第91話 フィーリス殿下2nd

 ハルがお昼寝から目が覚めた頃にリヒト達は帰ってきた。長老も一緒だ。


「りゅしか、りゅしか」

「ハル、どうしました?」

「おやちゅが食べたいじょ」

「アハハ、分かりましたよ」

「あ! ルシカ、俺も!」

「ルシカ、ワシもだ」

「ルシカ、私も欲しいわ。甘いのがいいわ」

「ルシカ、私も頼む」


 結局、全員だ。


「はい、お待ち下さい。カエデ、手伝ってください」

「はいな、ルシカ兄さん」


 ルシカとカエデが部屋を出ていく。


「じーちゃん、あの杖しゅげーいいじょ」

「そうか! それは良かった。何をしていたんだ?」

「長老、ハルは魔法杖に乗って飛んでいたのですよ」

「アハハハ! スヴェト、見たのか?」

「はい。驚きましたよ。あれは何ですか? フライではないですよね?」

「何なんだろうなぁ? 複数の魔法を組み合わせてるんじゃないか?」

「ハル、またやってたのか? ルシカに叱られなかったか?」

「ん、叱りゃりぇた」

「アハハハ! だろうなぁ! ルシカは心配してるんだよ」

「りひと、分かってりゅ。れも、飛ぶの気持ちいいじょ!」

「気持ちいいか! 長老、俺たちは出来ないのかな?」

「リヒトも飛んでみたいか?」

「そりゃそうだ!」

「待って待って、何の話なの? ハルちゃんが飛んでたってどういう事なの?」


 リヒトの両親はまだ知らなかった。

 リヒトと長老が説明した。


「まあ! ハルちゃん凄いわ!」

「ハル! 凄いじゃないか! 今度は父様も乗せてくれ」

「ん。とーしゃま、いいじょ」

「やだ、あなただけズルイわ。ハルちゃん母様もよ」

「ん、もちりょんら」

「これこれ、落ち着きなさい。ハル、落ちたら怪我だけでは済まないかも知れん。気をつけるんだぞ。絶対にリヒトかイオスがいる時だけにしなさい」

「あい、じーちゃん」

「で、ハル。実際に使ってみてどう良かったんだ?」

「じーちゃん! 魔法が使いやしゅくなりゅってのが分かった! しゅごい安定しゅりゅんら。らから、箒の時みたいにいっぱい考えなくて済むんら」


 何をいっぱい考えながら飛んでいたのか。おとなしいかと思いきや、ヤンチャなハルさん。


「そうかそうか。ハル、それよりもだ。ドラゴンの幼体を見せてくれるか?」

「ん、みーりぇ」

「はい。長老、連れてきますね」

「ああ、ミーレ。頼む」

「ハル、ドラゴンの幼体を送り届けてやらんといかん」

「じーちゃん、ろこに?」

「ドラゴシオン王国にだ」

「おぉ……」

「ハル、1度ベースに寄ってそれからだ」

「おりぇも一緒に行っていいのか?」

「当たり前だろ。ハルが世話してんだから」

「しょっか」


 ミーレがドラゴンの幼体を寝かせている籠を持ってきた。


「長老、これがドラゴンの幼体ですか? 呪詛を込められていたという……」


 リヒトの両親と兄が初めて見るドラゴンの幼体を興味深げに見ている。


「ハル、まだ目を覚さないか?」

「ん、じーちゃん。まらら。尻尾と羽はよく動くようになったんらけろ」


 長老の眼がゴールドに光る。


「ふむ。なかなかやっかいだな。まだ幼体だから一気に回復させると負担が掛かる。ハル、少しずつだな」

「ん、じーちゃん」

「ハル、ベースで準備してからドラゴシオン王国に出発だ」

「りひと、分かった」


 ここで位置関係だが。ドラゴシオン王国は北の高山地帯にある。

 リヒトが管理しているベースは、大森林の北東側にある。ベースへ一旦戻ると遠回りになってしまう。大森林の中央にあるエルヒューレ皇国から直接北へ真っ直ぐ大森林を抜ける方が早い。


「だが、ずっとベースを任せっきりにしているからな。1度戻って様子を確認しておきたいんだ。だから、ベースからまた大森林を抜けて北側にあるベースへ一旦寄る。そこで馬を乗り換えるんだ」

「まあ、あれだ。ワシの都合と合えば北のベースまで送ってやるぞ」

「長老、それは助かります」

「ん? 分かりゃん」

「アハハハ、ハル分からんか? じーちゃんが転移させてやれるかも、て事だ」

「おぉ……」


「で、ハル。その前にだ。明日、城にもう1度行く事になった。ワシやリヒトとハルも一緒にな」

「じーちゃん、おりぇ?」

「ああ、ハルもだ。ドラゴンの幼体を連れてな。陛下が確認しておきたいそうだ。まあ、ハルに会いたいんだろう」

「ん、分かった」



 と、いう事でハルは城に来ている。ルシカがドラゴンの幼体を寝かせている籠を持っている。そして、ハルはヤツに捕まった。


「ちびっ子だぁ〜! 今日こそ一緒に遊ぶんだぞぉー!」


 城の廊下で、第2皇子のフィーリス殿下にいきなり抱き上げられ、またクルクルと回っている。


「とぉッ」


 思わずまたパンチしてしまったハル。さすがに、身体強化はしていない。普通の3歳児がする様なへなちょこパンチだ。


「痛い! 痛いんだぞぉー!」

「あ……またやっちまった」

「アハハハ! ハル、パンチは止めておきなさい。アハハハ!」


 長老は大爆笑だ。フィーリス殿下が怯んだ隙に、無事脱出したハル。直ぐ様、長老の足元に隠れる。


「じーちゃん! 助けてよ!」

「悪い悪い。突然だったからな。アハハハ!」

「じーちゃん、わりゃいすぎらー!」

「アハハハ! すまんすまん」



 そんな感じだったのに……何故か城の中庭で、ハルとフィーリス殿下の笑い声が……


「ハル! 凄いんだぞぉ!」

「アハハハ! らろー!? いくじょ! すぴーろあっぷ!」

「おおおぉー! 早いんだぞぉー!」

「アハハハ!」


 ハルは城の中庭で、フィーリス殿下を後ろに乗せて杖に乗って飛んでいる。何故だ? 気が合ったのか? 超楽しそうだぞぅ?


「ハル! 危ないでょう! 下りてきなさい!」

「あ……るゅしかがヤバイ」

「おぅ、あれはヤバイんだぞぉぅ」

「フィーれんか、おりりゅじょ」

「お、おぅ。分かったぞ」


 フワリフワリとハルが下りてきた。


「ハル、フィーリス殿下に何かあったらどうするんですか!?」

「りゅしか、ごめんしゃい」

「ルシカ、ハルは悪くないんだぞ。僕が乗せて欲しいと頼んだんだぞぅ」


 どうしてこうなったのか……?

 城で会ったフィーリス殿下にまた抱き上げられ、クルクルされてパンチをしてしまった後だ。長老に作ってもらった杖の話になった。

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