第87話 ドラゴンの幼体
「あとはドラゴンの幼体だな。ハル、見せてくれるか?」
「ん、みーりぇ」
「長老、これです」
ミーレがドラゴンの幼体を寝かせている籠を持ってきて長老に見せた。
「じーちゃん、もしかして呪詛かも知りぇない気がしゅるんら。けろ、おりぇは見りぇなかった」
「ほう……」
長老の眼がゴールドに光った。
「ふむ。ハルの言う通りだな。これは呪詛だな」
「長老、そんなじゃあ一体誰が!?」
「リヒト、それは分からん。だが、確実に呪詛を込めた者がおる」
「じーちゃん、れも最初に浄化の薬湯をあげたんらじょ」
「ハル、浄化だけでは駄目だ。これは解呪が必要だ。呪詛があるからいくらポーションをあげても駄目だったんだな。ハル、解呪できるか?」
「ん……でぃしゅえんちゃんと」
ハルが手を苔玉に向けて詠唱すると、苔玉が白い光に包まれた。光が消えるとそこには……
「え……でっかいとかげ?」
「ハル、ドラゴンの幼体の本当の姿だ。これは……青龍だな。まだ本当に小さい。卵から孵ったばかりか? もしかして卵を採ってきたか?」
ついさっきまで蝙蝠の様な羽が2対あり尻尾のある苔玉だったものが、体長は30〜40cm程だろうか。2対の羽と尻尾を持ち、ほんのりと緑を帯びた白い鱗に覆われたトカゲの様な姿になっていた。まだ目は閉じたままだ。
「ハル、ほんの少しの魔力でヒールだ」
「ん……ひーりゅ」
またトカゲの様な身体が白く光った。尻尾が少し揺れ動いた。
「解呪はできたな。後は毎日少しずつヒールしてやればいい」
「じーちゃん、ポーションじゃなくてか?」
「ああ、ドラゴンはポーションよりヒールだな。ドラゴンは魔力が高い。魔法の方が効果的だ」
「ほぉ……」
「毎日少しずつヒールしてやるといい。ハル、できるな?」
「ん、じーちゃん」
「長老、青龍と言う事は木……?」
「リヒト、そうだな。青龍は、河川に住み樹木などの自然を司ると言われておる。エルフ族とは似通ったところがある。エルフ族も大森林を守る」
「長老、ヤバイですよこれは」
「だな。かなりヤバイぞ。しかし、1度陛下に報告してからだ。ワシらだけでどうにもできん」
一気にきな臭くなってきた。とにかく、ハルが幼体の面倒を続けてみる事になった。
翌日、ハル達はエルフューレ皇国に戻る支度をしていた。
「帰りはワシがいるからサクッと一瞬で戻れるぞ」
「じーちゃん、しゅげー!!」
「もう自分は驚けへんで。なんでもありや」
「アハハハ! 何でもありか!」
「ばーちゃん、また会いにくりゅじょ」
「ええ、ハルちゃん。私も早く帰れる様にするわね」
「ん、待ってりゅじょ」
「アヴィー、無理すんじゃないぞ。何かあったらすぐにパーピを飛ばすんだ」
「ええ、ありがとう。リヒト、来てくれてありがとう。嬉しかったわ」
「アヴィー先生、俺も帰りを待ってますよ」
「フフフ、ありがとう。みんなも元気でね」
「お元気で。またお会いできると嬉しいです」
「ああ、ニークもな。アヴィー先生を頼んだ」
「はい、リヒトさん」
リヒト達一行はアヴィー先生の自宅の裏庭から、長老の転移で一瞬のうちに帰って行った。
「さあ、ニーク。私達にできる事をしましょう」
「はい、アヴィー先生」
今回、たまたまリヒトやハル達がいる時に毒クラゲ騒動があった。それは偶然なのか……?
もしも、リヒトやハル達がいなかったら……この国、アンスティノス大公国を揺るがす脅威になっていたかも知れない。
もしも、クラゲの毒が見つけられなかったら……?
もしも、対処方法が分からなかったら……?
少なくとも、村一つと教会やスラムは消えてなくなっていた。それだけでは済まなかったかも知れない。
もしも、もっとクラゲが大きくなっていたら……数が増えていたら……最悪、国が危なくなっていたかも知れない。それは、たかだか一貴族の悪巧みでは済まなかっただろう。
リヒト達がアンスティノス大公国に来るきっかけは偶然だ。たまたま保護した令嬢を送り届ける事だった。
そして、アヴィー先生がこの国にいなかったら……リヒト達が来る事もなかっただろう。
ほんの些細な偶然が重なり合った事だ。アンスティノス大公国にとってはとても幸運な偶然が。
「ハル! リヒト! 帰って来たか!」
転移先はリヒトの家だった。パーピで知らされていたのだろう。邸の前に、リヒトの家族が待っていた。
「とーしゃま、かーしゃま、にーしゃま!」
「ハルちゃん! 無事で良かったわ!」
リヒトの母が1番にハルを抱きしめる。
「かーしゃま、たらいま!」
「お帰りなさい! 無事で良かったわ」
「ハル、おかえり」
「おかえり、ハル」
「とーしゃま、にーしゃま、たらいま」
「父上、母上、兄上、ただいま帰りました」
「リヒト、おかえりなさい。疲れたでしょう? さあ、みんな入って!」
カエデがリヒトの家を見て腰が引けている。家というよりも、邸だからな。
「カエデ、いらっしゃい」
「ミーレ姉さん、でも……」
「いいのよ。ご挨拶しなきゃ」
「うん、ミーレ姉さん」
ミーレに背中を押されてリヒトとハルの後をついていくカエデ。皆で応接室に通される。ルシカ、イオス、ミーレがリヒトの後ろに立つ。カエデもそれに倣う。
「長老、ありがとうございました」
「いや、ワシは何もしておらん。カエデ、こっちに来なさい」
「は、はい」
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