ子なのに」

「ミエーク様、カエデは私が」

「ん? ミーレ、そうか?」

「はい。ちびっ子でも女の子ですから」

「そうか、すまん」


 カエデはやっと腕から下ろしてもらえた。ハルは抱き上げたまま、どんどんベースの中に入って行く。


「ビックリしたわー」

「カエデ、ちびっ子の運命よ」

「え? ミーレ姉さん。意味分からんで」

「だからね、エルフはちびっ子が可愛いの。可愛くて仕方ないのよ。これからよくある事だから覚えておきなさい」

「でもミーレ姉さん。自分はエルフと違うで」

「そんなの関係ないわ。エルフは種族差別なんてしないわよ」

「そうなんや。けど有難いわ。自分、抱き上げられた事なんかないからな」

「やだ、カエデ!」


 いきなり、ミーレがカエデを抱き締めた。


「え、えぇ!! ミーレ姉さん!?」

「ちびっ子はね、可愛がられて撫でられて抱っこされて当たり前なのよ! これから分からせてあげるわ」

「意味分からんし!」

「アハハハ! ミーレ、カエデ、行くぞ。カエデ、ベースの中を案内してやるよ」

「イオス兄さん、待ってや!」


 抱き上げられた事がない。人の温かみを知らないと言う事だ。こっちに来た頃のハルを思い出す。可愛がられる事に、構われる事に慣れていないと言っていたハル。今は平気で初対面のミエークに抱っこされている。当たり前の様にミーレに抱っこされて眠る。カエデもそうなるんだ。近いうちにな。


 リヒトとミエークと一緒に風呂に入ってきたハル。また前髪をピョコンと結んでホコホコだ。


「ハルちゃん、その前髪どしたん!? 可愛いやん!」

「ん、りひとが結ぶとこうなりゅ」

「アハハハ! リヒト様ぶきっちょか!」

「ハル、いらっしゃい」

「ん、みーりぇ」


 ミーレがハルを膝に乗せて器用に前髪を編み込んでいく。


「はい、できたわよ」

「ん、ありがちょ」

「いつものハルちゃんになったわ」

「カエデ。ちょっと来い」

「イオス兄さん、何?」


 カエデがイオスに呼ばれて出て行った。


「りゅしか、りゅしか」

「ハル、お腹空きましたか?」

「ん、腹へった」

「食堂に行きましょうか。何かあるでしょう」

「そうね」


 ルシカと、ミーレに連れられてハルも出て行った。リヒトはと言うと……ミエークと執務室にいた。


「ミエーク、そのドワーフの2人だが」

「ああ。申請内容だと昨日中に戻ってくる予定だったんだ。で、戻ってこないから今朝早くに捜索隊を出している」

「大森林の何処に行くと?」

「すぐそこの遺跡だ。あの近辺で魔鉱石が採れるだろう。それを採取しに来たんだ。だから、わざわざツヴェルカーン王国からは遠いこのベースで大森林に入る申請をしたんだ。このベースが1番近いからな」

「少女1人と後は?」

「まだ若いそう歳の変わらない青年だ」


 ミエークがその申請書らしき書類をリヒトに手渡す。

 ヘーネの大森林には幾つか遺跡がある。長老でさえ知らない太古の遺跡だ。その遺跡付近からは色々採れる。地面を掘れば魔石が出てくる遺跡や、貴重な薬草が群生している遺跡もある。

 今回ドワーフが行っている遺跡は、リヒト達がいるベースに1番近い。遺跡付近の洞窟からは貴重な魔鉱石が採れる。

 魔鉱石とは、長い長い年月を掛けて鉱石が変化した物だ。鍛冶に秀でて生業としているドワーフにとっては無くてはならない物だ。だから、時々ドワーフが採取に行っている。

 リヒトが管理するベースからは、大森林を挟んで反対側にあるドワーフの国ツヴェルカーン王国。そこから大森林の外側を通り態々このベースから大森林に入る。それが1番安全で、ベースから遺跡が近い。

 だが、いくら魔鉱石や魔石が採れると言っても遺跡は遺跡だ。遺跡の敷地内では採掘したり、遺跡を破損させたり、無断で持ち出したりする事は禁止されている。そして、そう頻繁には立ち入らせない。各ベースで制限している。

 たまたま魔鉱石はドワーフしか採取に来ない。それも自国でも採れるので滅多に来る事もない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る