第63話 解毒と浄化

 例の伯爵令嬢を送り届ける為に出発する迄の間、毎日毎日1日中ハルはリヒトの母や長老と一緒にいた。その時に色々教わったらしい。ただ遊んでいる様にも見えたが。


「かーしゃまとじーちゃんが色々教えてくりぇた。めちゃ楽しかったんら」

「そうですか。素晴らしい先生方ですね」

「ん。りゅしか、おりぇが小瓶にうちゅしゅ」

「はい、お願いします。魔力操作が随分と上手になりましたね。でもハル、光ってますね」

「しょーがないんら! 光ってしまうんら」

「アハハハ。まあ、馬車の中ですから大丈夫でしょう」

「うん。りゅしか、腹へった」

「おやおや。これができたら食事にしますか?」

「うん。りゅしか、いっぱいありゅ?」

「ありますよ? 沢山食べるのですか?」

「村の人達にも食べしゃしぇてあげたい」

「ハルは本当に良い子ですね」

「らって、りゅしかの飯は超美味い」

「アハハハ。ありがとうございます。リヒト様に相談してみましょうね」

「ん……れきた!」

「はい、ありがとうございます」


 ルシカとハルが馬車から出てきた。ルシカは薬湯の入った小瓶が沢山並んだ木箱をを持っていた。


「じゃあ、もう暫く待っていて下さい。カエデ、ハルを頼みますよ」

「おう! ルシカ兄さん、任せてや」


 ルシカがまた村長の家へと入って行く。


「ルシカ、もうできたのか!?」

「ええ。ハルが起きていたので手伝ってくれました」

「ハルが? いつの間にそんな事が出来る様になったんだ?」

「長老と奥様が先生だそうですよ」

「げッ……超英才教育じゃねーか」

「フフフ、ハルはお利口ですしね。リヒト様、これを試して下さい」

「おう」


 ルシカが持って来た小瓶に入った薬湯を、村長の息子に飲ませる。息子の身体がブワンと一瞬光を放った。


「どうだ? まだ辛いか?」


 リヒトが声を掛ける。


「リヒト様、ヒールを」

「分かった。ヒール……」


 リヒトが村長の息子に手を翳すと、白い光が息子の身体を包み消えていった。


「あ……信じられない……動く!」


 息子がゆっくりと手を動かしている。


「効いて良かったな。体力も無くなっているから暫くは安静にな」

「あ……あ! ありがとうございます! なんとお礼を言えば良いのか!」

「村長、先に薬湯を他の者にも飲ませてくれ」


 リヒトがそう言うと、ルシカが村長に薬湯の小瓶が入った木箱を渡す。


「足りますか?」

「はい、はい! 充分です!」


 村長が足早に部屋を出て行った。

 村長の息子がリヒトに話しかける。


「あの……エルフ族の方ですか?」

「ああ、そうだ。村を通り掛かったら引き止められてな」

「そうでしたか。ご迷惑お掛けしてすみません。本当に助かりました。ありがとうございます」


 ベッドから身体を起こそうとする。リヒト達に頭を下げたいのだろう。命を救ってもらったのだから。だが、リヒトがそれを止める。


「そのまま、起きない方がいい。何日も食べていないのだろう?」

「はい、村の者は皆そうです。もう食料を買う金もなくて。俺はもう死ぬんだと思ってました」

「そうか。もう大丈夫だ。すぐに起きられる様になる。ルシカ……」

「はい、ハルがお腹が空いたと言ってます。沢山作れないかと」

「アハハハ、ハルには敵わないな!」

「はい。構いませんか?」

「もちろんだ。消化の良い物にしてくれ」

「はい、分かりました」


 それから村長が家々に解毒薬を配り、ルシカが作ったリゾットを村人達に振る舞う。ハルとカエデはリゾットにウサギの肉を焼いてのせてもらって上機嫌だ。


「りゅしか、ポーションも作っておいたんら」

「ハル、ありがとう。助かりますよ」

「ん、れも暫く安静らな」

「そうですね」


 またルシカがハルが作ったポーションを持って村長の家に行く。


「ハル、いつの間にそんなの作れる様になってたの?」

「みーりぇ、かーしゃまとじーちゃんに教わったんら」

「ああ、あの時ね。そんなお勉強をしているとは思わなかったわ」

「しょうか? 楽しかったじょ」

「え! ハルちゃん勉強が楽しいん?」

「ん、かーしゃまもじーちゃんも教えりゅの上手らからな」

「あかんわ、自分には理解でけへんわ」

「かえれも勉強してみたりゃいい」

「えぇー、いいわ」

「そう言えばカエデ、字は書けるの?」

「ミーレ姉さん、読めるで」

「だから、書けるの?」

「だから、読めるって」


 ああ、これは……読めるが書けない、てヤツか……


「カエデ、読み書きはできなきゃ」

「そんなん言うけど、自分孤児で奴隷やってんで。どこにそんな時間もお金もあるねんな。まだ独学で読める様になっただけ褒めてほしいわ」


 そうか……孤児だったカエデを、あの街を拠点としていた人攫い集団の頭が奴隷にしたのだ。その割に、料理はよく覚えていたものだ。


「ああ、自分昼間は近所の食堂で働かされとってん。頭がオーナーやったんやけどな。あの集団の賄いも兼ねて手伝わされててん。そこで覚えたんや」

「カエデ、偉いわ。それでよくあれだけ作れる様になったわね。尊敬しちゃうわ」


 そうだ。ミーレは料理ができない。どちらかと言うと不器用だ。適当なんだ。


「かえれ、きっと勉強したりゃ直ぐに字も書けりゅようになりゅ」

「ハルちゃん、そう思う?」

「ん、かえれは地頭がわりゅくないと思う」

「なんて? 地頭?」

「ん、元々考えりゅ力はありゅんらよ」

「そっか……そうか」

「ん、おりぇ教えりゅ?」

「ほんまか!? ハルちゃんに教わったら出来そうな気がするわ!」


 そんな事はない。カエデの努力次第だ。

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