第15話 どっちが大人?
昔、リヒトがまだ産まれる前、ずっとずっと昔の事だ。
ヒューマン族の密猟者達がユニコーンの角を狙って乱獲した。それを阻止し密猟者達を捕まえ、絶滅寸前だったユニコーン達を保護し、繁殖を手助けしたのがエルフ族だった。
それ以来、ユニコーンはエルフ族以外の種族には背中を許さなくなった。
「ヒューマンて欲深いんら」
「そうだな。他の種族にも欲深い奴はいるだろうが、なんせヒューマンは種族自体の数が1番多い。だから、目立つんだな」
「ヒューマンが1番多いのか? えりゅふはちょうめいしゅなのに違うのか?」
「違うぞ。ヒューマン族は繁殖力がエルフ族より強いんだ。寿命が短いからそうなんじゃないかと言われている」
「じゃあ、ひゅーまんの次は?」
「獣人だ。次がドワーフとエルフが同じ位だな。竜族のドラゴンはかなり希少で、エルフ族よりもずっと長生きだ。ああ、ただ人魚族の数は明らかではないんだ。なんせあいつらは海の中に住んでいるからな。アハハハ」
其々の種族の国の事は聞いていたが、人間のみの世界から来たハルにとっては想像も出来ない事だった。ドラゴンがいて人魚がいて獣人もいる。しかも、魔法が使える世界だ。正にファンタジーそのものだ。
「りひと、だりぇれれも魔法が使えんのか?」
「そんな事はないぞ。エルフは精霊魔法を使うから1番魔法に秀でている種族だけどな、ヒューマン族だと全く使えない者も多いし、使えたとしても大した事はない。どうした?」
ハルが考え込んでいる様だ。
「おりぇ、使ったこちょねー」
「あー、ハルの場合はあれだ。使い方を知らないだけだろ。なんせ亜空間持ちなんだからな。亜空間は魔力量が一定以上ないと使えないんだ」
「しょっか……」
「確かに魔法が使えると便利だし、戦いには有利だけどな。使えないと生きていけない訳じゃない。気にすんな」
リヒトは一応励ましたつもりらしい。しかし、ハルはまだ考え込んでいる。
「おりぇ……」
「ん? どした?」
「おりぇ、なんも知りゃねー……」
「何言ってんだ。まだまだちびっ子じゃねーか。知らなくて当然なんだよ。つい最近産まれたばっかの奴が何言ってんだ」
つい最近とは……確かについ数日前にこの世界に落ちてきたんだが、その前は違う世界で20年生きた。
それを、正直に話して良いものなのかどうか……ハルは決めかねている。
「やっぱ……会ってみりゅか……」
「ん? 何だって?」
「りひと達にくりゃべたりゃ、おりぇはちびっ子らけろ……れも、おりぇは知りたい。自分が何なのか、ここがろんな世界なのか……」
「そうか」
リヒトが、次のハルの言葉を待つ。急かさずに、ハルが気持ちを整理できるように……
ハルの言葉で聞きたい。と、じっと待つ。
「おりぇ……知りゃない事だりゃけれ自分れは決めりゃんねー。らから……ちょうりょうに会いに行く。りひと、ちゅれてってくりぇ。えりゅふのちょうりょうに会わせてくりぇ」
「いいのか?」
「ん。おりぇには師匠が必要ら」
「ブハハッ、師匠か! よし! ハル、行こう!」
リヒトが思わずハルを抱き上げた。
「まだ、もう少し体力を回復してからですよ」
「りゅしか!」
なんだ、いたのかよ。聞いていたのかよ。
「ハルは賢い子ですから、必ずそう言うと思っていましたよ。自分を知る事がまず第一歩ですからね」
おいおい。途中から出てきてカッコいいとこ持っていくなよ。と、きっとリヒトは思っている。
「りゅしか、ありがちょ。やっぱりゅしかは頼りになりゅな」
ほら見ろ。こうなると思ったんだ。ルシカのいいとこ取りだ。
この日からハルは、ベースの皆に甘やかされ大事にされ体力を回復させる事に専念した。
ハルがエルフ族の長老に会う決心をしてから、ずっとリヒトはハルを連れ歩いていた。
最初は警戒をしていたハルも、もう慣れたものだ。なかなかいいコンビに育っている。
225歳と、もうすぐ3歳のコンビってどうなんだ?
ベースの中をちびっ子のハルがタッタッタッタッとかけていく。1階からリヒトの執務室のある3階まで元気よく走っていく。階段は1段ずつヨイショと登っていてちびっ子特有の危なっかしさはあるものの、すっかり元気になって既にベースの中では自由に動きまわっている。
あれから10日程経っただろうか。来たばかりの頃に感じた不安定さはもうない。
「りひと!」
バンッ! とドアを開ける。
「サボってないれ今日は片付けてしまわないと! りひとのしゃいん(サイン)待ちらぞ!」
「ハル、分かってるって」
「らって、ろんろん書類がたまってくじゃねーか」
どうやら、リヒトはちゃんと仕事をしろとハルに怒られているらしい。225歳が、3歳にもまだなっていないちびっ子にだ。リヒト、お前はそれでいいのか?
「ハル、先に飯だ!」
「おう! りゅしかの飯ら!」
飯は意見が合うんだ。食い気には勝てないんだな。2人して2階の食堂へと降りていく。
「ハル、すみませんね。リヒト様のお目付役を任せてしまって」
「りゅしか、気にしゅんな」
一丁前な言い方だ。ちびっ子なのに。
「ありがとう。ボア肉と角兎肉と選べますが、どっちにしますか?」
「角うしゃぎ!」
「ピルルル」
コハルが、自分もと出てきた。
「俺、ボア」
「はい。お待ち下さいね」
リヒトとハル、2人してコクコクと頷いている。
2人共、目が楽しみだと言っている。早く食べたいとも言っている。
コハルは……表情が分からない。リスだから。
「りひとはもうちょっと落ちちゅけよな」
「何言ってんだ。俺ほど落ち着いた男はいねーだろうよ」
ハルがしらけた目で見ている。
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