第85話 挨拶まわり?

 翌日、長老は籠りっきりだった。昨日約束したハルの杖を作っている。その間、ハル達はまた街に出た。教会とスラムにも足を伸ばした。


「まあ! 皆様、先日はありがとうございました!」

「ノン、もうみんな大丈夫かしら?」

「はい! アヴィー先生! もう翌日からお腹が空いたと煩くて」

「回復している証拠だわ」

「はい! もうみんな元気ですよ! 元気すぎちゃって」


 ちびっ子はどの世界でもパワフルらしい。


「なあ、お前エルフなのか? アヴィー先生の知り合いか?」


 教会にいる孤児の男の子がハルに話しかけている。この男の子は……リヒトに、ありがとうと言っていた子だ。


「ん、おりぇのばーちゃんら」

「そうなのか! スゲーな!」

「らろ? じーちゃんはもっとしゅげーじょ」

「じーちゃんもいるのか!?」

「いりゅじょ」

「お前も魔法使えんのか?」

「おまえじゃねー」

「あん?」

「おまえじゃねーての。おりぇははりゅ」

「ハルか?」

「おう。おまえは?」

「俺はエルダだ」

「えりゅだ、何歳ら?」

「俺は12歳だ」

「なんら、まらちびっ子らな」

「お前より大っきいわ!」

「アハハハ!」


 ハルが人見知りしないで教会の孤児と話している。笑っている。最初の頃には考えられない事だ。


「もうエルフの国に帰んのか?」

「ん、じーちゃんが来たかりゃ帰りゅ」

「そっか、また街に来たら遊びに来いよな」

「うん」

「一緒に遊んでやるよ! 俺、ここでは1番上だからな。ちびっ子の面倒みるのは慣れてんだ」

「おう、ちびっ子なのにな」

「だからハルより大っきいわ!」

「アハハハ」


 そのままスラムにも行ってみる。


「おう! アヴィー先生! エルフの兄ちゃん!」


 ルガー達がスラムの瓦礫を片付けていた。元気そうだ。


「ルガー、もう元気そうだな」

「おうよ! 兄ちゃん達のおかげだぜ」

「ルガー、再開発の話は聞いた?」

「ああ、先生。あの次の日に伯爵家の人間が来てな。炊き出ししてくれて、そん時に説明をしてった」

「私は悪い話じゃないと思うわよ」

「ああ、有難い話だと思うぜ。でもな……」

「でも、何?」

「ずっと働いてないからよぉ、自信がないんだわ。不安なんだ」

「そりゃ、ルガー。不安があって当然だ。最初はキツイだろ」

「兄ちゃんもそう思うか?」

「ああ。だが、最初だけだ。そこを踏ん張って乗り切れば身体が慣れるさ」

「そうかね?」

「そういうもんだ。今まで働いてなかったんだ。最初はキツくて当たり前だぞ。頑張りどころだぜ。踏ん張るんだぞ」

「ああ、なんとか頑張ってみるさ。もう後がないからな」

「おう、頑張れ。また見に来るわ」

「そうか! また来てくれ。ちびっ子も一緒にな!」

「ん」

「なんだ? 眠いのか? クラゲやっつけてる時と偉いテンションが違うじゃねーか」

「ああ、ハルは普段こんな感じだ」

「そうなのか! こんなポヤポヤしてんのに超つえーのな! まさか、アヴィー先生にこんな曽孫がいたなんてな! アハハハ」


 挨拶まわりの様になってしまっている。アヴィー先生やリヒト達の歳を聞いたらきっと驚くだろう。リヒトの事を兄ちゃんと呼んでいるルガーより、リヒトの方が何百歳も年上だ。


「りゅしか、りゅしか」

「ハル、どうしました?」

「腹減った」

「おや、もうそんな時間ですか? アヴィー先生、市場に寄って帰りましょうか」 

「ルシカ、そうしましょう」


 市場に来たら来たで、テンションが上がってしまうハル。


「ばーちゃん、ありぇ何だ!?」

「あれはね……」


 と、食べ物を指差して質問攻めだ。

 ルシカとイオスが両手いっぱいの買い物を済ませて帰ってきた一行。


「じーちゃんまらら」

「ハル、今日1日かかるわよ」

「しょっか……ばーちゃん、おりぇ迷惑かけてね?」

「何言ってんのよ。迷惑な筈ないでしょう。喜んで作っているわよ」

「しょっか……エヘヘ」


 嬉しそうなハルだ。


「さあ、皆さん。食べましょう! 買ってきたローストビーフをサンドしました。スープも一緒にどうぞ」

「りゅしか、いたらき!」

「ハル、あたちもなのれす!」

「こはりゅ、食べな」


 コハルはなかなか出られない。ヒューマンの街では亜空間から出られない。不便だ。本人は寝ている様だが。

 お昼を食べて、お昼寝して、ルシカの手作りドーナツにかぶりついて、満足だとハルが思っている頃にやっと長老が出てきた。


「ハル、出来たぞ!」

「じーちゃん!」


 長老が手に持っているハルの魔法杖。長老が作った杖は、世界樹の枝を利用して作った長さが変えられる魔法杖だ。

 本体は世界樹の枝を使用し、持ちやすいように節も磨いてある。綺麗な木目が浮かび上がっている表面には網目や縄目が彫り込まれてある。持ち手になる部分には白と若葉色の革紐を螺旋状に巻いてある。ヘッドとなる先端はゆるくカーブしてオパールグリーンのオーブがついたエンブレムを抱え込むように丸くなっている。


「じーちゃん、しゅげー!!」

「長老、世界樹ですか?」

「ああ、ルシカ。当然だ。魔法杖は一生モンだからな。ワシが作ってやる時は出来るだけ世界樹を使う様にしている」

「りひととりゅしかも持ってりゅのか?」

「ハル、当然だ。エルフは皆持っている。俺達も長老に作ってもらったんだ」 

「しょうなのか?」


 ハル専用の魔法杖だ。

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