第73話 73ーまたまたクラゲ退治
「リヒトさん、あの井戸です」
「分かった……ハル」
「ん……」
「ニークはルガーとここにいてくれ。危ないからな」
「え……!? じゃあハルくんも……」
リヒトはハルを抱っこしたまま井戸に向かう。
「ハル、もう見なくてもいいな。外に出すぞ」
「ん……」
ハルはリヒトの腕からおりる。手足をブラブラさせたり、小さな身体で屈伸したりしている。臨戦体制だ。踏んづける気満々だ。
リヒトが井戸に向かって手を翳すと小さな竜巻が生まれた。そのまま井戸に吸い込まれて行く……と、複数のクラゲがバラバラと井戸から舞い上がった。
「うわ! めちゃ多い!」
ハルがタッタッタッと走って行き、クラゲを踏み付け出す。
「こはりゅ!」
「はいなのれす! またなのれす!」
「ハル! お前踏んづけてないで魔法が使えるだろーが!」
「あ……しょうらった! 忘れてた! こはりゅ、おいれ!」
コハルがハルの肩にのる。ハルがクラゲから距離をとり手を翳す。
「ういんろかったー!」
風の刃が現れ次から次へとクラゲを斬り刻む。
「待て! 証拠なんだ! 一匹残してくれ!」
ルガーがクラゲを斬りまくっているハルに叫ぶ。
「えぇー! もう斬っちゃった! カケラれもいい?」
「ああ! いいぞー! 出来るだけデカイのにしてくれ!」
ハルがしゃがみ込んでペロンとクラゲの一欠片を指で摘んで持ってくる。
「燃やしてしまうぞ」
リヒトが手を翳すとクラゲだった残骸が一気に燃え出した。
「スゲーな……エルフってコエーな……」
「アハハハ、アッと言う間でしたね」
「おっしゃん、こりぇ毒ありゅんら。ピンクのとこ触ったりゃらめらじょ」
ハルが半分になったクラゲをルガーに見せる。
「ありがとよ。ちびっ子、ツエーな!」
「エヘヘへ」
「お前達! 何しているんだ!?」
「あぁ? おっしゃん誰ら?」
「失礼な! 私はこの街を治めている子爵だぞ!」
おやおや、黒幕が自分からやって来たぞ。子爵と、手に武器を持った男達が数人やって来た。子爵が前に出て怒っている。
「エルフが不審な事をしていると聞いて来てみれば、何だ!? 何をしているんだ!? せっかくここまで追い込んだと言うのに! 余計な事をするんじゃない! スラムの虫ケラ共など、私の役に立つ事を喜んで欲しいもんだ!」
突然、ハルがクラゲの一欠片を手に持ったまま走って行って子爵の足を払った。子爵は不意をつかれ尻餅をついて倒れた。
「とぉッ」
「うわッ! 小僧! 何するんだ!?」
「よッちょ」
ハルが子爵の胸の上にポテンと馬乗りになった。
子爵と一緒に来た男達が呆気にとられて見ている。まだ何が起こったのか理解できていない様だ。
「おっしゃん、何言ってんら? こりぇ、何か分かりゅか? おっしゃん達が井戸に入りぇたくりゃげらよ。おっしゃん食う? 食ってみりゅか? 食わしてやりゅよ、口開けりょよ」
「コラッ! 馬鹿ハル!」
――パシッ!
リヒトに頭を叩かれたハル。
「イッテッ! りひと何しゅんら!?」
「馬鹿、やり過ぎだ! 後は大人の仕事なんだよ! アヴィー先生」
リヒトがハルをヒョイと抱えて子爵から下ろす。
「あ! ばーちゃん!」
いつの間にかアヴィー先生が貴族らしい男性と一緒に見ていた。
「ハル、もういいわ。ありがとう」
「子爵、これは一体どう言う事なんだ?」
「は、は、伯爵! どうしてここに!?」
子爵が慌てて起き上がる。
「それが……その、このスラムでエルフが勝手な事を……」
「そうか? 私にはエルフの方々がクラゲの魔物を退治して下さった様に見えたが?」
「い、いや……その……そう! そうだ! エルフが井戸にクラゲを入れていたんです! 私はクラゲで脅されて……」
「君は今、やっとここまで追い込んだと言っていなかったか? スラムの虫ケラ共とも言っていたか。どうも君は私が思っていた人種とは違ったようだ。人を舐めるのもいい加減にしなさい!」
「は、は、伯爵! 私は……」
伯爵が目配せをすると、衛兵達が子爵と男達を拘束した。
「小さなエルフくん。それを私にくれるかな?」
伯爵と呼ばれた男性が、しゃがんでハルに話しかける。
「おっしゃん、いいやちゅか?」
「ああ、そのクラゲであの馬鹿をやっつけるんだ」
「しょうか、じゃあこりぇやりゅよ。毒がありゅかりゃな、ピンクのとこ触ったりゃらめらじょ。ん……」
ハルがペロンとクラゲの半身を差し出した。
「ありがとう。君がアヴィー先生のお孫さんかな?」
「ん、はりゅってんら」
「そうか、ハルくんか。君は強いなぁ、おじさんは驚いたよ。ありがとう。助かった」
「ふふん。気にしゅんな。おっしゃんは、わりゅいやちゅじゃないな」
相変わらず言う事は一丁前のハル。
「アハハハハ! ハル、まだ浄化してねーぞ」
「ん、りひと」
ハルがトコトコとリヒトの側に行く。
「アンチドーテ」
「あんちどーて」
「ピュリフィケーション」
「ぴゅりふぃけーしょん」
リヒトとハルが唱えると、井戸だけでなく辺り一帯に白い光のヴェールがおりてきて地面へと消えた。
「ふぅ、みっちょんこんぴゅりーちょ!」
「アハハハ! だから言えてねーって」
「ハル! 凄いわ! ハルちゃん天才だわ!」
「エヘヘへ」
アヴィー先生に抱き上げられるハル。
「アヴィー先生、ありがとよ」
「ルガー、あなたも動けなかったの?」
「ああ。ニークが薬湯をくれて、そこの兄さんがヒールしてくれたんだ。マジ、助かったわ。それにしても先生、まさか伯爵を連れて来るとは思わなかったぜ」
「そう? 本人の目で見てもらうのが1番手っ取り早いでしょう?」
「アハハハ、違いねー!」
「アヴィー先生! 追加の薬湯とポーションです!」
イオスだ。両手で木箱を抱えてやって来た。
「イオス、ありがとう。ニーク、お願い」
「はい、アヴィー先生」
イオスが持ってきた解毒と浄化の薬湯とポーションでスラムの人達は回復した。そして、カエデとルシカが作った粥も届いた。
「ハルちゃーん! 無事やったか!」
「かえれ」
「またハルちゃん暴れてたんか? ハルちゃんは可愛いのにイケイケやからなぁ」
カエデ、いつもの調子が戻ってきたな。
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