第62話 オリジ村のオリージャ湖

 リヒト達一行は村人に案内されて村長の家へとやってきた。リヒトとルシカが話を聞き、ミーレとイオスはまだ昼寝中のハルとカエデが乗る馬車の側で待機だ。


「ご無理を申してすみません。私はこのオリジ村の村長をしております。お茶でもお出ししたいのですが、何分水が不足しとりまして」

「お気遣いは無用です。村人の命に関わる話と言うのは、その水の事ですか?」

「はい、そうなのです」


 村長の話によると……

 村には井戸ではなく近くのオリージャ湖から引いてきた水路があるそうだ。その湖は然程大きくないが、水源としてだけでなく食用の水草や魚が取れて村の糧になっていたそうだ。

 それが先月位から魚が取れなくなり、水草が腐り出し畑の作物まで枯れだした。村人の中には、発熱に加え翌日には手足の感覚がなくなり動かなくなる者が出た。

 状況から見ても原因はオリージャ湖の水だと村長達は予測をたて領主に相談をしに行った。しかし、まともに取り合ってもらえず、調査もしてもらえないと言う事らしい。


「小さな村ですので、領主様は面倒事を言ってくるなとでも思っているのでしょう。領主と言っても伯爵にこの辺りの村を任された男爵ですから。村人全員で隣村まで水を貰いに行き、金を出し合って食料を買っておりました。しかし、それももう尽きてしまいます。このままだと村人は死を待つしかありません。もう、村を捨てて何処かに移り住むしかないと思案しておった次第です」

「なるほど……」

「もしも可能でしたら、湖を見ては頂けませんか? エルフ族の方々は我々ヒューマン族にはない能力をお持ちだと聞いております。どうか、お助け頂けませんか?」


 年老いた村長と、案内してきた村人が頭を下げる。


「我々も万能ではない。必ずしも手助けできるとは約束できないが、それでも良いのか?」

「はい! はい、もちろんでございます! 勝手な願いを聞いて頂き感謝致します!」

「いや、それはまだ早い。本当に我々に何ができるか分からないからな。取り敢えず、その手足が動かないと訴えている村人に会わせてもらえるか?」

「畏まりました」


 そう言って村長は家の奥へと案内する。


「村長……?」

「私の息子です。オリージャ湖で漁をしていた息子の症状が1番重いのです。手足が動かないばかりか、起きていられなくなってしまいました」


 起きていられない程の症状。水自体が変質してしまったのだろうか?

 案内された奥の暗い部屋に男性が寝かされいた。顔色も悪く痩せている。意識はある様だ。薄く目を開けている。


「見せてもらおう」


 リヒトの瞳が金色に光った。


「これは……毒だ」

「なんと! 毒ですか!?」

「ああ、何の毒だか分からないが……原因はやはりそのオリージャ湖だろうな。ルシカ、解毒薬を作れるか?」

「はい、念の為材料はたくさん持っておりますから。リヒト様のアンチドーテでは無理なのですか?」

「多分だが、アンチドーテだけでは無理だ。浄化も必要だ。他にも症状の出ている人が何人もいるなら薬の方が早い」

「なるほど、解毒と浄化ですね。直ぐに作りましょう」


 ルシカが薬を作る為に村長の家を出ると、ハルとカエデが起きていた。


「りゅしか、なんらったんら?」

「近くの湖が原因らしいのですが、村人に発熱と手足の動かなくなる者が出ているのです。リヒト様の鑑定では、解毒と浄化が必要らしいのでこれから薬を作ります」

「ん、おりぇも見ていいか?」

「ええ、構いませんよ。イオス、馬車を借りますよ」


 ルシカが馬車に入っていく。ハルが後をついていく。その後をカエデも付いて行く。


「かえれ、外にいて」

「なんでやねん。ハルちゃんが行くなら自分も行くし」

「ん、ちょっと邪魔らから」

「うわ、ヒド!」

「カエデ、馬車狭いからな。カエデは俺やミーレと一緒に外で警備だ」

「イオス兄さん、分かったわ」


 さて、馬車の中にいるルシカとハル。


「私は薬湯を作るのはあまり得意ではないのですよ」

「え、りゅしか。マジ?」

「はい、何せ奥様に教わった程度ですから」

「かーしゃまに? おりぇもかーしゃまに教わったじょ」

「おや、何を教わりましたか?」

「解毒薬なら作りぇりゅじょ」

「それは素晴らしい。ハル、今回はその解毒薬にですね……」


 と、ルシカに説明を受け教わるハル。


「ふんふん。なりゃりゅしか、この時に浄化作用のありゅ薬草を……」


 お、ハル。もう理解しているのか?


「なるほど、それなら手間が省けますね。いい考えです。ハルは沢山勉強していたのですね」

「ふふん、しょんな事ないじょ。エヘヘ」


 おや、ハルがデレている。

 さて、エルフ族の調薬方法だが……

 ヒューマン族がする様な薬草をゴリゴリすり潰して加えて等という調薬方法ではない。どちらかと言うと錬金術に近い。

 薬草から作るのは同じだが、エルフ族は精霊の力を借りる事ができる。必要な薬草の成分を精霊魔法で抽出し合わせていくのだ。ヒューマン族が見ると、何が起こっているのか理解できない事だろう。

 薬草が忽ち液体になりガラス容器に入っていくのだ。理解不能だろう。


「りゅしか、手伝う」

「はい、お願いしますね」


 ハル、そんな事も出来る様になっていたのか。てっきり、毎日リヒトの母や長老と一緒に遊んでいるだけかと思っていたぞ。

 毎日、ウフフ……アハハ……と楽しそうだったが勉強もしていたのか。

 

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