第90話 魔法杖は凄い!

「いや、ちょっと待って。亜空間て何なん? まだ反則技持ってたん?」

「おや、カエデは亜空間を知りませんか?」

「ルシカ兄さん! 知ってる訳ないやん!」

「アハハハ! 賑やかなネコちゃんだなー」

「シペさん! すんません! うるさかったですか!?」

「いやいや、元気でいいよ!」


 カエデの頭をガシガシと撫でる。

 アンスティノス大公国に滞在している間、コハルは殆ど出て来れなかったからカエデは亜空間を知らなかったか? いやいや、そんな事はないだろう。それにしても、仲間になってから大分経つが。


「かえれ、こはりゅはばーちゃん家で何度も亜空間から出てきてたじょ」

「え!? そうやった!? うわ、全然覚えてないわ。自分、緊張してたんやろか?」

「カエデは魔法に詳しくないのか?」

「シペさん、自分は普通の猫獣人やし! 魔法なんか使われへんし! 今迄見た事なかったし!」

「アハハハ!」

「カエデ、慣れますよ。それに練習すればカエデも使えると言っているでしょう? 今日から少しずつ頑張りましょう」

「はい! ルシカ兄さん!」


 本当に賑やかになったもんだ。ハルとコハルは無言で食べる事に夢中だ。


 朝食後……今度は邸の前庭が賑やかになっている。


「いっくじょー!!」

「ハル! 危ないですよ!」

「りゅしか! らいじょぶ!」


 長老に作ってもらった魔法杖を大きくして、ハルはそれに跨っている。早速、飛ぶつもりらしい。


「とぉッ!」


 ハルの掛け声でフワリと浮いた。


「しゅげー! 箒と全然違うじょ!」

「ハル! ちゃんと杖を持って下さい!」

「アハハハ! ひりょいー! 気持ちいいー! こはりゅー!」

「はいなのれす!」


 コハルがちょこんとハルの前に出てきた。上手に杖に乗っている。飛ばされてしまわないか? 落ちないか? ヒヤヒヤするぞ。


「こはりゅ、しゅげーらろ!?」

「はいなのれす! 気持ちいいなのれす!」

「ばーちゃん家の裏庭ちょ違って広いかりゃ飛びやしゅいじょ」

「ハルちゃん! ハルちゃん! 自分も乗せてー!」

「いいじょー!」


 フワリと下りてきた。


「また、カエデまで!」

「ルシカ兄さん、大丈夫や! もう折れへんて長老も言ってたやん」

「かえれ、いくじょー!」

「ええでー!」


 前にコハル、後ろにカエデを乗せてフワリと浮かんだ。


「ねえ、ルシカ。箒の時より安定しているわね」

「ミーレ、当たり前ですよ。魔法杖を使っているのですから」

「あら、そう? 私もできないかしら?」

「ミーレ! 何を言ってるんですか!?」

「しないわよ」

「当たり前ですよ。今日はイオスもいないのに」


 そうだった。イオスは御者としてお城に付いて行っている。もしも、ハル達が落ちたらルシカ1人でキャッチしないといけない。ルシカ、大丈夫か?

 そんな心配を余所に、ハルは嬉しそうに飛んでいる。ミーレが言っていた様に、確かに箒を使って乗っていた時よりはずっと安定している。危なっかしい感じが全くないぞ。やはり、魔法杖の力か?


「しゅげー! この杖最高ら!」

「アハハハ! ハルちゃんそうなん?」

「すぴーろあっぷ!」

「うぉ、アハハハ! ハルちゃんテンション違いすぎー!」

「ハル! ハル! そんなにスピードを出したら駄目ですよ!」


 騒ぎを聞きつけて邸の者がチラホラと出てきている。


「ルシカ、これは一体……」

「ああ、ロムスさん。ハルに言って下さい。下りてこないのですよ」

「あれは、ハルの力で飛んでいるのですか?」

「そうなんです。アヴィー先生のご自宅にいる時に、急に箒を使って飛びだして……」

「なんと! 箒ですか!?」

「はい。それで2度箒が折れてしまって。長老が折れない杖を作ってやると言い出したのです。今乗っているのが、長老が作った魔法杖です」

「長老が作ったのなら、世界樹の枝を使っているでしょうから折れはしないでしょう」

「そうですが。もしも落ちたらと思うと……ヒヤヒヤしますよ」

「アハハハ、ちびっ子は少しくらいヤンチャな方が良いですよ」

「ルシカ! 何だこれは!?」


 お留守番……いや、父の代わりに残って執務をしていた兄のスヴェトが邸から出てきた。


「スヴェト様。見ての通りです。ハルが飛んでます」

「いやいや、あり得ないだろう!? あれは何だ!? フライか!? いや、違うよな!?」

「もう私は疲れました」


 ルシカのメンタルがお疲れの様だ。

 ハルは普段、ポヤポヤしていてテンション低めなのに急に予想のつかない事をする。しかも、テンション爆上がりだ。


「アハハハ! しゅげー! あ! にーしゃまー!」


 杖に乗って飛びながら手を振っている。


「ハル! 手を離したら駄目です! あーもう! ハル! 今すぐ下りてきなさい!」

「あ……ハルちゃん」

「ん……かえれ」

「ちょいヤバくないか?」

「ん……りゅしかがヤバい」

「下りよか?」

「ん、しょうらな……」


 フワリフワリとハルが下りてきた。


「ハル……飛ぶのはリヒト様かイオスがいる時と約束した筈ですよ?」

「あい……りゅしか、ごめんしゃい」

「カエデもです。止めないでどうするのですか!?」

「はい……ルシカ兄さん、ごめんなさい」

「アハハハ! ハル! 凄いじゃないか!?」

「にーしゃま!」

「兄様も乗せてくれ」

「いいじょ!」

「スヴェト様!」

「あ……ああ、すまん。いや、しかし凄いだろう! 凄すぎるだろう!?」

「エヘヘへ」

「まあまあ、皆様。とにかく入りましょう」

「りょむしゅ、かえれを案内しようとしてたんら」

「おや、そうですか。話は聞いてます。君がカエデですね」

「はい!」

「カエデ、執事のロムスさんよ。イオスのお父様」

「え!? そうなん!?」

「ええ、イオスの父です。邸の中も庭もしっかり覚えなさい。それから、ルシカに魔法を教わると良いですよ」

「はい! ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 またカエデがキビキビしている。一応、緊張しているのか?


「いや、職場の人間関係は大事やん?」


 おや、カエデ。意外と大人だ。

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