第70話 教会

 次の日、リヒト達は朝食を食べ終えて街の観光に行こうと話していた。


「私が案内するわ!」


 アヴィー先生、張り切ってますね。


「先生! アヴィー先生! いるかい!?」


 家の玄関の方からアヴィー先生を呼ぶ声がした。

 慌ててアヴィー先生が玄関を開ける。


「どうしたの!?」

「先生! 教会の子供達が寝込んじまって! 見てくれよ!」

「なんですって!? 分かったわ、直ぐに行くわ!」

「おう! 頼んだぜ!」


 何か大事になりそうだ。


「アヴィー先生、俺達も行きますか?」

「そうね……ハルちゃん聖属性魔法は使えるの?」

「うん、使えりゅ」

「ああ、でも感染したら……」

「ばーちゃん、らいじょぶら。おりぇも一緒に行く」

「ハルちゃん……でもね、あなたはまだ小さいから……」

「ばーちゃん、おりぇ聖属性魔法も使えりゅし精霊眼もありゅ。役に立ちゅじょ」

「ハルちゃん……ありがとう。じゃあ布で口と鼻を覆いましょう。もちろんリヒト達もよ」

「分かった」

「店に寄ってニークも連れて行くわ。ミーレ、ルシカ店番を頼める? イオスはついて来てくれるかしら。連絡係をお願いね」

「アヴィー先生! 自分も行く! 雑用ならできるで!」

「カエデちゃん、あなたもまだ子供だから……」

「なんでやねん! ハルちゃんが行くなら自分も行くで!」

「カエデちゃん、ありがとう」


 と、言う事で教会に向かうのが……

 アヴィー先生、ニーク、リヒト、ハル、イオス、カエデ。

 店番が、ミーレとルシカ。連絡して直ぐ薬湯作りに入れる様、ルシカが店で待機だ。


 教会はアヴィー先生の自宅から通りを2つ程過ぎたところにあった。アヴィー先生の自宅から徒歩ではなく馬車で移動する。馬車でほんの数分の距離だ。

 ハルの前世で言うと同じ町内だけど◯丁目が違う距離感か。

 教会の裏側には畑や鶏小屋があり、そこから隣の街区に入るともうスラムだ。

 この地区一帯に子爵は立ち退きを要求している。


「先生! ニーク! 昨日の夜から熱が出だして、今日はもう手足が動かないみたいなんです!」


 シスター姿の女性が走りながら状況を伝えてくる。これは、軽くテンパっているな。


「ノン、落ち着きなさい! 誰が熱を出したの?」

「先生! 子供達全員なんです!」

「全員!? いくらなんでもそんな事!」

「アヴィー先生、とにかく見てみましょう」

「リヒト、そうね。ああ、彼女はこの教会のシスターでノンノルーナ、ノンよ。子供達の面倒も見てくれているの。ノン、紹介するわ。リヒトにイオス、カエデちゃんよ。それから私の曽孫のハルちゃん。宜しくね」

「先生……ひ、ひまご……!?」

「ばーちゃん、ちびっ子はろこら?」

「ノン、みんなは部屋かしら?」

「あ、はい! お部屋で寝ています!」

「そう、みんなこっちよ」


 アヴィー先生とシスターのノンについて移動する。決して立派とは言えない教会。礼拝堂の長椅子にも年季が入っている。

 子供達の部屋は教会の1番奥、裏口から出て直ぐの場所に建っている建物だった。

 小さな子供達が皆並んだベッドで寝ている。熱も高いのだろう。辛そうだ。


「先生、みんな同じ症状なんです。発熱し出した時は風邪かと思っていたのですが、今朝になって手足が動かないと言い出して……」

「りひと……」

「ああ。最近見た症状と同じだな」

「ん……」


 リヒトとハルの瞳がゴールドに光っている。


「イオス、パーピをルシカに飛ばしてくれ。最近作った解毒と浄化の薬湯を頼むと」

「了解ッス。俺も店に向かう方がいいですか?」

「いおしゅ、きりぇいな水も欲しい」

「ハル、了解だ」

「あ、りゅしかの粥も欲しい」

「ハルちゃん、粥は自分が作ってくるわ。ルシカ兄さんには薬湯を作ってもらわんと」

「ん……かえれ、お願い。ここの水は使っちゃらめ」

「ほな、自分もイオス兄さんと店に行く方がいいか?」

「カエデちゃん、私の家の方が色々が揃ってるわ。ニークを連れてって手伝わせて。市場に寄って行く方がいいわ」

「カエデ、ニーク、馬車を使え」

「アヴィー先生、リヒト様、分かった。ほな、ニークさん頼むわ」

「はい、市場に寄って戻りましょう」


 イオスは店へ。カエデとニークは市場経由で先生の自宅へと急ぐ。


「リヒト、ハルちゃん。もう分かっているのね?」

「先生、ここに来る途中の村で同じ症状の村人達を治療したんだ」

「そうなの!?」


 リヒトが、オリジ村とオリージャ湖での事を話す。


「なんなのそれは……!?」

「さっき、俺も鑑定眼で見たし、ハルも精霊眼で確認した。同じだった」

「ん……」

「リヒト、じゃあこの教会が使っている水源にそのクラゲがいるって事?」

「そうです。水源て言うか……ここの水は井戸か?」

「は、はい。教会の裏にあります」

「りひと……」

「ああ。先生、ルシカの薬湯が届いたらそれを飲ませて下さい。俺とハルは井戸を見てくる」

「リヒト、それが本当なら……普通は井戸にクラゲなんている筈ないわ……危険よ」

「アヴィー先生、大丈夫だ。俺もハルも強い。コハルもいる」

「ん、ばーちゃん、らいじょうぶら。おりぇもう光っちゃったりしないかりゃ」


 へへん、と自慢気なハル。


「アハハハ! だな!」

「もう、ハルちゃんたら可愛いんだから。でも、気をつけるのよ。リヒト、お願いね」


 ハルはリヒトに抱っこされて、教会の裏手にある井戸へと向かう。


「りひと、畑の作物も枯りぇてりゅ」

「ああ、全く一緒だな」

「れも、なんれ子供らけ……?」

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