第60話 カエデも仲間だ
「ふんふんふ〜ん♪
カンペキじゃ〜ん♪
自分のお名前はカエデちゃ〜ん♪
なかなか可愛いお名前じゃ〜ん♪」
朝まだリヒト達は誰も起きていない時間に、カエデがもう起きていてエプロンをつけている。その上、自作の歌まで歌い出している。一応、韻を踏んでいるのか?
とにかく超ご機嫌だ。ハルに名前を付けてもらったのも嬉しいらしい。可愛いやつだ。
「カエデ? 何をしているのですか?」
お、1番最初にルシカが起きてきた。
「ルシカ兄さん! おはよー!」
「これは……まさかカエデが1人で用意したのですか? 全部?」
「はいにゃ! 自分、料理も掃除も得意なんや! 宿の調理場借りて作ってん! どーよ!」
宿屋は街で1番の宿屋らしく、リビングがあって別に寝室が3部屋も付いている。まるでスイートルームだ。
そのリビングのテーブルに、ピシッと皺一つなくかけられたテーブルクロス。小さな花も飾られている。
テーブルの上には、いつでも食べ始められる様にカトラリーがセットされている。
テーブル横のワゴンには、スープやサラダにフワフワの卵サンド。冷めない様にとスープの鍋は保温用の魔道具にのせてある。
「兄さん達エルフやからな、朝からいきなり肉出してもいいんか分からんかったから卵サンドにしたんや」
「いや、カエデ。この街に来る途中で焼いた肉を……」
「あん時自分はルシカ兄さんが作ってくれたリゾットやったんや」
「ああ、そうでしたね。肉や魚、なんでも食べますよ」
「そうなんや! よし、じゃあ次は肉料理にするかな!」
いや、その後一緒に食べていなかったか? 『超美味い!』とか言っていただろう?
「おはよう、ルシカどうしたの?」
「んー、おはよう」
「ルシカ、どした?」
「ん〜……ふわぁ〜」
ミーレ、イオス、リヒトと次々と起きてきて、最後にハルが大きな欠伸をしながら起きてきた。
「カエデ、スゲーな」
「ふふん、イオス兄さん、ありがとぉー」
「マジ、スゲーじゃん」
「リヒト様、ありがとう!」
「ん、うましょうりゃ」
「ハルちゃん、寝起きはより一層何言うてんか分からんなぁ〜」
「やだ……マジ!?」
「ミーレ……」
「何よ、ルシカ!」
覚えておられるだろうか? ミーレは料理も掃除も駄目だ。超苦手だ。辛うじて、洗濯だけはできる。まだ10歳のカエデがまさかこんなに出来るとは……
「食べゆ!」
「おう! ハルちゃん食べて食べて! 沢山食べて大っきくなるんやでー」
そんな事を言いながら、ハルを抱き上げ椅子に座らせる。
「カエデ。お前も一緒に食べるんだよ」
「え……いやいや、リヒト様。自分は後で」
「一緒に食うんだよ。みんな一緒に同じものをな。もう奴隷じゃねーんだ。ほら座れ」
リヒトにそう言われて、カエデは空いた椅子におずおずと座る。
「いたらきまーしゅ!」
「ハル、またあたちを忘れてるなのれす!」
「あ、コハル。食べな。カエデが作ったんらって」
ハルがパクッと卵サンドを食べる。コハルも齧り付いている。ほっぺがぷっくりと膨れている。
「うん、美味いな!」
「ええ、リヒト様。美味しいですね」
「ふわふわら!」
「美味しいなのれす」
皆が食べ出した。それを涙目で見ていたカエデ。
「アハハハ! いっぱい食べてやー!」
自分も食べながら、嬉しそうだ。カエデも皆の仲間だ。これからはきっとリヒト達エルフに可愛がられて直ぐにガリガリではなくなるだろう。もう、辛い思いも、やりたくない事をしなくていいんだ。もちろん、寂しくもなくなるだろう。
これからは、カエデも一緒に食べるんだ。
「まさか、カエデがこんなに出来るとは思いませんでしたね」
「ああ、ルシカ。マジな」
「料理も掃除も任してや! 自分チビやからな、人攫いより賄いとか掃除とかやらされててん。だからルシカ兄さん、自分役に立つで」
「ええ、お願いしますね」
「れも、りゅしかも料理じょうじゅ。超うまい」
「そうや。ルシカ兄さんが作ってくれたリゾットは忘れられへんわ。色々教えてもらわんと」
「カエデ、良い子ですね」
「やめてや、ちびっ子みたいやん」
いや、立派なちびっ子だ。
さて、カエデの作った朝食を食べて皆のんびりとしている。ハルは2度寝か? 力が抜けた状態でソファーに座り、目がトロンとしている。昨日は疲れたか? 攫われている間はずっとお昼寝していた筈だが。
「リヒト様、どうしますか? もう出立してもいいでしょう?」
「そうだな、また巻き込まれないうちにな」
そんな話をすると、きっと奴がやって来る。フラグが立ってしまう。
――コンコン
「うわ、嫌な予感」
リヒト、その予感は鋭い。
「おはようございます!」
あー、やっぱりだ。来ちゃったよ。令嬢だよ。即フラグ回収だ。
「ハルちゃん! おはよう!」
「ん……おはよ」
「今日は街を案内しようかと思って!」
「あー、いいれーしゅ」
「ハルちゃん! そんな事言わないで!」
「なんだ? えらい違ってないか? ハルちゃんて……」
「リヒト様、あれからハルに懐いてしまって」
「イオス、そうなのか?」
「はい。ハルのお陰で、拗らせていたのが吹っ切れたそうで」
「そうか……そんな事言ってたな」
やっかいな令嬢を更生させ、懐かせてしまうか。
ハル自身は大した事をした意識は全くない。実際、別に大した事はしていない。ただ、きっかけだ。ハルはきっかけを与えたんだ。それまで、ルシカに根気よく説明してもらい、道中のハルを見て感じ考えたのは令嬢自身だ。
「ハル、昼食べてから出立しよう。それまで少し案内してもらうか?」
「ん、りひと」
「もう、行っちゃうのですか?」
「ああ。この街には君を送り届けるだけだったからな。この後、公都に向かうんだ」
「そうなのね……ハルちゃん、寂しいわ」
「ん……また会えりゅ。それまれにちゃんと賢い令嬢になってりゅんら」
「ええ、ハルちゃん!」
それから、令嬢とハル達は少しだけ街に出た。まだ令嬢の印象は悪い。令嬢が近付くと街の人達は、皆避けていく。関わりたくないのだろう。これが現実だ。
「頑張りゅんらよ」
「うん、ハルちゃん」
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